1-21.契約
そのままサクラは本当に助けてくれる気がなくあの後直ぐ気を失い倒れてしまったエミリーを背負って昨日泊まったギルドまでやって来たのだが、女の子にこう言ってはなんだがスゴく重かった。
というか、中々にたわわだと思っていた肉饅頭をボクは期待していたと言っても過言ではないのです。
なのに悲しいかな、見た目通り彼女の身体は半分樹で出来ているらしく背中に当たるのはたわわな柔らかさよりも樹の硬さ、なのに樹の部分にもあるまじき人のような暖かさがあってとっても違和感だらけでした!
今は昨日泊まったギルドまで帰ってきて個室を借りて寝かせた所でようやく一息。
改まってだが、サクラになぜ手を貸してはくれないのか聞いてみた。
「冗談はよし子さんだよ。ボクはシュウくん個人を助ける義務はあるけどその子はボクからじゃなくってキミが進んで関わったんだよ。それをボクに押し付けるなんて虫が良いと思わないかい?」
「あー、…たしかにそうでした。勝手に頼るなんて都合良すぎるよな。」
結局のところサクラとしては勝手に新しい厄介事を増やした事が気に食わないわけではなく。オレ個人にしか手を貸すつもりはないと言うことだ。
それなら手伝ってくれてもいいと思うのだけど、そこは彼女なりの考えがあるんだと思っておこう。
実際にサクラを勝手に頼りにばかりはしていられないと思うし。
「そういうことなので後はキミ自身でどうにかするんだよ?じゃ、ボクは用事があるのでまたね。」
ゆらゆらとマドラーのような木の棒を宙に振りつつカップの残り物を飲み干すとサクラは立ち上がった。
内容までは聞いていないがどうやらまたどこかのダンジョンへ冒険に行くらしく彼女の横には大きな旅袋があった。
はぐれてしまったのも彼女が出発の準備がてら港で干し肉や魚の干物なんかを選んでいる内にオレがふらふらと行ってしまったかららしい。というのを帰ってくるときに聞かされた。
大きいはずの荷物を片手で軽々と持ち上げる彼女は、どうせまた会うんだろうと。
本来なら命懸けであるはずの冒険の大変さを、こちらに来たばかりでまだ旅の一つもしたことのない俺にはまったく感じさせる様子もなくコンビニ行くような気軽さで笑顔で手を振りながらギルドから出ていってしまった。
「さて、どうしたものかなぁ。」
それはそれとして当面の悩みとしてはエミリーの事である。
行きずりとはいえ彼女は部外者で、それを勝手にダンジョンに連れて行けばみんないい顔はしないだろう。
そこのいい感じの落とし所というか、納得させる方法でもあれば良いんだけどどうしたものだろうか。
「どうしたものかと言いたいのはワシの方なんじゃが…?」
「げぇミズホ?! いつの間に。」
いつからというかなぜ眼の前にいるのか理解する前に某横○漫画みたいな声が出てしまった。
というか、本当にいつからいたんだ。サクラを見送りにちょっと視線外してた程度なんだけど。
「厄介事は起こさんように、と言わんかった儂が確かに悪いかもしれんがな。二日とせん内に厄介事を抱え込みおったのぅ?」
わざとらしくではあるがため息を吐き頭を抱える姿に申し訳なく思うが今更エミリーを置いておくなんて事も出来ないしな。
その辺はなんとか納得させたいけど、
「まぁ、それは成り行きで仕方なく……。」
「成り行きのぅ、…まぁ主殿がそうしたいと言うのなら構いはせんがあまり自分の立場を忘れるでないぞ?」
訝しげそうにこちらを流し見てくるが交渉するまでもなくミズホがは折れてくれたようだ。
ただし、あまり納得したような雰囲気ではないし歓迎している雰囲気でもないが。
「はい…、気をつけます。」
してしまった事とは言えオレも悪いと思っているしちゃんと謝っておこう。
後でシーラたちにも謝っとかないとなぁ。
一応形だけでもと頭を下げて謝る姿勢でいると言う前にスッと首筋に肌は触れる感触がする。
「臭いからして魔物でじゃな? であれば契約して裏切れんようにすればまだ問題もなかろう。」
驚く間もなく首元でスンスンと鼻を鳴らしそれだけでホントにわかってしまったのか事もなさ気に告げる。
居場所までもわかってしまったらしく二階にあるエミリーの部屋をの方を確認するとそちらへと歩き出してしまった。
「契約っていったいどうするんだ?俺そんな魔法みたいなこと出来ないぞ?」
「その辺りも徴の方でどうとでもなる。本来は後に行く用向きの時にでも教える手筈ではあったんじゃがまぁちょうどよかろう。」
さすがに一人で行かせるわけにも行かないので後に続いていく。
だが、ミズホの言う契約に関して徴でそういうことが出来るというのは初めて知った。
一応ある程度ガイドに沿って機能なんかは試してみたつもりだったんだがそういう機能の説明はなかったと思うのだが。
階段を上がり下のエントランスを覗いて見ると、ふと違和感に駆られた。
