345.難易度の違いを実感しました
円山ダンジョン。
札幌西部に位置し、周りには動物園の他原生林が広がっている自然豊かなところ。
昆虫採集にはもってこいの場所で、シーズンになると昼夜を問わず虫網と虫かごを持った人たちが訪れるという。
そんな一角にあるのがダンジョン入り口、森に入るための獣道がそのままダンジョンになってしまったらしくその横に小さなプレハブ小屋が並んでいた。
「なんていうか、かなりの格差だなぁ」
「ですね。武庫ダンジョンでももう少ししっかりしていますけど・・・D級ですよね?」
「ここは不人気だからねぇ。新人探索者が行くE級はもう少し綺麗に作ってあるけど、慣れた冒険者が来る場所は実はこんな感じなんだ。あぁ、札幌ダンジョンは別だよ?あそこは観光地だから一般人の目にも触れるし来てくれる探索者の為にもしっかりとしたつくりにしてあるんだ」
男女別々の更衣室は当たり前として、せめて風呂はなくてもシャワー室ぐらいは用意してほしいんだがそれぐらいはあるよな?
そんな不安を覚えるぐらいの質素なつくり、経費削減というかなんというか。
ダンジョンにも人気差があるのは当然としてそれがここまで影響するんだなぁ。
「これが格差か」
「他のD級ダンジョンはここまでじゃないし、むしろ定山渓ダンジョンとかはもっとしっかりと作られてるかな。土地が土地だけにどっちの更衣室にも大浴場があって温泉に入り放題だよ」
「僕そこに行きたい!」
「とりあえずここを走破してからな」
そこに行きたい!と元気よく宣言する須磨寺さんだけど、目的を達成する前から次のダンジョンを考えるのはいかがな物か。
と、言いつつも儲かるとはいえこういう設備だと通う気持ちも少なくなってしまうので、サクッと走破して次に行く方がいいかもしれないなぁ。
そんな感じで受付を済ませてすぐに準備をしてダンジョン前に集合、一応シャワーはあったけれど・・・いや、戦う前からテンションを下げる必要はない。
「それじゃあ行ってらっしゃい、連絡をくれたらすぐに迎えに来るから。大丈夫だと思うけど気を付けてね」
「ありがとうございます」
柊さんに見送られながら順次ダンジョンの中へ、黒い壁を抜けるとそこは入ってくる前と変わらない巨大な森の中だった。
右を見ても左を見ても巨大な樹木が並んでいる。
植生が違うから別の場所だなとは思うけれど、これはなかなか大変かもしれないぞ。
「これは思っている以上に視界が悪いな」
「ですね、奥の方がほとんど見えません」
「七扇さん、魔物の気配はどうだ?」
「今の所感じませんけど、方向とかはわかると思います」
顔にかかる高さには何もないけれど、それよりも上の2mぐらいの所に巨木の葉が覆いかぶさるように垂れていてそのせいで奥が見通せない。
幸い足元には何もないので戦闘になれば問題はないだろうけど、長物を振り回すのは難しそうだ。
「近くまで来たらわかるだろうからとりあえず気配を感じたら教えてくれ。ここに出るのはアントソルジャーか」
「兵隊アリって意味だけど、御影ダンジョンに出てきたようなのじゃないみたいだよ」
「二足歩行する蟻、リザードマンとかそういう亜人系で考えればいいのか?」
「そんな感じですかね」
円山ダンジョン第一階層の魔物はアントソルジャー。
身長1.5mぐらいで複数匹が群れて行動しているらしい。
強さはそこまでないらしいけどどんな魔物も数で来られると厄介、とりあえず出てきたそばから各個撃破していけば脅威にはならないだろうけど、垂れている葉っぱのせいで確認するのが少し難しい。
可能なら魔装銃で狙撃したいところなのだが、敵の強さ次第では突進スキルで一気に薙ぎ払うという手もある。
「亜人タイプですけど、首から上は完全に蟻だし噛み付きだけでなく蟻酸も吐いてくるから接近戦は気を付けてね」
「了解。とりあえず接近するときは気を付ける」
