44章 新天新地
……『僕』たちは、何もない大地に一つの種を植えることにした。
全てが原初に戻った地球に、一本の木が生まれた。
僕たちは、幾つもの種を植えることにした。
世界に、幾つもの自然が蘇った。
僕たちは、世界に家畜を放つことにした。
世界に、動物という概念が蘇った。
僕たちは、脳と肉体を繋げて人類を再生させることにした。
世界に、人類が蘇った。
僕たちは、人類に生存と繁殖を教えることにした。
世界に、人類が繁殖していった。
僕たちは、人類を見守ることにした。
世界は、僕たちがいなくても少しずつ動き始めていた。
僕は不老不死者の仲間たちと、世界を旅することにした。
人類の生きられる環境を増やすため、世界中に種を蒔いていった。
自然が蘇り、動物が蘇り、人類が蘇る。
全てが荒廃したはずの世界は少しずつ豊かになっていく。
かつて人類が生きたような、懐かしき光景に戻っていく。
人々は二次関数的に増殖し、世界の各地に散らばっていった。
火を得て、家畜を得て、石器を得て、文明が生まれ始めて、国ができ始めて。
全てを失った人類は、かつての文化を再形成していく。
争いと愛と、差別と和平。
何もかもを包括した星の歴史が、再び世界に刻まれていった。
時代は移り変わっていく。
文明の進歩と共に、人類の成長と共に。
その軌跡を僕たちは知っている。
在りし日の姿と類似した、世代の系譜は繰り返されていく。
縄文時代を経て、奈良時代を経て、戦国時代を経て、明治時代を経て――令和時代に至る。
異世界との交流が無ければ、二千年台に至ってもまだコンピューター時代から抜けられないと皇紅葉は考えていたが、世界は彼女の予想通りに進んでいた。
それは、やがて人間が滅亡することの証左なのかもしれない。
僕たちは、そんな世界の中を生き続けている。
今の人類に溶け込んで、この世界の地下深くを調べている。
災害が全てを掻っ攫ったと思っていたのに、地下深くからは、滅びた世界の遺物が幾つか発掘されていた。
僕たちはその遺物を回収し、新たな人類に過ぎたる技術が及ばないよう、抹消し続けた。
人類が人類らしく生きて滅亡する世界に、滅びた世界の遺物など不要なのだから。
でもいつか、回収し損ねたオーパーツを誰かが発見して、異世界の存在を知るのだろうか?
また人類は異世界転生に依ってしまうのだろうか?
それを再現できる天才が生まれたら、僕たちがそれを食い止めるつもりだけど――。
死が救済だと信じてしまう世界に、再び至ってしまうのだろうか?
だから、これはそのために用意した旧約。
異世界転生のない世界を正しく導くための歴史。
あなたのための、未来であり過去でもある物語。




