1-29.ダンジョンアップデート
「いやー、久しぶりに楽しかった。」
「ワタシは教えがいがなく詰まらなかった。」
ダンジョン自体は特にイジらず状況把握にさらに数時間。
ようやくある程度必要な数値のタブ分けと使いやすいウィンドウの配置が終わってとても満足。
整理整頓は大事なのです。
変わりになのだが結局やることもなくこちらの作業を後ろからただ眺めていたレーラは暇そうだった。
ゴーレムだからといって放置されるほど無感情というわけではないらしい。
さらにシステムの認知度で言うなら俺の方が詳しいせいで少しムスッとした顔をしている。
「あぁ、ちょっと聞きたいんだがこのダンジョンのレギュレーションって相当旧いみたいなんだけどその辺のアップデートってしても良いのか?」
それはそうとこのダンジョン、相変わらず基本に忠実ではあるのだが最後に手入れがされたのはいつだったのか古いままの設定なのに気付いた。
「…レギュレーション、とは?」
実際に知識はあるのだろうがその辺、イジったことのないはずのレーラが知らないと思いつつも聞いてみるが案の定。
「え゛、そこからなのか…。えーっと待てよ、だったら変更で使えない箇所が出るかも知れないのか。」
「シュウ、アナタが理解してるのはわかりますがコチラにも説明を。」
まぁ、予想通りだ。
「んーそうだな。現在の環境に対応してないって言えば良いのか?とりあえずダンジョンとしては確かに良い塩梅なんだけど増えたスキルやアイテムに対応してなくて正常に動かなくなる可能性がある箇所あるんだよ。」
例えばの話だ。
モンスターなんかは生きているだけで実は日々進化していたり適応していたりする。
それと同じように冒険者も攻略を最適化するために新しいアイテムやスキルを作ったりするわけだがダンジョンは勝手に最適化するなんてことはない。
「というと?」
「えーっとこの辺りの罠なんだけど形式が旧くて対処が簡単に出来るんだ。せめて付与が出来れば良いんだがまずそれが出来る状態にない。だから一回作り直して付与出来る物と取り替えなくちゃならないんだ。」
だから初期から設定されているであろう中階層にある罠を一つ指定して説明しよう。
この罠、ただの落とし穴である。
10階層までならただの落とし穴で充分だ。
だがこの辺りの階層になってくるとそれだけだと簡単に突破されてしまう。
だって落ちたって本当に運が悪くなければ死ぬこともないので足止め程度でしかなく現在の慣れた冒険者相手では多少手の込んだ場所に配置されているとはいえ看破されている確率も高い。
システムのアップデートはそこら辺を解消してくれるわけだ。
相当古いのでいくつか罠や通路が使えなくなるかと思ったがやはりこのダンジョンはその心配がないので安心する。
それで落とし穴の方に戻るわけだがこの罠に特殊効果を追加出来るようになった。
この階層辺りからは真面目に撃退することも考えなければ行けないので選択するのは即死性。
剣山と書かれた効果を選択。
これで落ちた対象に[即死]効果を与えられるようになった。
それとおまけで隠匿レベルもイジれるようになったのでそちらも上げておく。
ちなみにレベルはどれくらい変わるかというと初期の状態がそのまま口を開けている状態で一つ上げると地面と同じ色の布が被さっている程度、3で辺りでようやく地面か罠かわからない程である。
最高の10まで上げると同レベルまで看破スキルが上がっていないと発見出来ない程度になっている。
前の落とし穴は今で言うレベル3固定で看破系のスキルがあればレベル関係無く見つけられるというモノだったので用途の幅が広がったと言える。
あえて此処に罠があるんだと見せつけるというのも演出や次の罠に掛けるための布石として使う。こういうのを考えるのはダンジョンの醍醐味である。
がこの場に設置している罠はそういう用途ではない、それだけなので今回は却下。
と、こんな感じで罠一つとってもバリエーションがけっこう増えているわけだ。
「つまり通常行われるメンテナンスでは足りないと言うこと?」
「そういうこと。だからけっこう手直しを、した。」
一つ作ってみるとやはり楽しいよね。
って感じで特にイジってないと言ったな、アレは嘘だ。
気がついたら中層以降の階層の罠は劇的ビフォーアフターしたわけである。
「なぜ過去形?何故今更ワタシに聞いてきた?」
「いやほら、楽しくなって手が止まらなくなってつい…。モンスターも罠もここのマナならほとんど造り放題だし」
自業自得ではあるしレーラが怒る理由もわからなくはないのだがどうしてもやりたくなってしまったのだ。
