朝日がゆっくり昇り、新たな一日が始まった。
生徒たちが列を作り、興奮した面持きで学堂の蠱室の前に立っていた。今日は第二の蠱を選ぶ大きな日だ!
方源は最速で中階に昇格したため優先権を持ち、列の先頭に立っていた。その背中には古月漠塵、古月方正、古月赤城が続く。
きしり――
蠱室の扉が護衛に開けられ、方源が真っ先に足を踏み入れた。
広くはない室内だが、壁面に大小さまざまな方形の窪みが穿たれていた。石の鉢、玉の皿、蔓で編んだ籠、紫泥の急須――それぞれの窪みに異なる器が置かれている。
様々(さまざま)な一階蠱が器に収められており、学舎は毎日千枚以上の元石を消費して飼育していた。
方源が視線を走らせると、空になった器が目立つ。本命蠱選択時に月光蠱が大量に選ばれたため、現在一匹も残っていない。
天窓から差し込む陽光が床に金色の長方形を描いていた。初めてここに来た時は月光蠱を即決したが、今回は候補を絞りながら探す必要があった。
左壁沿いに歩きながら、方格を細かく確認していく。五歩目で足を止めた。
肩の高さにある銅碗に、平たく小頭の蠱が鎮座している。銅皮蠱だ。近接戦用蠱師に人気の選択肢。学舎の格闘教官もこれを飼っており、発動すれば全身が黄銅色に輝き防御力が急上昇する。
方源は当然見向きもしず、先へ進んだ。次に目に付いたのは石皮蠱。銅皮蠱に似た外見だが、灰がかった石像のようだ。
石皮蠱が六匹続いた後、鉄皮蠱が現れた。鉄碗の中で微動だにせず、黒鉄のような冷たい光沢を放っている。
人類社会に氏族があるように、蠱の中にも一族が存在する。
方源が続けて見た三種の蠱は、見た目も機能も似通った同系統だった。
「鉄皮蠱、銅皮蠱、石皮蠱、玉皮蠱……もし玉皮蠱があれば、今回はそれを選んでもいいんだが」期待を胸に先へ進む。
だが鉄皮蠱の後に現れたのは、一列に並ぶ獣皮蠱ばかりだった。
玉皮蠱も獣皮蠱も同系統だが価値は天と地の差。獣皮蠱は市場価格が石皮蠱より低く、合成の可能性が多い平凡な存在。一方玉皮蠱は酒虫に次ぐ高値で取引される希少種だ。
「玉皮蠱がないなんて……まあ当然か」方源は苦笑いした。「古月山寨は中規模の一族に過ぎない。ここが玉皮蠱を備えてたら、逆に驚くところだ」
左側の壁面を確認し終え、別の壁へ移動した。
この壁には天牛蠱が多く並んでいた。皮蠱同様、天牛蠱も一転蠱虫の中の大所帯だ。
黒っぽい金属光沢の長円筒形で、背中がやや扁平。長い触角が体長を超え、鋸で木を切るような「ガリガリ」音を立てる。地方によっては「木切り小僧」と呼ばれることもある。
最初に目に飛び込んだのは蛮力天牛蠱。赤鉄色の体に竹節状の触角。先日古月山寨に来た交易隊でも大量に取引されていた人気種だ。
「一牛の力を五呼吸持続させるが、中階で一割、初階なら二割の真元を食う。体が弱いと筋肉断裂の危険も……俺の体じゃ無理だな」
方源が先へ進むと、「おや?この蠱は悪くない」と足を止めた。
黄駱天牛蠱――暗黄色の細長い体に、根元が黄で先端が黒の触角。蛮力天牛蠱の瞬発力型に対し、こちらは一刻持続の持久力強化型。副作用もなく、市場価格は月光蠱並みで玉皮蠱に次ぐ高値だ。
方源が周囲を見渡すと、黄駱天牛蠱は確かに一匹だけだった。
「悪くない蠱だが、俺の戦略に合わない」首を振り、第三の壁面へ移動した。
この壁には豕蠱が大量に並んでいる。豕蠱シリーズ――花豕蠱、粉豕蠱、黒豕蠱、白豕蠱が存在する。
粉豕蠱は価値が最底。「太らせるだけ」の能力しかなく、真元を注ぐと体が丸々(まるまる)と膨らむ。学舎でも二、三匹(に、さんびき)しか飼育されておらず、軽視されている様子だ。
最も多いのは花豕蠱。数十匹が斑模様で壁を埋め尽くしている。黒白・黒桃・白桃の配色、稀に三色混在した個体も。
能力は蛮力天牛蠱と同様の一時的怪力。「一牛の力」に対し「一猪の力」だが、真元消費量は同じで持続時間は倍の十呼吸。力が弱い分、筋肉断裂の危険性も低い。
「花豕蠱は大衆的で市場でも大量流通してる。価格は蛮力天牛蠱の半値でコスパ最強だ。だが黒豕蠱と白豕蠱は玉皮蠱や酒虫より高値なんだよな」方源の目が思索の輝きを宿した。
黒・白豕蠱は市場で六百元石超えの値が付き、即座に買い手が現れる。体質を改造し根本的に筋力を増強する能力が評価されている。
「蛮力天牛蠱の一発勝負と違って、黒白豕蠱は蓄積型。蠱が死んでも力は消えないから、酒虫より実用性が高いってわけか」
実際、世間一般では酒虫より黒白豕蠱の価値が上だと見做されていた。真元精錬だけの酒虫より、持続的な肉体強化が有利と判断されているのだ。
「黒豕蠱か白豕蠱を手に出来たら最高なんだけど……」方源は苦笑いした。黄駱天牛蠱ですら一匹しかないこの蠱室に、そんな貴重品があるはずもない。
結局、壁隅で小光蠱を手に取った。五角形の星型で爪の半分ほどの大きさ。月光蠱の補助として最普遍の選択肢だ。
「まあ、月光蠱との連携を考えれば及第点か」自身の進路に沿った妥協だった。
「方源が出てきたぞ」
「随分時間かかったな」
「何の蠱を選んだんだろう?」
「酒虫持ってるのに三匹目か?飼い切れるかなあ、へへ」
方源が蠱室から悠々(ゆうゆう)と現れると、待ち疲れた生徒たちが騒ぎ始めた。
「次は俺だ!あの蠱を取られてないだろうな?」古月漠塵が大股で中へ入り、唯一の黄駱天牛蠱を見つけて顔を輝かせた。
古月方正は壁に手をつき悩んだ末、「月光蠱で攻撃は出来(できるから、防御用の銅皮蠱にしよう」
四人目の古月赤城は器用に指先で蠱を転がしながら、「回避能力のある龍丸蛐蛐蠱が最適だ。敵の攻撃を全部かわしてやるぜ」