翌日の昼、昼食の合間を利用して方源は再び山寨外の商店街へ足を運んだ。
昼間は仕事があるため、テントや露店の間を歩く山民の姿はまばらだった。
方源は記憶を頼りに前夜の知心草売場へ向かうと、空の荷台を載せた板車と、それを引く駝鶏だけが残っていた。
その駝鶏は誇らしげに直立し、ダチョウほどの巨体に鶏のような外見。背中は弓状に隆起し、両翼の七色の羽根が陽光を反射させていた。真紅の鶏冠は瑪瑙の王冠のように輝いている。
「知心草は完売か…数斤でも買えれば元石の節約になったのに」方源は一瞬足を止め、再び歩き出した。
「さあ、各山寨の名酒を味わってみて! 灯草酒に九曲酒、古龍井に花石大曲、百泉老醤に酔三秋…百種以上の酒が勢揃い!」
青い円筒形テントの前で店員が声を張り上げている。
方源の目が鋭く光り、足を向けてテント内へ入った。
最奥に長い木製カウンター
水晶瓢虫が数十匹、テントの布地に頭を下げて貼り付いている
地面には絨毯が無く、色鮮やかな天眞茸が群生
「これは草蠱の一種、埃を吸う天眞茸だな」方源は瞬時に見抜き、小さな茸に腰を下ろした。茸の表面が柔らかく沈み、ソファに座っているような感覚だった。
「お客様、酒銘柄一覧でございます」店員が革表紙のメニューを差し出す。
青竹酒より高値の表示に目を走らせた方源が即答する:「猴児酒を一杯」
「猴児酒一つ!」店員の声に応じ、カウンターの一転蠱師が竹筒の杯を取り出す。
水晶瓢虫の透明な腹部には琥珀色の液体が貯まっており、蠱師が尾部の栓を捻ると、芳醇な酒が注ぎ出された。
蠱師は杯を手に持ち、テントの青い帆布に貼り付いた数十匹の水晶瓢虫に向き直った。それらは頭を下げ、尾を上げた状態で静かに佇んでいた――まるでテントの装飾のようだった。
これらの水晶瓢虫もまた蠱の一種。腹部が空洞になっており、貴重な液体を貯蔵するために用いられる。
透き通った体は水晶細工のようで、外からでも瓢虫の丸々(まるまる)とした腹に何が入っているか判別できた。
蠱師は素早く猴児酒が入った瓢虫を見つけ出す。竹筒の杯をその口器の下に置き、片手で甲羅を優しく撫でた。
微量の真元が瓢虫に流れ込むと、パカリと口が開き、琥珀色の酒がジャージャーと音を立てて注がれた。
「ご注文の猴児酒でございます」店員が急いで杯を運び、方源の前に置いた。
方源が軽く一口含むと――果実酒特有の甘い芳香が口中に広がった。
再び飲むことなく、心念を動かして酒虫を召喚。白く丸々(まるまる)とした虫が弧を描き、杯へ飛び込んだ。
酒が茸のテーブル面に飛び散る中、酒虫は杯の中で嬉しそうに転がり回り、見る見る内に酒を吸い尽くした。
「酒虫だ!」カウンターの蠱師が声を上げ、目を輝かせた。彼は丁等の一転蛊師――商隊に帯同しながら機会を伺っていた。まさに求めていたものだった。
「お客様、その酒虫を譲って頂けませんでしょうか?」震える声で懇願した。
方源は首を振り、一言も発せずに立ち上がった。
「お待ちください! 条件はなんでも…」蠱師がテント入口まで追いかけたが、方源は振り向きもせず角を曲がり、視界から消えていった。
……
気づけば太陽が沈み、三日月が空に舞い上がっていた。
夜の帳が下りる中、月光が水のように降り注いだが、無数の商店の煌々(こうこう)たる明りに掻き消されていた。
今夜も商店街は人波が押し寄せ、活気が続いている。方源は人混みに揉まれながら進み、周囲の会話が否応なく耳に入ってきた。「商隊は三日三晩営業するそうだ。明後日の朝には出発するらしい。買いたいものがあれば急がねば」
「昨日見つけた金鐘蠱、高すぎてさ。店主と値切ったけど、まともに安くなんねえよ。今夜また行ってみるか」
「知ってる?昨晩賭石場で若造が瘡土蝦蟇を当てて、五百塊元石も稼いだんだって!」
……
方源は注意深く聞き耳を立てていたが、酒虫に関する話題は一切耳にせず、内心でがっかりしていた。
「酒虫は一転蠱に過ぎぬ。二転以上の蛊師には無用ゆえ、注目されぬのも当然か。ただし、酒虫を自ら晒すのは急ぐべきではない。不自然すぎると露見する」方源は歩きながら思案を巡らせていた。
その時、前方の人混みが急激に渦巻いた。
「見てみろ!悪徳商店が我が族に偽蠱を売りつけてやがる!」という叫び声が響く。
人々(ひとびと)が一斉に憤慨した。「なんと!そんなことが」
「どこの店だ?族を騙すとは!」
方源も流れに乗って現場へ向かった。
真紅のテント入口に人垣が三重にも四重にも重なり、好奇の目を向ける者、冷たい視線を投げる者、怒りを滲ませる者が入り混じっていた。
テントの前に二人の男が立っていた。
一人は古月一族の二転蛊師と分かる服装。
もう一人は顔見知り――賭石場の店主賈金生だった。
青年蛊師は黒光りする蠱虫を手に握り締め、周囲に向けて叫んだ:「族の者よ! この男が昨日偽物の黒豕蠱を二百五十塊元石で売りつけた! 煉化したら普通の屁糞虫だと分かったんだ!」
賈金生が冷笑を浮かべる:「口からでまかせを言うな。黒豕蠱だなんて言った覚えはない。証拠はあるのか?」
青年蛊師が賈金生の腕を掴む:「この詐欺師め! 青茅山で我が古月一族を騙すとは、命が惜しくないのか!?」
「放せ!」賈金生が袖を振り払い、「騒ぎを起こすなら相手を選(えらべ。俺の兄貴は四転蛊師の賈富だ。手出しできるものならやってみろ」
青年蛊師が目を剥いて睨みつけたが、手を出す勇気はなかった。四転の名に押されていた。
賈金生が地面に唾を吐き捨て、嘲るように言い放った:「黒豕蠱が六百塊もするのを知ってて二百五十塊で買えると本気で思ったのか? 馬鹿も休み休みにしろ」
「畜生…!」青年蛊師が歯軋らせ、顔を真赤に染めて震えていた。
人々(ひとびと)がブンブンと騒ぎ立てる中、賈富の名が無形の重石のように場を押さえつけていた。
「あの野郎、本当に悪徳だな」
「賈富の弟か…道理で図々(ずうずう)しいわけだ」
「実子じゃなく異母兄弟らしい。一转の実力で威張り散らしてるんだって」
「何の騒動だ?」重たい声が轟いた。
「賈富様だ!」
「頭領が来たぞ、道を空けろ!」
人垣がさっと割れ、小柄で太鼓腹の中年蛊師が現れた。黄色の長袍を纏った商隊の首領賈富である。
「賈富様、ご挨拶申し上げます」青年蛊師が拳を握り締めながら頭を下げた。
賈金生は青ざめた顔で固まり、兄の到着を予期していない様子だった。
遠くで観察を続けていた方源は、賈金生の微妙な表情の変化を見逃さず、思索に耽った。