396.安全地帯を活用しました
「くそ、数が多い!」
「次、西から来ます!」
「そっちは桜さんに任せた!」
「南から追加が来るよ!あの感じ、コボレートの集団!」
「雑魚な癖に群れやがって全く・・・わかった、俺が行く!」
シェルバロウとの一戦を終えた俺達は開けた場所まで後退し、無数に襲い来る魔物と戦い続けていた。
ダンジョンの場合は決まった種類の魔物しか出てこない上に、それへの対策方法を考えてから潜るのである程度の不意打ちにも対応が出来る。
だが地上ではその常識は通用せず、多種多様な魔物が群れを成して襲い掛かってきた。
それも同時多発的に、多い時には三種類を超える魔物と同時に戦闘することだってある。
氾濫するとしてもひとつのダンジョンから出てきた魔物なのである程度種類は決まっているはずだけど、この場所は複数のダンジョンで同時多発的に反乱がおきているせいで本来ならあり得ない状態になってしまっているようだ。
魔物の種類だけでなく強さもバラバラ、幸いにも戦ったことがある魔物が多く須磨寺さんが的確に指示を出してくれるおかげで今の所は壊滅せずにどうにかなっている。
だが、こうも連続して戦うと各自の疲労の色は濃くなるばかり。
いつ何時この均衡が破られるかはわからない状態だ。
せめて一方向だけでも抑えられたら一人は休めるのに・・・。
「弱い癖に群れてんじゃねぇ!」
【恒常スキルを使用しました。突進、次回使用は十五分後です】
10を超えるコボレートの群れを突進スキルで一気に引き倒し、振り向きざまに棒を振り回して残ったやつを吹き飛ばす。
こいつらはE級、たとえ群れた所で俺達の敵じゃない。
「よし、次!」
「和人君、桜ちゃんの援護よろしく!あっちはC級だよ!」
「了解!」
ここのめんどくさい所は魔物の強さがバラバラな事、ダンジョンだと魔素の影響である程度一定の強さの魔物が出てくるけれど、ここの場合はそういうわけでもなく下はE級から上はC級までの魔物が出る。
話によればその上もあり得るという話だったけど、とりあえず今はそこまでの魔物は出ていない。
「リル、北から来る奴は任せるぞ!」
「グァぅ!」
桜さんとルナが引き受けていた魔物はリオーネクイーン、確か北淡ダンジョンに出てきたやつだ。
素早い動きで二人を翻弄しているようだけど、生憎とうちのタンクはそんなんじゃ崩せないぞ。
「ルナ、交代だ!」
こくこく。
ルナの背中をポンと叩きそのまま戦線を離脱させる。
ここに三人は過剰戦力だからな、そのまま西に移動してもらい次に来るかもしれないほうを警戒してもらおう。
「こいつは素早い動きが特徴だから惑わされずにやれば行けるはず、一瞬でいい止めてくれるか?」
「お任せください!」
右に左に華麗なステップを踏みながら、素早い動きで俺達の目を欺こうとするリオーネクイーン。
桜さんがそれに目を奪われて一瞬盾を下げたのを見逃さずものすごい速さで突っ込んでくる。
が、それは彼女がわざと作った隙。
「今です!」
間違いなく届いたはずの牙はすんでの所で盾に阻まれ、それでも盾ごと彼女の喉を貫こうと狙っている。
【パラライシェルのスキルを使用しました。ストックは後二つです】
だがそれも素早い動きが出来てこそ、麻痺液を浴びて体がしびれた状態ではご自慢の動きを出すこともできないだろう。
「これで!」
「とどめです!」
桜さんの剣が奴の右半身を切りつけ、俺の棒が左半身に叩きこまれる。
【リオーネクイーンのスキルを収奪しました。俊足、ストック上限は後九つです】
体が朽ちる前にスキルを収奪、なかなかの連携に思わずハイタッチをしてしまった。
「和人君、そういうのしてる暇ないよ!」