だから、感情のない眼でこちらをジッと見つめてくるのはやめてください、お願いします。
「……、問題無い。ここはもうシュウのダンジョンなのだからどうするかはアナタ次第。」
ジッと見つめていた瞳は急に興味を無くしたように視線を反らしてしまった。
元々あまり感情の乗った声色はしていないレーラではあるが、吐き出した言葉を聞く限りでは一応許してくれたと言うことなんだろう。
「うん、ありがとう。」
「何故礼を言うのか。」
「いや、なんとなく。」
「………、そう」
そのあとも何だかんだと言いつつもレーラが止めてくることはなかった。
興味だけはあるのか仕切りに覗いてきたり新しく設置した罠やらモンスターやらの説明をその都度させられるのはめんどくさくはあったものの昔延々と根詰めてダンジョンを製作していた時みたいな懐かしさもあってよい気分で終われたと思う。
それはそれとして、二人で共同で作ったダンジョンを俺が弄る度にダメ出しされた記憶も甦って来たのだが無かったことにしよう。ソウシヨウ。
「よし、調整終わり。」
「おつかれさま。これでダンジョンは良くなる?」
「元からテーマ的に攻略の難しいダンジョンだしなんとも。多少は難易度が上がった程度じゃないかね。」
あの人が管理したのが相当前だったからなのか色々ボロは目立ったもののその辺の修繕やメンテナンスは元から俺がしてた事も多いし、ていうかガサツだし俺がしなくちゃ行けないことの方が後半は多かったような、家の片付けとか料理とかまで仕込まされて、家庭科の授業とかで女子に持て囃された話したらその日は1日対戦ゲームでこれ以上無いほどボコられたり……。
あ、考えるのは止めておこう。これ以上は行けない。
「私のマスターが作ったダンジョンなのだから当然。それよりもシュウ、アナタはマスターの事を知っているのでしょうか?」
「どうなんだろ。元いた世界でこれに似たのダンジョンの概念を作った人なら知ってるけどそれってつい最近の話だしな?」
確証はほとんどないがこの癖のあるダンジョンはだいたいあの人だろうと確信している。
色々な元になってはいるがここまでしっかりとして且つ遊んでいるダンジョンはあの人しかしない。
が、時間的な誤差などあるため確証はないので適当に暈しておく。
「なるほど。変な話をした。」
それ以降、レーラは口を閉ざしてしまった。
興味がなくなったわけではなくジッとこちらの手元を見ている姿は昔の事を思い出すようで…。
まぁいいか、早く作業に戻ろう。
さて、有限とはいえ大量に余っているマナを使ってダンジョンを改変していっているので静寂がしばらく続く。
ふと、休憩がてら例の勇者組の動向をタスクの中から見える場所に移動させておく。
彼らの所在は現在12階層辺り、破竹の進撃と言わんばわかりの進行速度だが14階層から順次手直しも終わってきているし間に合ったというところか。
これで進行が遅くなれば良し、中断まで追い込めば万々歳だ。
言っている間にもう13階層まで来ている。
いくら最適化がされていないとはいえ早すぎないか。
メンテナンスと最適化を進めつつも勇者組の行動ログと進行状況のわかるように設定したウィンドウをいつでも見れる場所に置いて随時確認をする。
やはり罠に関しては一人が解除か無効化しているようだ。
全て解除しているわけではなく回避できるものはしっかり避け、ある程度力を温存している事である。
モンスターに関しても現在突破されている階層は所謂応用編といった場所だ。
これまでのモンスターや罠、エリア効果を組み合わせ、ある程度厄介にしましたよ。というレベルで応用力さえあれば突破出来るような仕様にしている、だから勇者と言われるような奴等にはきっと朝飯前だろう。
低い階層に関してはそこまで広い階層というわけでもなし、これくらいは当たり前か。
というのが前提で、今から手直ししている階層からは初見殺し、それと対策した先から潰すという作りになっている。
例えば、これまで罠や戦闘をメインとし装備なども充実させないと越えられないエリアの次に沼地や溶岩地帯などを用意したりなどだ。
前者は防御を固めさせ堅実に行けば越えられるが後者は堅実な装備で進行すると酸に毒にデバフ、溶岩や地形効果などで殺すことを主にしている。
防具なども上級のドラゴンの素材を使った装備が相手でも破壊可能なモンスターや罠を配置している。
他にも属性を分けて配置したりデバフで固めた構成にしたりと嫌がらせにも手を抜かないようにしている。
まぁ、この構図自体は俺が考えたんでなくあの人が作ったものだ。
だがこれで十分。
後は今から侵攻してきている勇者たちを実験台にその結果を確認するだけだ…。




