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修学旅行・1

 10月上旬、八神家のリビング。


 ソファに座る恭に、あやめは「へっへっへ」と無気味に笑いながら近づく。


「明日から修学旅行だね、恭君」


 この前ふりだけで姉の狙いを看破した弟はジト目で言う。


「また土産の要求だろ」

「流石は弟、話が早い。沖縄に行くなら紅芋タルトとかサーターアンダギーとか、美味しそうなものを買って来てくれ」

「自分は去年、工芸体験で作った変なシーサーを寄越したくせに」


 恨めし気な恭に、あやめは何食わぬ顔で返す。


「シーサーは魔除け厄除けの縁起物なんだぞ? さらにお姉ちゃんが恭のために心を込めて作ったから、きっと通常よりご利益アップだ。要らないものみたいに言わないで欲しい」

「じゃあ、俺も工芸体験でお前のためにシーサーを作って来るから、ありがたく受け取れよ」


 弟の意趣返しを、姉は「えっ、やだ」と即座に拒否する。


「学校で作った工作なんてゴミにしかならんだろ。そんなのありがたく受け取ってくれるのは母さんくらいだぞ」

「やっぱ不用品を寄越したんじゃねぇか。絶対お前にも作って来るからな」


 このままじゃお菓子を買ってもらえないと思ったあやめは、少し譲歩することにした。


「分かった。じゃあ、シーサーは作って来ていいから。それはそれとしてお菓子も頼む」

「……まぁ、お前も去年ちんすこうを買って来たし、家族用に1箱ならいいけど」


 しぶしぶ許可する弟に、姉は「やった!」と顔を輝かせて改めてリクエストする。


「紅芋タルトかサーターアンダギーね! 後どうせシーサーを作るなら仕事運重視で頼む!」

「なんだ? 仕事運重視って。魔除け厄除けの縁起物じゃなかったのか?」

「私が作ったところでは、色で意味が変わると言ってた」


 あやめが行った工芸体験は、着色前のシーサーを選び、好きな色を塗るというものだった。


 店には色によって、この運気が上がるという表があり、あやめはそれを参考に色を決めた。


「じゃあ、去年お前が作ったのも、何か意味があったの?」

「ちゃんと恭に良さそうなのを選んだぞ。でも1年も前のことだし、どんな意味かは忘れちゃった」

「適当なヤツ」


 白い目で見る恭に、あやめは半笑いで返す。


「いいじゃん。お前だって、どうせもう捨てただろ?」

「捨ててはないけど、どっか行った」

「それを捨てたって言うんだぜ。あ~あ、お姉ちゃんの厚意を無碍(むげ)にした恭にはシーサーの祟りがある~」

「自分もゴミって言ってたくせに」


 リビングでダラダラとバラエティを見るあやめを残して、自室に戻った恭はクローゼットから箱を取り出した。


 そこには過去に、あやめにもらったものを入れてある。しかしそれらはマトモなプレゼントではなく、だいたい姉が学校で作って来たものだ。普段使いには到底できないガラクタだから、適当に箱に突っ込んである。


 確かシーサーもここに入れたはずと箱の中を探す。


「あった」


 口を開けた小さなシーサーは、赤と青で着色されていた。意味があると知らなかった恭は、微妙な出来だから自分に寄越したのだろうと思っていた。


 しかしスマホで意味を調べると、赤は仕事運、闘争心、健康運。


 青は誠実さ、冷静沈着、勝負運という意味だと書いてあった。


 恭は学生で仕事はしていないので、赤は闘争心と健康運。青は勝負運と冷静沈着の意味で選んだのだろう。


 毎年、武道の神様にお参りして、お守りを買ってくれるのと同じ。恭が武道をがんばれるように。


「……ちゃんと意味があったのか」


 3日後、沖縄の空港。他のクラスの生徒とともにロビーに集まった陽太はニッコニコで述べる。


「へへ~っ、待ちに待った就学旅行! 沖縄は10月でも泳げるらしいから、2日目は海で女子の水着姿も見られる! 楽しみだね、恭!」

「マリンスポーツ体験は楽しみだけど、水着は別に」


 サラッと流す恭に、同じ班の槇が「相変わらずクールだな」と苦笑いで尋ねる。


「陽太じゃないけど、俺たちはクラスでいちばん可愛い女子たちと一緒の班になったのに。少しも楽しみじゃない?」

「それ楽しみじゃないって言うと、流石に相手に悪いだろ……」


 やはり女子に興味は無いらしい恭に、今度は陽太が「テンション低いなぁ」と呆れながら問う。


「恭は修学旅行で、何か楽しみにしてることは無いの?」

「楽しみって言うと語弊(ごへい)があるけど、3日目の工芸体験は絶対にシーサーを作る」


 恭の謎の意気込みに、槇は不可解そうに疑問を口にする。


「なんでそんなにシーサーにこだわってんの? もしかして恭も、あのジンクスを信じてるのか?」

「何? あのジンクスって?」


 恭の質問に、槇はジンクスについて説明した。


「先輩に聞いたんだけど、シーサーには雌雄(しゆう)があって、口を閉じているのと開いているので一対なんだって。だから手作りのシーサーを好きな人と交換すると、シーサーがペアになろうと持ち主をくっつけるんだってさ」

「何それ知らねぇ。本当の話?」


 恭に問われるも、槇も噂で聞いただけなので「さぁ?」と首を傾げながら話を続ける。


「ただ先輩たちの代は彼女や友だちと手作りのシーサーを交換して、けっこう盛り上がったらしい」

「ええっ! いいな! そんな素敵なジンクスがあるなら俺もシーサー作りたい!」

「彼女もいないのに誰と交換するんだよ」


 恭の冷ややかなツッコみに、陽太はショックを受けて大袈裟に喚く。


「恭が酷いことを言う! 逆に手作りシーサーで愛が芽生えるかもしれないじゃん!」

「俺だったら好きな子からならともかく、なんとも思ってない相手から、いきなり手作りのシーサーをもらうの、すげー微妙だけどな……」


 いつもは優しい槇にまで否定された陽太は「俺はすごくロマンチックだと思ったのに! 恋愛難しくない!?」と嘆いた。

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