397.魔物の襲撃をやり過ごしました
ハウススキルを使った休憩&狙撃・監視作戦は見事に的中し、安定して襲撃を退け続けていた。
桜さんの次は七扇さん、その次に須磨寺さんと二時間ずつ順に休憩をしていよいよ俺の番。
今の所連続して六時間は使用できることは確認できたわけだが、果たしてどれぐらい連続使用が出来るんだろうか。
「それじゃあ後はよろしく、ヤバくなったら遠慮なく叩き起こしてくれ」
「りょうか~い、因みに向かって一番左が桜ちゃんでその隣が凜ちゃん、そんでもってその隣を僕が使ったから好きなところ選んでね?」
「いや、四つ目があるからそっち使うし」
「えー!今なら好きなこの匂いを嗅ぎ放題・・・って、やっぱり凜ちゃんの所は駄目だからね!」
「だからしないっての!」
いくら俺が飢えていたとしてもパーティーメンバーの匂いを嗅ぎたいがためにベッドを利用することは無い、絶対にない。
何やら桜さんが期待した目でこっちを見ているがそれは気のせいだ。
現に七扇さんが信じられないっていう目で俺を見てくるし、全くの誤解だっての。
ため息をつきつつ家の中へ。
荷物を入り口の横においていつでも出れるようにしつつ、椅子に座って机の上に用意されていた飲み物と軽食を美味しくいただく。
窓の外ではグレイウルフの群れがリルに向かって挑戦を仕掛けているものの、残念ながらすぐに壊滅させられていた。
うーん、仲間が戦っているのに自分だけ休憩するのはなんとも違和感があるな。
でも外の音は一切聞こえないので目を閉じればそういうのを一切忘れられるのはいいかもしれない。
小腹を満たしたところで早々にベッドルームへ移動、一番右端の四つ目にダイブをして持ってきたタイマーをセットする。
今の感じだと俺がいなくても十分に対処できるはず、ダンジョン内でガチ寝するなんて普通じゃありえないけれども、睡眠の深さが疲労回復量に直結するので今は何も考えずに眠りに付こう。
こういう時どこでも眠れる自分を褒めてやりたい。
後はこのまま眠るだけ・・・。
・・・・・・。
・・・。
「・・・くん、和人君!」
「んん!?」
須磨寺さんの慌てた声に一気に覚醒、ベッドから飛び起きそのままリビングへ。
腕時計をチラッと見るとまだ一時間しか経過していない。
とはいえ緊急事態なんだろう、そのままカバンと武器を掴んで家から飛び出すと、魔物はいなかった。
「あれ?」
「そっちじゃないこっち!」
「こっち?」
「家が変なんです、ぶよぶよって変形し始めていて・・・」
「うぉ、マジか!」
後ろを振り向くと、真四角の豆腐ハウスが端の方から崩れ始め三角形に近くなっている。
とりあえずリルに助けてもらいながら二人を上から降ろす頃には完ぺきな正三角形へと変わってしまった。
【ハウススキルの耐久期限が来ました、スキルが消滅します】
そのタイミングで脳内に流れるメッセージ、ウームもう少し早く知らせてくれたらよかったんだけどなぁ。
いや、もしかすると寝てるときに流れていたのかもしれないけどとりあえずこれで制限時間は確認が出来たという事にしておこう。
「はあびっくりした」
「ケガが無くて何よりだ」
「突然天井が柔らかくなったと思ったら端っこが下がってくるからあわてちゃったよ。でも今思えばこのまま滑り降りるのもアリだったね」
「まぁそれは次回という事で。とりあえず時間的に約七時間で消えることは確認できたわけだし、今後の参考にすればいいだろう」
俺が中にいる時でよかった、もし桜さんとかだったらすぐに対応できなかったかもしれない。
普段は元気いっぱい!っていう感じの彼女だけど、寝起きは少し弱かったりする。
でも普段はそんなそぶりを見せないよう人よりも早く起きているんだとか。
「和人さん休めました?」
「とりあえず一時間ガッツリ寝たから多少マシだ。状況は?」
「散発的に魔物が来る程度で最初よりは収まりました」
「ある程度狩り尽くしたって感じか」
「そうですね、そろそろ奥に進んでもいいと思います」
「今の所他の旅団もダンジョンは発見できずか。よし、ちょうどいいタイミングだし奥に向かって・・・」
「わふ?」
さぁ再出発だ!と言おうと思ったら、何かを感じ取ったリルが南の方を振り返った。
それに少し遅れて桜さんもそっちの方をじっと見つめる。
七扇さん的にはまだ反応はないみたいだけど、何かあるのは間違いない。
「なんだ?」
「わかりません。でもなんだか嫌な感じです」
「となると十中八九魔物なわけだが、七扇さん的には反応なしか」
「どうします?」
「どうしますと言われても・・・」
桜さんの直感スキルはかなりの確率で当たる、しかもそれが嫌な感じとなるとネガティブな状況なんだろう。
魔物?
