五人の人影が道端に立ち止まっていた。
古月角三が穏やかな笑顔で方源に語りかける:「ほうげん君、今回の活躍には全員目を見張ったよ。君を組に誘んだのは正解だった。学堂を出たばかりだから分からないこともあるだろう?説明するぞ」
「第一に、家族任務は蛊師全員が月に最低1件達成しなければならない。達成数と質で評価が決まる」
「第二、任務は内務堂か外事堂から発布される。1度に1件しか受けられず、受諾したら必ず完遂せねばならん」
「第三、特別な事情があれば任務放棄も可能だ。だが評価は大きく下がる。二転蛊師のみ年1回の放棄権がある」
「第四、家族評価は前途を左右する最重要事項だ。高評価ほど将来が開ける」
方源は頷いた――既に熟知している内容だった。角三の説明に誤りはないが、肝心な情報が意図的に省かれている。
「腐泥凍土採取任務は完了した。次は野鹿捕獲任務だ。危険度低いから初心者の君に最適だ」角三が追加した。
方源は内心で冷笑しつつ口では答えた:「組長の配慮、感謝します」
古月空井が即座に続けた:「口先だけじゃなく実質的な感謝を示すべきだろ?組長を食事に招待するとかさ」
二人の女蛊師も同調した:「そうよそうよ、ほうげんちゃん。人間関係って大切なのよ。分からないこと食べながら教えてあげるわ」
古月角三がハハハと笑い、わざとらしく手を振る:「方源君を困らせるなよ。学堂を出たばかりで元石も乏しく、懐が寂しいんだから」
「そんなことないでしょ!?年末考査の優勝賞金だけでも百個の元石あるんでしょ?」女蛊師の一人がわざと声を張り上げ、嫉妬混じりの表情を見せた。「羨ましいわね~、私達にとっても百個は大金なのに」
「組長、それは方源君を見損なってるぜ」古月空井が朗らかに笑い、心底楽しんでいるように見せかけて続けた。「ほうげん君がそんなケチな奴なわけないだろ?そうだろ、君?」
もう一人の女蛊師が方源に近寄り、親密そうに囁いた:「方源ちゃん、親切心から言ってあげるわ。私達には気を使わなくてもいいけど、組長さんには絶対取り入る必要があるのよ。組員の評価の一部は組長が書き込むから。優秀だと書けば優秀だし、落第だと書けば落第なの」
「その通り!評価が良ければ上層部の目に留まる。キャリアを積めば、何年も楽ができるんだぜ!」空井が即座に同調した。
古月角三は終始笑みを浮かべながら見守っていた。
最後に手を振りながら、慈悲深そうな顔でにこやかに言った:「おいおい、余計なことを言うなよ。私の評価は公正で客観的だ。でも方源君、安心しなさい。新人の君を情況に応じて配慮するからね」
普通の少年なら、この連中の話にコロッと騙され感涙していただろう。新人の無知と未熟さにつけ込むのが常套手段だ。
だが方源の瞳は終始清冽で静かだった。
組長が組員の評価に関与するのは事実だ。これは一族の制度で、権限を組長に集中させ管理を容易にするためである。
しかし彼らが言うほど重大ではない。
家族評価における組長の意見は些細な部分に過ぎず、実質的な評価は内務堂が決定する。
仮え組長の影響力が大きくても――それが何だ?
方源は評価など眼中になかった。
早急に修行を積み三転に達して脱出するつもりだ。一族で百年も無駄に過ごす気など毛頭ない。
目先の利益しか見えない蛊師たちにとって評価は重要だが、方源にとっては塵ほども価値がない!
だからこそ、これらの脅迫的な言葉は方源に全く効力を及ぼさなかった。
「分かった。用事があるから、先に失礼する」方源は一瞬沈黙し、そう告げた。
は?
四人の蛊師たちが同時に呆然とした表情を浮かべた。
「どういう意味よ!?さっきの話、全然聞いてなかったの!?」女蛊師の一人が目を丸くして心の中で怒号した。
「こいつの理解力、本当に大丈夫か?」古月空井は方源の襟首をつかんで直接問い詰めたい衝動に駆られた。
角三の口元がぴくっと痙攣した。
方源の無反応に、彼らの芝居が茶番劇のように滑稽に映り、周到な計画が嘲笑の的となってしまった。
振り返り去って行く方源の背中を見ながら、角三の腹立たしさは頂点に達していた。
「おいおい方源、急がなくてもいいじゃないか」角三は怒りを飲み込み、無理に笑顔を作って方源の前に立ち塞がった。「部屋を探してるんだろ?俺が付き合ってやるぜ。コネも多少あるからな」
「確かに部屋を借りる必要があります。学堂の寮には住めません」方源が眉を微かに上げ、平静に答えた。「組長に何か指南が?」
「安くて立地の良い物件を何軒か知ってるぞ」角三は熱心そうに笑い、先頭を切って歩き出した。
……
「わしの家は月十五個の元石、値切りなしだ」
「はぁ?八個で借りようって?寝言は寝床で言え!」
「敷金一ヶ月分、家賃三ヶ月分の前払いだ。どこもそうだ」
「この家は風水が良く、夜も静か。族長邸に近い立地の良さは分かるだろ?月二十五個は高くない」
日が暮れても、方源は部屋を決めかねていた。
「ほうげんちゃん、ケチすぎるわよ。この山寨の相場はこんなもんよ」
「族長邸の近くの二階建てが広くて眺めも良いじゃない。百個あれば四ヶ月も住めるんだから」
二人の女蛊師が悪意ある笑みで勧める。
方源が首を横に振る:「手持ちの元石は少ない。浪費できない」
「なら地下室はどうだ?安上がりだ」古月空井が眼光を鋭くさせて提案した。
方源は内心で嘲笑った――この陰険め!
山間は湿気が酷く、冬の地下室は風通しが悪く風邪を引き易い。仮え病気にならなくても、関節を痛めるだろう。
沈黙する方源に角三が口を挟んだ:「共同リビングの一階も悪くない。相部屋なら家賃も安くなる」
方源が再び首を振る:「一人暮らしが好きだ」
古月空井が鼻で笑い、不快そうに言った:「あれも嫌これも嫌……言わせてもらうがな、ほうげん。現実的じゃない理想ばかり追ってるんじゃねえか?
方源は内心で嘲笑った:「仮え条件に合う部屋があっても、お前たちが勧める物件など絶対に選ばん」
この芝居は慎重を期すための偽装に過ぎず、罠の有無を探るためのものだった。
まさに別れを告げようとしたその時、沈嬷嬷が現れた。
「ほうげん様、やっとお見つけしました。学堂寮が使えなくなったので、ご主人様夫妻が宴席を用意なさいました。わざわざ外で部屋を借りるなんて…」老婆が甘い声で勧めた。
来たか……
方源の胸中で冷笑が渦巻いた。この老婆が正確に場所を突き止めたのは、間違いなく誰かが情報を流したからだ。やはり黒幕は叔父夫婦だった!
角三こそが叔父の差し金――自分を縛る枷だった。
沈黙する方源の様子は、迷っているように見えた。
「ほうげん君、叔父様宅に住めばいいじゃないか。元石の無駄遣いも防げる」角三が時宜を得た「心配」を口にし、方源の横顔を盗み見ながら眼底に陰を潜めた。