1-22.メイド屋敷
ミズホに連れられ北区へ、人通りの多かった西区に比べ高所得のつまるところのお金持ちばかりが住んでいるという地区を右へ左へと歩いていく。
その間にまともに人などほとんど見かけることもなくたまに馬車が自分たちの横を通り過ぎる程度。
朝来たときと同様、本当に人が住んでいるのかと疑いたくなるほど人気がない。
だというのにシンとした空気に似合わず自分たちの音が広がることなくどこかへ吸い込まれる感覚がある。
とても奇妙だがそんなことよりも先程からこの区画よりも明らかに長い距離歩いているだろうというのにも関わらず一向に着く気配がない。
というか、辺りの景色がそこまで変わらなさすぎていま自分のいる位置がわからなくなってきてる。
ここさっきも通ったよな???
それに段々黙って着いていくのも辛くなってきた。
ミズホは地図みたいな紙切れを片手に迷いなく進んでいくしエミリーはさっきから欠伸ばかりしてる。
ここはやっぱり何処に行くかくらい聞いてみるしかないのではないか。
「なぁ、ここ完全に街のど真ん中なんだが、狩りってまさかそこら辺に住んでる金持ちでも襲うんじゃないだろうな?」
「ここいら程度の金銭などあのダンジョンの収益でどうにでもなるわ。」
冗談でも襲うとは思ってなかったけど。
というか、あのダンジョンデカいとは思ってたけどまさか動かしてるだけでけっこうな金額のお給料とか入るんですか。
なんだその夢の錬金術、このまま元の世界に持って帰りたいな。
「今回はそうさな…、この街の仮拠点を獲りに行くだけじゃ。」
それはそれとして流石になんの説明もないのは不憫と思ってくれたのか答えてくれはした。
どの道物騒な事をこれからするんだという程度しかわからなかったが。
「悪いなエミリー、こんな事に付き合わせて。」
「いえ、私も契約した以上マスターのお役に立つ事ならばなんでも致しますので。」
どういう事になるのかはともかくとして拠点を取りに行くと言ってる以上、なにかしら戦闘になるんだろうなと、余計に物騒なイメージしか出来ないからか深いため息を吐いてしまう。
心の支えに否定的な言葉の一つでももらおうとエミリーに話し掛けてはみるがこの子ほんわかした外見に似合わず思っていたよりも好戦的らしく、ニコッと天使のような笑みを浮かべながらグッと拳を握り気合を入れてしまったのだ。
「…、この屋敷じゃな。」
ゆるふわ系新キャラのギャップ萌え?に頭が痛くなりそうになりながらもう一度ため息でも吐いてやろうかと思った矢先、件の場所へと着いたらしい。
「これ、人住んでないか?なんか明かりとか普通に付いてるぞ?」
「まぁ、問題ないじゃろ。」
ミズホが足を止めた先は周りの屋敷よりもまた一回り以上も豪勢な西洋風の屋敷。
西洋風の大きな家屋や目の前の屋敷と広さだけなら負けていない家は確かにあったがどれも病院のように白一色で彩られていたがここは赤レンガなどが使われており、明らかに周りから浮いているように見える。
だが外から見るだけでも無人で放置されていないことがよく分かる。
庭はしっかりと手入れがされており屋敷中も灯りが見える。
だというのにミズホはまるで我が家のように閉められた門を開け勝手に玄関まで歩いて行ってしまった。
ぼんやりと放置するわけにも行かず結局付いていくことに。
もう後はこの家の持ち主が広い心の人か留守だってのを願うだけです。
「「いらっしゃいませ、お客様」」
ぐるぐるとさっきエミリーと契約したとき以上に頭を悩ませながらとっとと待ちもせず屋敷の中に行ってしまったミズホを追いかけるように閉じかけた扉を開けると待っていたのは絵に描いたようなメイドたちによる出迎えだった。
まるで慣れていない事に呆然としながらもこちらに頭を下げ上げたあとから微動だにしないメイドたち。
あたふたしながらも軽く声を掛けてみるが動く気配すらない。
しかも二人はというとミズホはあたふたしている俺の姿を見ながら失笑し腹を抱えているしエミリーはメイドたちなど興味なさげに欠伸を洩らしている。
自分だけが恥ずかしい思いをしているのでは思っていた矢先、全員が全員同じ容姿をしているのに気付いた。
髪の色や髪型、目の色など多少の差異はあるがまるで人形のように全員が全員寸分違わず同じであった。
ガラスのような光のない瞳に人を楽しませるための成熟した絶妙なプロポーション。その全てが一緒なのである。
壮観やらキレイやらと感想が泡のように浮かぶもののそこから更にゾワッと気味の悪い感覚が背筋を這いあがって来て、たじろんでしまっていると廊下の奥から新しくメイドがやってきた。
この新しく来たメイドは他のメイドとは立場が違うのか服装に少し装飾がされていた。とはいえエプロンに少しフリルが追加されている程度なのだが。
それと黒髪のショートに瞳もどことなくただのガラスで作られているような雰囲気ではない、感想としてはカスタマイズがされている。そんな感想を思い浮かばせる。
