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鄙島人形供養の段  作者: さわみずのあん


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一段目

 二月二十四日。

 Q本県、A蘇カルデラ、第五休火山丘上、Q州化工大学、鹿児山キャンパス、第三講義堂。

 八面スライド黒板を背にし、試験監督が受験生を見渡し、開始前の最後のセリフを読み上げる。

「それでは、チャイムが鳴りましたら、解答を開始指定してください」

 台本を教卓に置く音。

 振動の減衰。

 きんと張り詰める空気を、静かに温める暖房の音が聞こえてくる。

 講堂のスピーカからチャイム。

 大学内にあるチャペルの鐘の音。

 リーーーーーーーンという、低い音の上を、ゴーン、シャーンと、高い音が滑ってゆく。

 問題用紙をめくる音。

 誰かが咳をして、つられて、咳をして。

 黒鉛の弾ける、音、音、音。


 おっといけない。

 僕は腕組みを解いて、目を開ける。

 眼前眼下に広がる受験生達を、僕は眺める。

 この講堂で一番高い場所。

 教卓を中心に、階段上に広がる扇の、弧の中心。

 最高の上座に座りながら。

 ほほほ、頑張っておるわい。

 僕はこの大学にストレートで合格し、3年前期の時点で卒論も提出。卒業確定済み。

 合否未確定の猊下の下々より、遥か、彼方、上の人間なのだ。

 ひかえおろう、下民ども。

 見下すために、見上げる。

 背もたれに大きく体重をかけると。

 キィ。

 体角度120度。

 3分の2πで停止する。

 ゆっくり。ゆっくり。

 半径と角速度を一定に、背骨をy軸に向け回転させる。

 座面に乗った腿を底辺として、高さ座高の、1対2対ルート3の直角二等辺三角形に僕はなる。

 まずい。このパイプ椅子。

 思ったよりも大きな音が出るタイプだ。

 ネジかボルトかスプリングか。

 今、面接官が目の前に現れたら、僕はこう言う。

 私は潤滑油になりたいです。と。

 もしくは、錆止め、パーツクリーナー。

 六角レンチとドライバーセットだ。

 はーあ。

 腕時計を、ちらと見る。

 五分。

 も。

 経って。

 いない。

 この時間の体感速度で、120分?

 上座部仏教で悟り開くわ。

 うわー、体動かしてー。

 誰か鉛筆落とせ。

 消しゴム落ちろ。

 落ちろ落ちろ落ちろ落ちろ。


 リゴーンシャーンン。

 チャイム。

 鐘の音。

 ゴングが鳴った。

 1R120分。KO。

 そして、また、120分後。

 次のラウンドは、150分。

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