第三節:あっちでタマでも舐めてろ
この作品は中国の作者・蛊真人によって翻訳されました
トン、トントン…夜回りの木柝の音が高床式楼閣に響き渡る。方源は乾いた瞼を開き「五更か」と呟いた。
昨夜は計画立案に没頭し、睡眠はわずか二時間ほど。修行前の肉体は疲労感に苛まれていたが、五百年の修業で鍛えた鋼の意志が睡魔を跳ね除ける。薄絹の布団を蹴り、颯爽と起床。
窓を開けると春雨は上がり、土と木の香り混じりの湿気が頬を撫でた。頭が冴え渡り、残っていた眠気が一気に吹き飛ぶ。
東の空は紺碧のグラデーション。群青色の山肌に、竹と木で組んだ高床式楼閣が点々と浮かぶ。一階は獣害避けの支柱、二階が居住区——方源と弟方正の部屋もそこにあった。
「方源様、お目覚めでしたら。すぐにお手伝いにあがりますわ」階下から若い女中の声が響く。顔を覗かせたのは専属下女の沈翠だった。
緑の衣裳に身を包み、真珠の簪を挿した彼女は、洗面用の湯を運びながら階段を駆け上がる。柳の枝に雪塩をつけた歯磨きを差し出すと、胸を擦り付けるようにして方源の着付けを手伝った。
方源は無表情で受け流す。この女中は叔母のスパイであり、前世では自分が没落すると真っ先に態度を変えた女だと記憶している。
扉際でその様子を見ていた方正は、沈翠が兄の胸元を整える手つきに羨望と嫉妬の色をちらりと瞳に浮かべた。兄の計らいで付けられた自分の下女は肥満体の老婆で、とても若い女の子など相手にしてくれない。
「いつか沈翠があのように…」妄想と自制が交錯する。府内では周知の事実——沈翠の実母は叔母お気に入りの執事で、容易に手出しできない存在なのだ。
「もういい、下がれ」方源は沈翠の柔らかい手を払いのけ、袖口を整えた。既に整った衣装を直すふりで、彼女は明らかに色仕掛けをしている。
沈翠にとって、甲等資質の可能性が高い方源の側室になれば奴婢から主子へ——これこそが彼女の狙いだ。前世ではこの策略に引っ掛かり、好意すら抱いていたが、転生した今、彼の目は冴え渡っていた。
「お退きなさい」冷たい視線を浴びせ、沈翠は唇を尖らせた。「今日のご様子は…」と甘える言葉を探すが、方源の放つ得体の知れぬ威圧感に気圧され、小さく「かしこまりました」と従順に退出した。
「準備は済んだか?」方源が方正を見やる。弟は呆然とドア際に立ち、つま先を見つめたまま「…はい」と蚊の鳴くような声で答えた。実は四更(午前1時)に目が覚め、緊張で眠れずに早々と支度を整えていたため、目の下にクマができている。
前世の方源は弟の心中を理解できなかったが、転生した今、その胸中は手に取るようにわかる。しかし今さら指摘しても意味がない。「では行くぞ」と淡々と言い放ち、兄弟は住居を後にした。道中、同じく開竅大典へ向かう同年輩の少年少女たちと三々五々すれ違う。
「ほら見ろ、方家の兄弟だ」周囲で囁き声が広がる。
「先頭が例の詩才ある方源か」
「無表情で周囲を無視する様、噂通りのイキりようだな」と羨望と嫉妬混じりの声。
「あんたも彼並みならイキれるさ」と誰かが皮肉交じりに応じる。
方正は無表情で兄の影に続く。夜明けの光が方源の後姿を浮かび上がらせ、弟の顔に暗い影を落としていた。
「この暗がり…兄の影から一生抜け出せぬのか」胸を締め付ける窒息感に、方正は爪を掌に食い込ませた。朝日に照らされながら、彼は暗闇へ歩む錯覚に囚われていた。
「出る杭は打たれるとはこのことか」周囲の噂話を聞きながら、方源は冷笑していた。丙等資質が判明した前世、四面楚歌の中で受けた冷遇の理由が今は手に取るようにわかる。
背後から聞こえる弟・方正の荒い息遣い。転生前は気づかなかった心理的圧迫が、五百年の経験で研ぎ澄まされた洞察力によって透視できる。
「叔父夫婦の手管か…」沈翠を側近に付け、弟には老婆を配した差別的待遇。全ては兄弟の不和を煽るための策略だ。
「人は少なきを憂えず、均しからざるを憂う」前世の自分は未熟で、弟は騙されやすい。だが魔道の巨魁として再生した今、この状況も打破可能だ。
弟を屈服させ、沈翠を手懐け、叔父夫婦や族長家老を牽制する手段など数百通り用意している。開竅大典目前の膠着状態も、方源の掌中で踊る駒に過ぎない。
「だが、わざわざ手を下す気はない」方源は心の底で冷笑した。血を分けた弟だろうが、情など最初からない。捨てるに等しい他人だ。
沈翠の美貌など塵芥同然。愛も忠誠もない肉付きの良い骸骨に過ぎぬ。側室になど値しない。
叔父夫婦も族長も、人生の通過点に過ぎん。労力を割く価値などない。
「フン」
道を阻まぬ限り、あっちでタマでも舐めてろ。踏み潰すのも面倒だ。
この作品は中国の作者・蛊真人によって翻訳されました