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傾国の美男子  作者: 空乃明
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姉 【ユリウス視点】

こんにちは。僕はユリウス・アル・デンパールと申します。

デンパール家の一応長男であり跡取り息子とされていますが、実際は養子です。僕の両親は他にいて、僕は幼い頃に捨てられたようです。ですがデンパール家との血縁関係はあります。それは僕の実父がデンパール家の主であり現養父であるエルハルト様と兄弟関係にあるからです。僕には両親の記憶は朧げにしかありません。母の顔もよく覚えていないのです。そして今更聞くことはできません。覚えているのは、ああ僕は捨てられたんだということだけです。





僕の身の上話はどうでもいいのです。それよりも気になるのが、僕の姉のことなのです。最近特に、姉の様子がおかしいのです。



以前から姉は引籠りがちではあったのですが、あの事故が起こってからは部屋の外にすら出なくなっていたのです。ですが、ここ最近はよく部屋の外で見かけるようになりました。

というか、なぜか僕の剣術の稽古の時は必ず近くにいて、じっとりとした目で僕を見てくるのです。



もしかしてあの事故で、姉の性格が変わってしまったのでしょうか?いや、それなら引籠っていた1年半は何だったというのでしょう?



なにより驚いたのが、意地悪をしてこなくなったのです。以前は顔を合わせば、敵意の籠ったような紫の瞳で睨まれ、嫌味を言われたりおやつを盗られたり転ばされたりしていました。勿論それを見つかっては周りの大人たちに怒られていましたが。

しかし、いきなりぱったりとそれが無くなりました。そして無くなった代わりに、僕をあのような目で観察するようになったのです。正直少し気持ちが悪いです。



やはり、あの事故の後遺症なのでしょうか?

それなら気持ちが悪いとか思ってしまって申し訳ない気もするのですが…。



姉は1年半ほど前に、とある高貴な方の魔力暴走に巻き込まれ、生死を彷徨った経験があります。一命はとりとめたものの身体中に傷を負い、目は不自由となってしまいました。全く見えなくなったわけではないらしいのですが。


今もつけているあの見た目の悪…不思議な魔道具『がんきょう』と言ったでしょうか…?をつけると見えるらしいです。一度、姉に借りてつけてみたことがあるのですが、僕がつけると全く見えませんでした。むしろ気分が悪くなったくらいです。そんなものを姉は毎日つけて、そして僕を見ているのです。


それに不気味なのは、決して向こうから話しかけてこないことです。以前はいつも姉から声をかけてきていました。無視すると嫌がらせが酷くなりそうなので適当に返事を返していました。面倒くさかったのは記憶に新しいです。


ですが、あの風貌でこちらを見られると気になるというもの。

意を決してこちらから声をかけると、姉はなぜかものすごく嬉しそうに返事をします。いったい姉に何が起こったのと言うのでしょうか。




変化はそれだけではありません。今まで決して会おうとしなかった、魔力暴走をおこした人物で姉をこのような姿にした人物であるダンウォール家の次男・ルーウェン様に会うと言い出しました。しかも二人きりで。以前の姉からするとありえません。


因みにダンウォール様は毎月決まった日に、謝罪として訪ねてきてくださっていたのですが、姉が断固として会いたくないと言って拒否しておりました。

正直な話をしますと、我々は拒否できる立場ではありません。あまりにも家格が違いすぎるのです。僕は常々、4公爵家が1つの家紋を蔑ろにしているような行為は辞めてほしいと思っていましたが、実際に言葉で直接姉に伝えることはしませんでした。なぜなら伝えたとしても、あの姉が素直に聞くとは思わなかったからです。それなのに急にどうして会うと言い始めたのでしょうか。まさか家の家格を気にしているとかそういうことはありえないでしょう。もしかして…何か裏があるのでしょうか?




「姉さま?」


そう。変なことと言えば、ここ最近は呼びかけてもうっとりとこちらを見ているだけで、意識がここにないことが多いのです。考え事をしているのか、ただぼーっとしているだけなのかわかりません。これも以前には見たことのない姿です。



「姉さまってば!」

「なあに?どうしたの?」


返ってくる返事はここ最近は本当に柔らかく、なんとも気の抜ける感じがします。以前は顔を会わすだけで緊張していたのが嘘のようです。

姉は首をコテっと傾げてニコニコしています。毒気が抜かれる感じがして、思わずため息が漏れます。


それにしても、今日はダンウォール様とお会いする日だと聞いていたのだけど、よもや忘れていたりしないですよね?

「姉さま。今日はダンウォール様がいらっしゃる日ではなかったのですか?こんなところで油を売っていていいのですか?」


そう言うと、今まで本当に忘れていたかのように顔を青くして慌てて部屋に戻っていきました。

嘘でしょう…。まさか本当に忘れていたのでしょうか?こんなに抜けている人でしたっけ?





さて。僕は養父母からの言付けを守らなくてはいけません。養父母は僕を本当の家族のように扱ってくれています。嬉しいです。ですが僕は、どうしても心を開くことができないでいます。そうれはもうどうしようもないことだと、自分でも諦めています。



僕のことは置いておいて。

先ほど本人に言ったばかりですが、今日は姉がダンウォール様とお会いする日です。何故か急に、姉がダンウォール様と2人でなければ会わないと言いだしたため、養父母も僕も同席はしないこととなりました。

勿論はじめは反対しましたが、同席するなら会わないと姉が駄々をこね始めたのです。けれど、やはり体裁もありこれ以上公爵家からの謝罪を無視することはできないと考え、両親は渋々二人で話合うことを許可しました。勿論近くに侍従はいますけどね。

メリーなら安心ですし。


けれど心配性な養父母から、公爵家の息子に粗相があってはならないと陰から見守るよう言われているのです。心配する対象が間違っている気もしますが、僕も両親に賛成です。


しかし、陰から見守るのはダンウォール様にはバレるでしょう。まぁでもたまたま近くにいたという設定なら許されるでしょう…きっと。



今日は天気が良いので庭で会うことになりそうだと、姉の侍女であるメリーから知らせが入りました。デンパール家はどちらかと言わなくても貧乏な貴族なので庭も狭いのです。お茶ができるスペースは一か所しかなく、予想した通り庭にある大きな木の下にティーセットが用意されているようです。しかもそこは僕の部屋のすぐ近くなのです。話声もある程度は聞くことができるでしょうし、何かあったときにはすぐに駆け付けることができるでしょう。



僕は自分の部屋で待機し、2人を見守ることに決めました。


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