記憶を頼りに、方源は賈金生を連れて再び山壁の裂け目へ向かった。
二人が裂け目に入ると、道は次第に狭くなり、視界は真っ暗になった。賈金生は不慣れな土地で不安を募らせながら進んだ。
遂に耐え切れず口を開く:「疑問がある。賈富の奴は誠実で評判も良い。俺は強引な商売ばかりしてる。どうして俺を選んだ?」
岩陰から方源の声が響く:「奴は四転の修爲。影壁を見せれば古月族長へ献上する選択肢もあり得る。主導権を他人に渡すのは好きじゃない。そもそも誠実なんて糞食らえだ。利益が少なけりゃ信用なんて崩れる」
(本当の理由は賈金生が弱く操り易いからだ――当然口にしない)
「ハハ」賈金生は乾いた笑いを漏らし、「最後の一言は俺の琴線に触れたぜ」
ようやく洞窟に辿り着くと、賈金生は影壁を見て哄笑した:「賭けが当たった! 騙されてなかったな!」
方源は背後で薄笑い、無言で立っていた。
岩壁に映る花酒行者と四代目族長の確執を眺め終えた賈金生が、嘲るように言った:「あんたの先祖も大したことないじゃねえか」
「当然の話さ」方源が応える。「英雄が必要なら英雄になり、悪役が必要なら悪役になる。評価なんて他人が決めるものだ」
「名言だな!」賈金生が洞窟内を見回しながら掌を打つ。
花酒行者の白骨に目が止まり、「五転の強者がこんな末路か…。あんた、彼からかなりの利益を得たんだろう?」
賈金生の目が貪欲に光る。五転蠱師の遺産への欲が滲んでいた。
方源は首を振る:「長い年月で蠱は死に絶えた。酒虫一匹だけだ」
「嘘つけ!」賈金生が迫る。「共犯なんだから隠すなよ。本当はどれだけ持ってる?」
方源は嘲笑を浮かべ、無視して洞窟を出た。
賈金生のこの反応は、方源が前もって予想していたことだった。これこそが彼が賈富でなく賈金生を選んだ理由である。
賈金生は独り言のように喋り続けた:「他のことはさておき、花酒行者が有名な千里地狼蛛を持ってたのは知ってるだろ? 五転移動蠱で、巨体で土潜りが得意。あの魔道の野郎が正道の包囲網を何度も抜け出せたのも、この蠱のお陰だぜ」
「へえ、そうなのか?」方源は軽く眉を寄せた。花酒行者に関する情報は実際ほとんど知らなかった。
賈金生は得意げに続けた:「去年お前たちの山寨に来た時、この噂を聞いてわざわざ実家で調べたんだ。千里地狼蛛は花酒行者とほぼ一心同体、この洞窟も間違いなく奴が作ったに決まってる。青茅山の粘つく青土で自然にこんな洞窟ができるわけないだろ? おい弟分、隠しても無駄だぜ。花酒行者がここで死んだんなら、千里地狼蛛も必ずあるはずだ!」
方源の眉の皺が更に深くなった。何か見落としている重要な点があるような違和感が募ってきた。「確かに出口は石割れしかない。千里地狼蛛の巨体が通れるはずがない。もしかすると四代目に先回りされて殺されたのかもしれん。影壁の映像でも、花酒行者は最後まで千里地狼蛛を召喚してない」
「じゃあ余計に怪しいじゃねえか」賈金生は疑い深い目で方源を見た。「洞窟作成に他の手段があるってのか? 本当はもっと良い物を隠してるんじゃないのか?」
方源の額に深い皺が刻まれた。賈金生から得た新たな情報が、何か重大な見落としを暗示しているようだった。
賈金生も思考に耽っていた。影壁では物足りなくなり、花酒行者の遺産を方源から搾り取りたい欲望が膨らんでいた。
二人が思案に暮れているまさにその時、異変が突如発生した。
延々(えんえん)とループしていた影壁が突然明滅。血まみれの青白い禿頭の蠱師が映り込んだ。
奴は岩壁に背を預けて崩れ落ち、胸や四肢に深々(ふかぶか)と傷を負っていた。だが不気味なことに、皮肉が剝がれているのに一滴も血が流れていない――まるで全身の血液を抜き取られたかのようだった。
「俺が花酒行者だ」禿頭の蠱師がギラリと歯を剥き、「後の者よ、百日も影壁を見続けたお前は古月を憎んでるに違いねえ。遺産をやる代わりに、古月一族を皆殺しにしろ!鶏犬も残すな!」
賈金生が呆然と立ち尽くし、顔中に驚愕が広がった。
「五転の伝承!?」
頭がガンガン鳴り、思考が渦巻いた。
「まさか!五転って…三転は家老、四転は族長、五転なら山主だぜ!こんな田舎にそんな物があるなんて!」
「待てよ、魔道の力を継ぐのはまずいか?いや力に善悪はねえ。古月を滅ぼせって?死んだ爺さんの言い分なんて聞かねえよ」
「これで俺の丁等資質も変えられるかも…レアな蠱がいるかも!賈富を超えてやる!」
「クソ!こいつ(方源)がいる…分け前?冗談じゃねえ!殺して秘密を守る。油断させて不意打ちだ…ここなら跡形もねえ!」
思考が電光石火で駆け巡り、賈金生は目を細めて偽の笑顔を作った。
ゆっくり振り向いた瞬間、二枚の青白い月刃が迫ってきた!
瞳が針の先のように縮んだ。回避する間もなく――
「お前…」
首筋に刃が食い込み、頭が舞い上がった。血潮が泉のように噴き出した。
二秒遅れて胴体が床に倒れ、滾り立つ血が枯れ蔓を真赤に染めた。
「殺すならさっさと殺せ」方源が冷たく屍を見下ろし、影壁へ目を移した。「予想外の展開だ…面白い」
目の奥が幽かに光りながら呟いた。