一切は方源の思惑通り(どおり)だった。後日、学堂家老は治療蛊師を呼び、二人の護衛を救護させた。護衛の命は助かったが重い障害が残り、学堂から追放された。方源は何の罰も受けず、逆に褒め称えられた。この結果は他の少年たちをさらに畏怖させた。
しかしこの事件は終わらなかった。時が経つにつれ、波紋は全族に広がった。丙等の資質で最初に中階へ昇格した方源は、一族中で奇妙な話題となった。人々(ひとびと)は茶飲み話の合間にこの件を議論し、当初の驚異が過ぎると、方源の昇格の謎を推測し始めた。
「丙等が甲等や乙等を超えて中階に達するのは、別に不思議ではない」
「その通り(どおり)、世の中には舍利蛊のような方法が存在する。これを使えば竅壁を昇華させ、小境界を突破するのは朝飯前だ」
様々(さまざま)な説が飛び交い、酒虫や異種真元の可能性も指摘された。方源が最初から酒虫の存在を公表していれば、ここまでの衝撃は生じなかっただろう。しかし彼が秘密を隠したため、人々(ひとびと)の好奇心をかき立てる結果となった。
古月山寨は表向き平穏だったが、実は暗流が渦巻いていた。無数の目が学堂を注視し、学堂家老の説明を待っていた。学舎の責任者たる者が、自らの教え子の昇格方法を知らないなど、あまりに失職だからだ。
時は流れ、二番目に中階へ到達した少年が現れた。古月漠北である。続いて三時間差で古月方正も成功した。元石不足に加え、方源の件による精神的打撃も影響していた。
三番目は古月赤城だった。古月赤練自らの真元注入を受けていたが、この方法は効率が悪く、三日に一度しか行えず、危険も伴った。丙等ながら三位を獲得したことは、すでに成功と言えた。
五日目、学堂家老は再び元石補助を配布した。
「古月方源」
彼は最前に方源の名を呼んだ。方源は無表情で立ち上がり、前へ進んだ。少年たちの嫉妬、羨望、猜疑、憎悪の入り混じった視線が彼に注がれた。
「本日は補助金の配布に加え、班頭と副班頭の任命を行う」
「やはり最初に方源を呼んだ!」
「彼が最初に中階に達したから、班頭は彼のものだ」
「信じられない…最初は方正だと思ってたのに」
「中階昇格は怪しすぎる。重大な秘密があるに決まってる!」
生徒たちが囁く中、方源は学堂家老の面前に立った。
「古月方源、今期最初の一転中階蛊師として、これが褒賞だ」
学堂家老は青白い袋を差し出した。方源はそれを受け取ると、即座に袋を開いて中身を確かめた。
「安心せよ。中には三十塊の元石が入っている」
学堂家老は無理に笑顔を作った。実のところ、彼は方源が最初に昇格するとは予想していなかった。
方源は家老の言葉に耳を貸さず、一枚一枚元石を数えた。三十塊、不足はなかった。ようやく袋を懐に収めた。
学堂家老はこの様子を見て、方源が金銭的に逼迫していると誤解した。(元石への欲求がある限り、彼を制御下に置ける。一族の体制に組み込めば、秘密はいずれ暴かれる)
「さらに」学堂家老は続けた。「方源、規定により、三十塊の元石に加え、近いうちに二匹目の蛊を優先的に選択する権利を与える。今、お前を班頭に任命する!」
「ついに方源が班頭に…!」
誰かが嘆息した。
「くそ…!」古月漠北は歯を食いしばった。
「ふん」古月赤城は冷ややかに見守る。
最大の打撃を受けたのは弟の古月方正だった。(班頭に会えば挨拶が必要だ。副班頭の自分が兄に頭を下げるのか…)
「待たれよ」
方源が突然口を開いた。家老に向かって緩やかに言う。「家老殿、学生の力量では班頭の職務は務まりません。有能な者に譲るべきです」
「何だと?班頭になれば毎回十塊の元石が支給される。本当に辞退するのか?」
学堂家老の眉が険しく歪んだ。数十年の教職で、自ら班頭を拒否する者など見たことがなかった!
実は家老も考えていた。方源を班頭にすれば、同輩への恐喝を止めさせる口実になる。班頭としての義務を果たす限り、彼の行動を制限できる。
しかし方源は拒否した!
「規定で班頭を拒否してはならないとでも?」
「…否」
最終的に班頭は二位の古月漠北、副班頭は方正と赤城が就任した。班頭は十塊、副班頭は五塊の補助金が支給され、貧乏な生徒たちは羨望の涎を垂らした。