それとも別の何か?
なんにせよここにいてはいけないのは間違いないが、どこに行く当てもない。
そうこうしているうちにリルがあちこちに首を動かし、桜さんも怯えた感じで周囲を見回している。
つまり一方向じゃない、全方向からこちらに向かって何かが向かってきている。
何なら心なしか足元が揺れているような気もしないではない。
【ドムテトラルのスキルを使用しました。ストックは後八つです】
なんにせよこのまま無防備ではいられない。
「全員中へ、何が起きるにせよ無防備では無理だ」
「了解!」
「ほら、桜ちゃん早く!」
「あ、はい!」
「リルとルナは屋根の上で待機、ヤバくなったら指輪とブレスレットに戻ってこい」
「わふ!」
「は、い」
何をするにしても見張りは必要、その点彼女達ならすぐに戻ってこれるので外で待機しても問題ない。
本当はリアルタイムの報告とかできたらいいんだけど、とりあえず今はこの状況をやり過ごすのが先決だ。
どたばたと家の中へ、そのまま扉を閉めてしっかりと鍵を閉める。
恐る恐る窓から顔を出すと広場の奥がよく見える。
「・・・来ます!」
「ものすごい数の魔物です!え、こんな数・・・信じられない」
よほどの数なんだろう、七扇さんが恐怖に震えだし須磨寺さんがその肩を抱いて必死になだめる。
俺も桜さんの横に移動して彼女の背中をそっと手を置いた。
「俺達の総攻撃を受けてびくともしなかった家だぞ?大丈夫、何とかなる」
「そう、ですよね」
「とりあえず今は生き残ることだけ考えよう。なんせまだダンジョンにもたどり着いてないんだ、それにあのマンションを買ってまだ一カ月も経ってないんだぞ?こんなところでやられてたまるか」
「あはは、確かにその通りです」
そんな話をしていると、窓の向こうに無数の魔物が向かってくるのが見えてきた。
多種多様、いったいどれだけの期間氾濫し続ければこんなことになるんだろうか。
そもそも魔素の少ない・・・というかほぼない地上で魔物が生きていくのは難しいはず、にも拘らずこれだけの数が出てくるのは想像もしていなかった。
「すごい・・・」
「これはちょっと多すぎだろ」
「こんな魔物見たことありません」
「ねぇ、こっちに来るよ!」
「全員床に伏せろ!いや、机の下だ!机の脚を持て!」
広場に押し寄せる無数の魔物、そいつらは森の奥へと向かう流れて端の方に建てたこの家にも向かってくる。
ドスンというかドカンというか、ともかく物凄い振動と音が家の中に響き渡る。
桜さん達の悲鳴がすぐ横で聞こえているはずなのにそれをかき消すようなすごい音。
気づけばリルとルナも家の中に入って来て同じように固まっている。
早くこの音が終わりますように、ただそれだけを願って机の脚を掴み続けた。