だがそれ以外は他のメイドと変わらないのだろうか話す言葉はなくお手本のような礼一式を来なしてみせると所作のみで自分たちを屋敷の奥へと案内した。
彼女がやってきた廊下の奥、そこから少しだけ手前の扉へ通されるとそこでまたお辞儀をし待っていた。
「お主がここのメイドの支配人か。要件は聞いているであろう?」
「ご足労頂きありがとうございます。私がこの御屋敷を預かっているメイド長のミレイでございます。」
ミズホの言葉に反応したかのように頭を上げ自己紹介を始める姿に他のメイドたちと違った血の通った気配を感じる。
実際に他とは違い彼女はメイドたちと顔も違い女性らしく綺麗で掛けられたメガネのおかげで知的にも見える。身体も多少ではあるがメイドたちよりもスラッとして見え佇まいも他のメイドと姿勢など変わらないように見えるが芯がしっかりと通っているようにも見える。
だが話し掛けたミズホのことをミレイは一瞥もすることはなかった。
「貴方がレーラ様より紹介がありましたシュウ様でございますね。こちらの屋敷は本日よりメンテナンス業務に加え再稼働させるための準備を整えさせていただいております。」
「ちょっと待ってくれ。何の説明もされてないしさっぱりわからないんだが。」
ミズホに興味がないというよりも初めから眼中にすら入っていないかのように扱い、まるでこの部屋に自分とミレイしか存在しないんじゃないかと思わせるほどに二人に意識を割かずこちらをジッと見つめながら淡々と事前に屋敷には連絡があったことを伝えてくる。
あまりにも空気扱いされ横にいるミズホが苛立たしげに唸っておりギリギリと歯軋りまで聞こえてきそうだ。
エミリーは出された紅茶と茶菓子をマイペースに食べ始めているしダメなのではこのパーティ。
こちらもあまり二人の事など気にしているわけにもいかずただの屋敷にしか見えないこの家がなんらかの施設として使われているらしいこと。
それになぜ来なきゃ行けなかったのかここまで一切の説明がなくミズホもまともに教えてくれなかったしで、この際だし目の前にいる一番知ってそうな人に聞いてみるしかないらしい。
「では、こちらの屋敷、もとい当施設の説明をさせていただきます。」
最初からその質問が来ることがわかっていたか、小さく頷くとスラスラとこの屋敷の機能について語り始めた。
まず、此処はあちらのダンジョンとの移動拠点の一つであること。
屋敷の一室に転送装置があるらしくそこが破壊されない限りは自由に行き来が出来るとのこと。
現在はこちらのダンジョンは俺の支配下扱いとなっておらずどの道数日中にはこちらに来ることになっていたらしい。
そして、ここも一種のダンジョンとなっており、主に配合実験や量産研究、品種改良などと言った魔物を管理研究するための施設で魔王が退去してからは施設のメンテナンスのみ行われ封印されていたがレーラからの通達により解凍、現在は稼働準備中。
「ーー以上が当該施設の存在目的と利用価値になります。」
要約するとこんな感じである。
本当はもっと実験や品種改良についての事細かな施設の使い方をおしえてもらっていたのだがその装置を前にしていないのでほとんど右から左に突き抜けている感じである。
一応、やることの意味とかどうやるかの雰囲気はわかったしそれでいいよね!
「なるほど、ここがこの街とダンジョンの中継地点ってのはわかったしミニダンジョンとして機能してるのもわかった。それで…」
結局のところ、まだ俺が聞きたいことは聞けていない。
わざわざ俺がここに来なきゃいけない理由、それにミズホが狩りだと言った理由なんかを答えてもらおうと思い、
「理解いただけたようでなによりでございます。ーーそれでは、」
言葉を遮られてしまった。
礼と共に目の前で深くお辞儀をする彼女の雰囲気が途端に揺らいだように感じる。
そう、感じたときには遅かったらしい。
自分が思うよりも早く両脇のミズホとエミリーは爆ぜるように自分の横をすり抜け、互いに会って間もないというのにも関わらず息を合わせたかのように、その鋭い爪で、槍のように尖らせた樹木でミレイを貫く。
最後まで言い切る事ができず腹を貫かれた彼女はその顔を再び上げることなくその場に沈む。
おびただしい血を流し倒れる彼女を呆気にとられ見下ろし、何故と聞こうか、顔を上げるも二人の険しい表情からまだ終わっていないのだとわかると改めて彼女らだったものを見下ろすが先程転がっていた死体はもうすでになくなっていた。
「見事、このダンジョンを攻略なさってくださいませ。」
驚いて悲鳴を上げる間もなく、背後から先程聞いたばかりの声が聞こえてくると反射的に振り向こうとしたがそれは叶わず、唐突な浮遊感を感じた。
それが自分たちが下へと落ちているのだと気付くのに時間は掛からず落下する中、ふと彼女が見下ろしているのが見えた。不意に入った彼女の金色に染まった双眸はこちらを見て微笑んでいるのが落下する中での最後の記憶だった。




