1-32.反省と対策
うーん、不味い。
失敗してしまった感がある。
「やばいなーどうしたものか。」
再考したところでどうしようもないのだが、ゲームみたいにセーブ&ロードが挟みたい、リセマラしたい衝動に駆られる。
「勇者は撤退させた、なにが不満?」
件の勇者組は階層に入った途端に罠に掛かり、重症を負い撤退。完勝にも近い結果で終わったというのにも関わらず喜ぶどころか考え込む俺の姿を見て小首を傾げるレーラ。
「撤退させただけだ。本当ならあそこで一人くらい削っておきたかった。」
そのわけは簡単だ。
余裕を見せている間に大幅に戦力を削り後々を楽に、もっといえば攻略を諦めさせたかったのだがタンクをしていたヤツが優秀だったんだろう。
あの装備で正面切って耐えきるとは思わなかった。
「あの程度で撤退する程度の勇者なら次仕留めれば良い。」
「それが出来るんなら良いんだけどな。」
「なぜそこまで心配する?」
たしかこの辺りのタブにまだ残っているはず、あった。
重なりすぎてどこになにがあるのかわからないほどあるタブとウィンドウの中から先程のログとその関係のプレイヤー情報を表示させる。
「この装備だよ、勇者ってわりに貧弱に見えないか?」
確認出来ない一人を除いてそれぞれ勇者の装備は街の店で一番高そうな装備を一式買い揃えセット効果の付いた装備に毛が生えた程度の性能をしている。
「確かに。以前交戦した勇者より軟弱に見える。」
自分のやっていたゲームを基準とするならこの手の装備は初心者くらいしか使わないし表示されている装備名を見る限り特殊な効果を持っているようにも見えない平凡なものだ。
つまりは、威力偵察。
下層なんかでも武器や防具の破壊に特化した罠やモンスターはけっこうな数存在する。
それは腐食や溶解など色々とあるのだがそれは割愛するとして、そういったことを嫌がって階層に分けて装備を変えていくといった戦法は元いた世界だと割りとしてくる事が多い。
そのため低階層の装備でまだ装備が甘えている間に初見殺しや回避不能の罠を仕掛けてメンバーを一人二人削るということがしたかったのだが。
「ままならんもんだなぁ。」
とはいえ、いつまでも終わったことで悩んでいても仕方ないので切り替えていこう。
次からは警戒度が上がり、装備も強いものに変えてきていると仮定して一般冒険者の出入りが多い下層は現状維持、中層以降の罠に調整を加える。
連鎖的に罠を発動するように、モンスターの習性から敵対せず且つ、溜まり易い場を整えて難易度を一段上げていく。
「これでも上手くいくかどうか。」
懸念対象としては、タンク役である勇者が土壇場で発動させた食い縛りスキルだ。
対象の体力を1だけ残してスキル発動中は無敵になるものだったはずだが発動率自体25%程しかなく、あんな都合良く発動するスキルではなかったはずだ。
一応装備で確率を上げられるといえば上げられるのだがそれでもせいぜい30~40%が限度、他のスキルで補完してようやく50%に届くかどうか。
たまたま当たりを引いて発動したにしてもそんな運頼りのタンクなんて他に二、三枚タンク役がいなければ役には立たないはず。
つまりは他になにかあるから前衛はアイツ一人に任せられているという事だ。
と、そこまでは予想できるのだが…。
「あれだけだとデータが足りないなぁ。」
確認しようにも勇者たちの能力を引き出すだけの上位モンスターを現在奴等のいる階層に放すわけにもいかないわけで。
攻略も慎重になってくるだろうし様子を見つつ体の良いところでちょっかいを掛けるのがイイ気もするが、そういった階層まで来ている段階でこちらの準備が間に合う気がしない。
そもそも、レーラたちの話が本当だと仮定するとまだ特殊スキルの発動も一部のみだろうと考えておいた方が良い。
なので行動は早めに、かつ効果的に行いたいとなると……、
「どうしたの少年。なにかお悩みかしら?」
ふわりとした香水の匂いがしたと思えば、ずっしりとしたたわわな感触が背中を襲い思考が中断される。
「ん、シーシェか。ハグしてくれるのはありがたいけど今忙しいんだが。」
近くにいたレーラはいつの間にか消えており、シーシェが代わりにと俺の首に手を回して抱きつき、ふわふわと浮きながら興味深そうに画面を覗いている。
とても、たわわな感触が背中に押し付けられてきて役得です。
だが良い匂いとその感触で全然集中できない。
「ふむふむ、シュウはこいつらが邪魔なの?」
「邪魔というか、例の勇者がこいつらなんだが」
そういえば最近はミズホたちとダンジョンに潜ってて勇者たちの事は詳しく知らないんだっけ。
「なら、私が行って退治して上げようか。」
「……良いのか?」
考えなかったわけでもないが、正直シーシェとレーラは戦力に考えてはいなかった。
ミズホとエミリーに関しては戦力不明の相手にぶつけるにはまだハイリスク過ぎるだろうしとその方法は見送ってはいたけど、まさかあちらからの助け船だ。
「今はシュウのモノとはいえ、元々ワタシたちはここの管理をしていたわけだし~。邪魔者を追い返すくらいはしてあげるわよ。」
ということなので、利用させてもらうとしよう。
「それじゃあ、頼んでもいいか?」
「うぃ、任されましたぁ。」
背中の重みも消え、柔らかな感触がなくなり若干の後悔を感じながらバサリと羽ばたく音が耳を打つ。
「威力偵察くらいでいいから無理はしないでくれよ。」
「は~い、」
威力偵察であって殲滅するためではないのでそこまで無理にする必要はないだろうと一言伝えておく。
いつものような軽いノリで返事が来るとなんとなく、もう一言くらいは言っておこうと振り向いて見ればすでにシーシェの姿はなく、声だけが響いて消えていった。
そこまで意識していたわけではないがまだ話し足りないと思ってしまうもシーシェの実力ならば元気に帰ってくるだろう。
その時にでもまた話せば良いと思考を切り替え、画面へと向かう。
ふと、一息着いて時間を見るといつの間にかだいぶ経っていた。
目の疲れも中々溜まってきているのがわかり目頭を軽く揉み目を労ってやるといつものように背後を見る。
「……あー、疲れてんな。」
そこになにがあるわけでもなくただ岩肌が露出しただけのさっぱりとした空間がある。
前のように誰かがいるわけでもなく、いつもみたくちょっかいを掛けられるわけでもない。
久しぶりの感覚と疲れから昔の癖が出たようだ。
らしくないなと、思いつつ言葉にもならない何かと共に大きくため息を吐く。
軽く頭を掻いて首を振り、雑念を払ってゆっくりと立ち上がる。
一眠りくらい必要だろう、それくらいの余裕ならあるだろうとディスプレイをシャットダウンさせ広間を後にする。




