525 収穫の余韻と、キッチンに広がる甘い予感
収穫したばかりの瑞々しい野菜たちをシンクに置くと、俺はそのままキッチンの中心へと向かった。
窓から差し込む朝の光が、清潔に保たれた調理台を明るく照らしている。
「さて、次は朝のデザート、あるいは軽い昼食の準備といこうか」
俺は心の中で必要な材料を強く思い浮かべる。
「最高級の小麦粉、蜜の詰まった真っ赤なりんご、そして香りの強い発酵バター」
ぽんっぽんっぽんっ。
小気味よい音と共に、テーブルの上には陶器のボウルに入った真っ白な小麦粉、表面に朝露を纏ったような艶やかなりんご、そして銀紙に包まれた厚切りのバターが並んだ。
隣で様子を見ていたメセタが、りんごの甘い香りに鼻をピクつかせる。
「我が君、今度は何が始まるのですか?」
「お楽しみだ。獲れたてのりんごを使った、ちょっとした贅沢だよ」
まずは、りんごをおろし金で丁寧に擦り下ろしていく。
シャリシャリという音と共に、フレッシュな果汁と甘酸っぱい香りが一気にキッチンを満たした。
次に、大きなボウルに小麦粉を広げ、そこへ常温に戻しておいた濃厚なバターを贅沢に投入する。
「よし、ここからが本番だ」
俺は袖を捲り上げ、小麦粉の山に擦り下ろしたりんごを汁ごと流し込んだ。
粉の白さと、りんごの淡い蜜色、バターの黄金色が混ざり合う。
指先で粉とバターを擦り合わせるように混ぜ、徐々にりんごの水分で一つにまとめていく。
手のひらを通じて伝わってくるのは、しっとりとした生地の弾力と、バターの脂が体温で溶け出す滑らかな感触。
捏ねれば捏ねるほど、素材の香りが一つに溶け合い、えも言われぬ芳醇な匂いへと変化していく。
「いい感じだ。生地がしっとりしてきたな」
メセタが期待に満ちた目でじっと手元を見守る中、俺は心を込めて生地を捏ね続けた。
この無心になれる時間が、何よりも心地よかった。