「良いだろ別に、心の余裕がある証拠だ」
「まぁそうなんだけど、いい加減疲れも限界に来る頃だね。ぶっちゃけどうする?」
「せめて一方向でも防げたらなぁ」
「それは分かるけどこうも開けているとねぇ。でも、開けているからこそ戦いやすいわけで」
そうなんだよなぁ。
これが四方を森に囲まれていたら襲撃に備えられず大けがをしていた可能性も十分にある。
開けているからこそ、相手の動きや種類を確認できるわけだしそれを失ってでも中に入るのは正直怖い。
実際こうやって話が出来ているのも魔物がいないのを視認できるから、桜さんが横でボトルの水を飲んでいられるのも安心できる材料があるからだ。
「あの・・・」
「ん?」
どうしたもんかと頭を悩ませる俺達に申し訳なっそうな感じで七扇さんが手を挙げた。
「あのハウススキルで壁を作ったらいいんじゃないですか?あの頑丈さなら破られることは無いと思いますし、上に乗れば周りも見やすくなるかと」
「それだよ凜ちゃん!さっすがぁ!」
「確かに壁になるし、いざとなれば逃げ込むシェルターにもなるか。一方を防げば一人は休憩できるから交代で休むのもアリだな。よし、採用!」
【ドムテトラルのスキルを使用しました。ストックは後九つです】
敵が来ないうちに早速スキルを使用、広場の少し南方にそれを設置することで向こうから来るのを気づきにくくはなったものの、まっすぐ向かってくることは出来なくなった。
結構な高さだけどその上に乗れば魔物が来るのは見えやすくなるし、狙撃するとしても楽だろう。
ぶっちゃけ須磨寺さんを守りながらっていうのもなかなか大変なので、七扇さんと一緒に上で待機してもらえば安心だ。
残るは俺、桜さん、ルナ、リルの四人、疲れ知らずの二人を除き誰か一人が休憩に入っても三方向はしっかりとカバーできるのでリフレッシュもできるだろう。
そんなわけで最初の休憩は桜さんに取ってもらい、二人には上に乗ってもらうことにした。
「よっこいしょーー!」
「ちょっと、そんなに重たくないでしょ!」
「こんだけ高い所に持ち上げる身になってみろ」
「まぁそうなんだけどさぁ、僕はともかく凜ちゃんにそんなこと言ったら承知しないんだから」
「そういわれてもなぁ」
いくら七扇さんがやせているとしても最低でも30kgはあるだろうし、そうなればもう玄米一袋と同じ重さ。
いくら探索者とはいえそれを軽々と持ち上げられると思ったら大間違いだ。
「仕方ない、リル!」
「わふ?」
「七扇さんを乗せて登れるか?」
「グァゥ!」
「え、いいの?」
普段誰も背中に乗せないリルだが、今の大きさなら女性一人ぐらい楽勝だろう。
恐る恐るという感じで七扇さんがリルの背中に乗ると、あっという間にハウスの上に飛び上がった。
「僕もこうしてくれたらよかったのに」
「ま、そういう事もあるさ。どうだ、見晴らしは」
「うんなかなかいい感じ!ちょうど北から魔物が来てるよ、あれは・・・ミノタウロス?それと西からはファットボアが複数いるね」
「中々の大物じゃねぇか」
「ミノタウロスは和人君一人で何とかなるでしょ?その間にルナちゃんがファットボアを引き付けてリルちゃんが一網打尽、これで完璧!」
「軽く言ってくれるぜ」
「あの、援護はしますので!」
「期待してる、それじゃあ皆行くぞ!」
確かにファットボアのあの突進を何発も受けながらッてのは中々に大変だ。
タンク役がいないのは大変だけど、決して倒せない相手じゃない。
それにアイツの剛腕はこの先絶対に役に立つ、となると倒すのは必然的にこっちというわけだ。
やることは一つだけ、俺を見て雄たけびを上げるミノタウロスを前に武器を構え走り出した。




