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恭の好きなタイプ

 休み時間の恭の教室。この日は珍しく槇が休みだった。


 陽太は主のいない槇の席に代わりに陣取ると、恭にこんな話を振った。


「けっきょく恭って、どんな女の子がタイプなの?」

「なんだよ、急に」

「だって、どんなに人気のある女子に告白されても振っちゃうから。恭自身はどんな女の子がタイプなのかなって」

「急に聞かれても出て来ねぇよ」


 恭は鬱陶しそうに突っぱねたが、陽太は強引に質問を続ける。


「ロングヘアかショートヘアなら?」


 その問いに、恭は少し考えてから「……ショート」とボソッと答えた。


「長身か小柄なら?」

「長身」

「巨乳か貧乳なら?」

「教室の真ん中でセクハラやめろ」


 友人同士の他愛無い会話に、聞き耳を立てる者たちがいた。恭に多かれ少なかれ関心のある女子たちだ。


(お願い陽太! その調子で、もっと八神君の好みを聞き出して!)


 彼女たちの一念が通じたのか、陽太はさらにリサーチを続ける。


「じゃあ、女子にされてグッとくることは?」


 そのお題に、恭はあることを思い出して、こう答えた。


「質問の趣旨と違うかもしれないけど、普段は馬鹿なことばっかり言ってるヤツが、急に俺が知らないことを教えてくれると、頭いいなって、ちょっと見直す」

「へ~? 要するに恭は頭のいい子が好きなんだ?」

「頭がいいって言うか、自分の世界を持ってるヤツ」


 恭が自分の好みを表明するのははじめてだ。


 身長はどうしようもないが、髪型や行動なら今からでも変えられると、女子たちのやる気に火が付く。


「聞いた!? 八神君の好きなタイプ!」

「自分が知らないことを教えてくれる子に弱いんだって!」

「じゃあ、さっそく今日から色んな豆知識を八神君にアピールしようよ!」


 それから3日後の夜。恭は珍しく自分から、あやめの部屋を訪れた。


「なんか最近クラスの女子が、やたら俺に雑学ふって来る」


 うんざり顔で切り出す弟に「雑学って、どんな?」と姉が聞き返す。


「ボクシングの語源とか発祥とか、今日はなんの日だとか、どうでもいいこと」

「お前の気を引こうとしてるんじゃない?」


 あやめの推測に、恭は不可解そうに首を捻る。


「だとしても、なんで雑学?」

「お前がなんか言ったんじゃないの? 雑学にハマってるとか、物知りな女が好きだとか」

「そんなこと言うわけ……」


 恭は反射的に、あやめの推理を否定しかけたが、


「いや、言ったかもしれないわ。そんなこと」


 と陽太の質問に対する自分の返答を思い出した。


「良かったな、謎が解けて」

「何も良くねぇ……せっかく今まで静かだったのに、どうでもいいこと山ほど話しかけられて鬱陶しい」


 これまで攻めあぐねていた女子たちが、一気にアピールに出た結果だった。


 弱った様子の弟に、姉は魔女のように「ひひっ」と笑って申し出る。


「お姉ちゃんが助けてやろうか?」

「助けるって、どうやって?」

「偉大な姉が策を授けてやろう。明日、自分のクラスで、こう言ってみ」


 翌日。恭のクラス。


 弟は姉の助言に従って、半信半疑で陽太に切り出す。


「……この間お前に聞かれた女の好み、改めて考えてみたんだけど」

「えっ? 何々? どんな子が好きなの?」

「好きな人がいても自分からは話しかけられないような奥ゆかしい子が好きかもしれない」


 周囲の女子たちにも聞こえるように、新しい好みを表明した結果。


 その夜。八神家のリビング。


「嘘みたいに話しかけられなくなった」


 弟の報告に、姉はにぱーっと笑って返す。


「そうだろ、そうだろ。もともとお前に話しかけて来たのは、お前の好きなタイプに踊らされた連中だからな。別の命令を与えれば、それに従うって寸法よ」


 姉の種明かしに、弟は珍しく尊敬の眼差しで言う。


「お前こういう悪知恵だけはすごいな」

「機転って言って?」


 いつもはあやめに素直じゃない恭だが、お礼は言うべきだろうと不器用に口を開く。


「……助言ありがと」

「ふはは。賢いお姉ちゃんを尊敬するがよい」


 これでもかとソファーでふんぞり返る姉に、弟は「自分で言わなきゃ尊敬するのに」と呆れた。


 ところがあやめはこう訴える。


「私が謙虚だったら、お前が本当にリスペクトしちゃうだろが! お前がシスコンにならないように、あえて尊大に振る舞ってやってんだよ! 感謝しろよな、お姉ちゃんの好感度調整力に!」


 あながちそれは自惚れではなく、昔あやめがいいお姉ちゃんだった頃、恭は心から「お姉ちゃんはすごい」と尊敬していた。


 だから好感度を調整しているという姉に、弟はボソッと呟く。


「……全然調整できてねぇだろ」

「あ? なんだ? 低すぎるってこと?」

「そう」


 キッパリと肯定する恭の膝に、あやめは横からダイブして絡む。


「なんだよ~。助けてやったろうが~。もっと感謝して私を好きになれよ~」

「ウザいから無理」

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