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1-25.暗闇の中で

シンと静まった暗闇の中、ふと自分に意識があることに気がついた。

いつから寝ていたのだろうか、ここも夢だとわかっているのに寝惚けた頭ではその境界も曖昧らしい。


「……、ここは?」


誰もいないしなにもないが独り言は出てくるようで誰に問いかけるわけでもなく呟くがやはり言葉は響くこともなく宙に霧散して消えていった。


誰もいない、何も聞こえやしないが不思議と寂しいということはない。


「おー、ようやく起きおったか。夢の中でまで寝るなぞ、器用過ぎであろう。」


ボケっと歩く振りをしてみるが歩いているような感覚もなくふらふらとしているとどこかで聞いたことのある声に意識を振り戻された。


そちらへ向くと傲岸不遜そうな、唯我独尊みたいな雰囲気のヤツがいた。

しかもこちらを見下してるのかニヤニヤと笑みを浮かべている。


はっきりと姿を認識出来るのだが見えていることに疑問はない。

なぜかと言われるとこれは一度目ではないからだろう。


「お前はミズホ……じゃないな。誰なんだ。」


ミズホを召喚して直ぐは同じ個体なんだろうと思っていたが今眼の前にしてみると姿形は似ているがまったく別人だ。


「ほぅほぅ…ふむ、アヤツはミズホと名付けられたか。」


こちらの質問などお構いなしに勝手に好きなことを話し出す。マイペースというのかこちらをおちょくるのが余程楽しいらしい。


「何が可笑しいんだよ、」


「クックックッ、いや、安直であると思ってな。良い感をしておるよ、主。」


相手に乗り続けてるとこのまま延々とくだらない話ばかりする気がする。

こいつ絶対俺のこと嫌いだろ。


「……それよりも俺の質問に答えてないだろ。お前はなんなんだよ。」 


今更ながらこれでミズホの本性でしたとかはないだろう。

なによりアイツはこんなに人を喰ったような遊び方はしない。


「わかっておろう。あの彼岸で主を蘇らせ呪った魔物じゃよ。主のせいで見てみい、ワシの大事な尾が後一本しか残っておらん。」


あの時に見たのは夢ではなかったらしい。

だが言われてみると淡く艶掛かった彼女の尻尾は確かに数を減らしており見ただけでは分かりづらいがどこかくすんで見える。


「じゃあ俺はまた死んだのか。ここが死後の世界とでも言うのか?」


ショックなんかない、死んだなんてことも思ってない。

なにより本当に死んでいたとしたらコイツの反応はもっと変わっていたと思う。


「労いの言葉も無しか、つれないのぅ。」


大事そうに残った尻尾を抱えながらヨヨヨとわざとらしく泣いているような素振りを見せるが悲しんでいる様子なんてこれっぽっちもない。


「そんな言葉欲しいようには見えないけど。」


あからさま過ぎて乗ってやる気にもならない。


「カッカッカッ、わかっておるではないか。では答えてしんぜよう。ここはお主の中、深層心理などと言った方がわかりやすかろう。」


なんとなくわかってはいた。

なんせ死んだんじゃなければ今、自分は気絶しているだけだろうし。

だがそれならそれで疑問がある。


「なぜそんな場所にワシがおるのか、じゃろう?当たり前じゃ、あの時ワシはお主を生き返らせるために尾を消費しワシの魂魄を依代として主に取り込ませた。」


顔に出ていたか。


「結果、ワシは力の全てを失い主の中で眠る事となった。というわけじゃ。」


「それは…、」


俺にとってはとても助かった話だ。

それだけである。コイツはただただ損をしただけのはずなのに俺の不甲斐ない所で一番の被害を受けてしまったはずだが最初からこいつには俺を怨み辛みを当てられても良いと思ってしまう。


「別にお主に謝られとうなどないわ。同情も感謝もいらぬ。代わりにお主からはコイツをもらうからのぅ。」


だが目の前のコイツはそんなものはいらないと吐き捨てる。代わりにと尻尾の中から淡く青い炎を取り出しソレをもらうといった。

それは儚さすらあり揺らぐ炎はどこか懐かしい物に見え…、いや、ちょっと待て、これ見よがしにしているそれは自分だからこそどういうものなのかわかってしまった。


「おい、それって…。」


「もちろん、お主が持つ人間としての魂じゃ。あのメイドも良い物を剥ぎ取ってくれたようで重畳重畳。」


これまでのどの笑い方よりも一番嬉しそうに子供のような笑みを浮かべているが持っているのは俺の魂だし熱くもないのか恍惚とした表情で舌舐めずりをしている所を見ると背筋がゾワゾワと得体の知れない気持ち悪さに駆られる、いいから勘弁してくれ。