不用意に近づいて蟻酸の雨を浴びるのは避けたいところ、頭の上をかする葉っぱが気持ち悪くて少し身をかがめるような形で奥へと進んでいく。
足元には落ち葉が堆積していて歩くたびにカサカサという音がする。
枯葉を踏む音が楽しいのか先を行くリルが楽しそうにそこらじゅうを走り回っていた。
あんまり走るとこけるぞ、そんな風に注意しようとしたその時だ。
「ん?止まって!」
突然桜さんが大きな声を出して先を行くリルを引き留める。
前足を下ろそうとしたところでぴたりと動きを止めると、そのまま巻き戻すように後ろへ下がった。
「どうした?」
「何かあります」
「何かって?」
「それはわからないんですけど、なんだか気持ち悪くて」
桜さんの直感スキルが何かに反応様子、七扇さんの罠発見には何も反応していないのでそれ系ではないだろうけど、とりあえず足元の葉を棍を使ってかき分けていく。
少し湿った落ち葉の下から出てきたのは白いお餅のような白くて丸い何か、試しにつついてみると吸い付くように棍にくっついた。
「これは・・・とりもち?」
「え!でも罠の反応はありませんでしたよ?」
「本格的な罠って感じじゃなさそうだけど、結構接着力が強そうだ」
強く引っ張ってみるけどなかなか棍から離れないが、素手で触ると大変なことになりそうなのでとりあえず落ち葉を使って強引に引っぺがす。
中々の粘着力、もしかしてこれがいたるところに埋められているのか?
「なんでスキルが発動しなかったんでしょうか」
「わからないが、罠って認識されてないのかもな」
「といいますと?」
「奴らからしたらこれは保存食で、罠という感覚で隠しているわけじゃない。だからスキルは発動しなかった、強引な考えだけど可能性はゼロじゃない」
彼らからしたら罠以外の物、だから発動しなかったというのはあながち間違いじゃないと思う。
とりあえず棍で足元を警戒しつつゆっくりと進むとリルと七扇さんが同時に注意を促してきた。
そのまま後ろに下がって二組に分かれ、巨木の後ろに隠れて様子を伺うと複数の落ち葉を踏みしめる音が聞こえてきた。
現れたのは蟻の頭をした二足歩行の魔物。
手には巨木を削り出したと思しき槍を持ち、同じく巨木を使った鎧を身に着けている。
ウッドアーマーと言えばいいのだろうか、なかなか器用な奴らだ。
「三匹・・・いや、この場合は三人になるのか?」
「どっちでもいいと思うけど・・・あ!何かするよ」
三人のうち一人が辺りをキョロキョロ見回し、落ち葉をかき分けたところにカバンから取り出した白いブツをそっと置くと急いで上からかけなおす。
他の二人も同じく周囲を警戒、よほど大事な物なんだろうか最後にポンポンと落ち葉の上を軽く叩いていた。
「隠したな」
「隠したね」
「大事そうにしていますけど一体何なんでしょう」
「わからないけど、それよりも僕はどうやってあのべたべたしたのをカバンから取り出したのかが気になるんだけど。え、特殊なカバンなの?」
「それはあいつらを倒せばわかるだろ。桜さん準備良いか?」
「いつでもいけます!」
いつまでも隠れていたところでダンジョンを走破することはできない。
向こうが背を向けた瞬間に走り出し、相手がこちらに気づくよりも早く棍を振りぬく。
狙うは鎧に守られていない首元、居合抜きのように振りぬいた棍が見事に命中するも中々の硬さにはじかれそうになってしまった。
だが、跳ねるよりも早く力を入れなおして強引に押し込むとベキベキという感触と共に首をへし折ることに成功、勢いもそのままに一気になぎ倒す。
襲撃に気づいた残り二匹がこっちを振り向くも桜さんのメイスが右側の奴の頭を叩き潰し、別の木に隠れていたリルが勢いよく飛び込んで残りの奴の首元にかみつきながら押し倒した。
間髪入れない攻撃で抵抗されることなく撃退成功、これがD級・・・こんな簡単だったかなぁ。
そんなことを考えながらリルが押さえつける魔物からスキルを奪うべく手を伸ばすのだった。