「人間として…?いや、待て待てそんなことしたら死ぬじゃないか。」


実際に今目の前で抜き取られた魂があるのだから死んではないはず…。

とはいえ自分の意識の中なのに魂は分離させられてるってどういうことなんだ。

……あんまり深く考え無い方が良さそうだ。


「お主の身体はのぉ、この世界で生きるには些か軟すぎる。あのメイドも主の魂を借り受ける事でこちらの世界に適応させようとでも思ったのじゃろうがそんなことワシが許すはずがなかろう。」


人の魂を指先で転がし遊びながら芝居がかったわざとらしい言葉を吐き出す。

様子から本気でこちらをからかうためだけにしたんじゃないっていうのはわかるがそれにしても言葉を選んでくれてもいいんじゃないだろうか。


「クックックッ、言葉も出ぬか?まぁワシも鬼ではない、本来ならメイドがする事をワシが引き受けてやろう。なに、予定が狂おうと結果が同じであれば文句もあるまい。」


あんまりすぎる、口が開きっぱなしになってしまった。

ミレイがしたいこともだがコイツがすることもわかっていない。特に結果が同じとはいうが俺の魂を玩具かなにかと勘違いしてるだろ。


「いったい、なにをするつもりなんだよ」


嫌な予感がしつつも口を開く。

たぶんコイツは俺が聞かなければ教える気なんてないだろう。

このまま魂同様に手のひらで転がされるのは癪だが騒いで逃げるなんて事は出来ないようだ。


「__、──に貴様が冒険者だと__せるだけじゃ。まぁしばらくは魂と肉体の乖離で多少不具合が出るかも知れんが直になれるであろ。」 


あっちもあっちで待ってましたと言わんばかりに答えて来るし。それにしても今コイツはなんて言った?はっきり聞こえてきたはずなのにさっきからあの手に持つ炎を見ていると頭に霞が掛かってくる。


「適当なヤツだな、失敗したりはしないのかよ。」


体の感覚ははっきりとしているのになにか考えようとしても上手く纏まらない。コイツのしてる事が早速現れたってことだろうか。

だがなんとなく、こいつに心配されたくないと軽口を叩いておく。


「さぁのぅ、もしやワシに身体を乗っ取られるやもしれんなぁ。」


またニヤニヤとこちらを見下すように嘲笑う。そんなに俺のことを怨んでるのか。いや、違う…、だめだ。コイツはそんな小さなことを気にするヤツじゃない。


「やっぱり返してもらいたいんだけど?」


兎に角あいつの持ってるアレは俺の物なはずだ。

本能的にアレがないからおかしいのだとナニかが叫ぶ声が聞こえてくる気がする。


俺はそこまで感情的になれない。せめて返してほしいと意思表示することしか。


「残念ながら返品は不可、どの道ワシが手放してもお主には帰って来ぬしな。」

「なんでだよ。」


なんで?

わかっているだろう。


「あんなものと契約したからに決まっておろう、人間には負荷が強すぎてフロッピーディスク時代のPCに最近のゲーム突っ込んどるようなもんじゃ。」


この世界で人間という生物は弱い。

冒険者という進化をしてようやく生きることが出来た。

じゃあその冒険者たちの使う道具をただの人間である俺が使えばどうなるか。


ミレイと契約した途端に俺は倒れた。

アレは気絶して倒れたんじゃなく……。


「やっぱ魔導具ってデメリット多すぎじゃ無いか。」

「まぁ、遅かれ早かれこうなったという話であろうよ。」


こうなる事をミレイが知らないはずがない。

悪意があったわけではないだろうが、彼女の真意がわからない。そこまでして俺を手助けする理由は…、あぁ、やっぱりダメだ。

上手く纏まらない、意識ももうちょっとでいいから持ってはくれないものか。


──、いつの間にか彼女は手の届きそうな位置でこちらを見下ろしていた。


馬鹿にするでもからかうわけでもなくまた少し寂しそうでツラそうな、手の一つでも繋いであげればその痛みは和らぐだろうか。

そうじゃない、俺が聞きたいのは、言いたいことは……。


「それって…、ぅあ──。ちょっと待て、……まだーき、ことが──。」


体の感覚がなくなった。

言葉がもうでない。

意識はある。

彼女は。


──────────────

「…ふむ、もう時間か。次見える時は外で、お主のことなど知らぬだろうがまぁ詮無き事じゃな。」


目の前にいたヤツからはもう欠片の魂も残っていない。

綺麗さっぱり儂がすべて吸い付くした。本来は外にいるメイドがしようとしていたらしいがどうにか阻止出来たようで僥倖だ。


きっとまだ意識はそこにあるのだろう。

契約者同士というのは目に見えずともなにかしらの縁が繋がると聞く。

だからこそ、主にはこの言葉を送るとしよう。


「ではまた会おう主よ。ワシはいつまでも待っておるぞ?その時にまた──、……くれ。」


こちらも時間切れのようだ。

せっかくいい感じに決めてやりたかったのにこれではもったいない。


だがまぁ、コレはこちらにあるのだからいつかは返さねばならんな……。

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