なにがそうなのかはよくわからないのだが特に気にする事でもなかったんだろう。
目的の部屋まで距離がなかったからなのかもしれない。エミリーの眠る部屋に入るなりミズホから声を掛けられて考えていたことなど泡のように消えてしまった。
「ふむ…、主殿徴の中に支配というのがあったじゃろ?それを二回タップしてみよ。」
部屋に入ると賑やかだった外の喧騒が途端に静かになった。
そうなるとミズホの声がよく響くように聞こえる。
さすがにそんな一昔前のソシャゲのような機能があるのだろうかと思うが言われるまま携帯を立ち上げ[徴]を起動させるとこの数日何度も見た簡素は画面が広がる。
言われた通りに二回、連続でタップをしてみると支配範囲が広がらずいつもと違う画面が表示された。
幾つかのアイコン、それと現在[徴]による一時支配下域など場所が表示と書かれてはいるが半分くらいさっぱりわからない。
というのも支配下域の場所の表示の仕方が不親切にも数字だけで表されている。
アイコンもなにかモンスターっぽいアイコンやマップのようなアイコンだけと不親切に極まれるって感じだ。
「その画面じゃな。少しおどろおどろしいっと、そのアイコンだの。」
「うむ、これでこの紋に此奴の生き血を受け取れば契約は完了じゃ。」
あまり意味はわかってないがだいたいこのアイコンなんだろうと押下していたら合っていたらしい。
どっかで見たことあるような召喚陣、それだけが表示されていて他にはなにもない。
ミズホの言うとおりならこれに血を垂らすだけで良いらしいがこれ一応防水加工されてるけど精密機器だよ。大丈夫なのか。
「こんなんで良いのか?その辺の魔物も適当に傷付けて無理矢理出来そうなもんだが」
「もちろん魔物であるならレベルに関係無く可能ではあるのぅ。主殿自らで熟練冒険者すら一薙するような化物相手に飛び込んでいくだけの胆力があるというならではあるが」
「ひぇ、さすがにそういうのは遠慮しとく。」
だがそれは置いておくとしても相当便利なのではないだろうかと思ったがやるのは俺がしなければいけないって考えると出来る気がしないな。
ぶっちゃけその辺の野犬にも勝てる気しないからな。
「それが良いじゃろ。ワシもそげに命を粗末に扱うような主人は護る気がせんからのぅ」
じっとりと品定めするような嫌らしい視線で言外にこちらを叱責してくる。
そりゃあ確かにサクラを止めるときに無茶はしたけど。
ミズホはけっこう根に持つ方だって覚えておこ。
「ほれ、起きよ。樹霊のお主が睡眠など必要あるまい。身体の方も回復してるであろう。」
そしてしばらく待ってみるが一向に起きる気配のないエミリーにさすがに待ちきれなくなったのかエミリーの身体を揺らし声を掛ける。
「…ん、ふぁ……おはようございま……、御霊之神サマ??! ふぇ?!ナンデ???」
それでようやく目が覚めたのか身体を起こし寝ぼけた目を擦ってのんびりと欠伸をしていたがミズホの事を見た途端に飛び起き、叫び声のようなものまで上げている。
知っている人にでも似ていたのだろうか。本当にビックリしている。
「何を寝惚けておる。ワシはただの妖狐、其処な主殿の使い魔であるミズホじゃ、他人の空似であろう。」
「えっ?でも……いえ、そう、ですね。あの方がこのような場所にいらっしゃるはずがありませんね。」
相当慌てていたのだが落ち着いたミズホの声で冷静になれたのか頷き胸を撫で下ろしていた。
だがその視線はジッとミズホを見つめていたが。
「まったくブツクサと。主殿、さっさと済ませようぞ。寄らねばならん所もあるからの」
「ん、あぁ。エミリー、お前とこれからも一緒にいるために契約して欲しいんだ。」
「はい、私も異存はありません。こちらの紋章でよろしいのですよね?では…、」
突然叫ばれたことに呆れた様子のミズホを傍目にこちらはどうエミリーを説得するかと考えていたがトントン拍子に受け入れてくれた。
一応、なったときのデメリットなんかもあると思うのだがそれを抜いても断る理由にはなると思うのだけど。
それでも素直に受け入れてくれるのは助かる。
契約もミズホの説明通りに簡単なもので差し出した携帯の上に手をやると人間とは違う樹液のような輝いた金色の体液が流れ落ちる。
直ぐに溢れ落ちるのかと思ったが不思議な事に画面の中の召喚陣に吸い込まれてしまった。
流れる血も直ぐ止まり召喚陣がそれを吸い終えると画面が少し瞬き契約完了の文字。
「ホントにこんなもんで良いのか。でも別に変わった所なんて無いように見えるけど。」
特に変わったこともなく想像していたような身体に契約印が出来る事なく若干残念に思いつつもやはりちゃんと出来ているかの疑問は残ってしまう。
「……いえ、安心してください。契約の方は確かに執り行われました。ですが確かに物体的な証拠を出せ、というのは難しいのですが。」
「無事出来ておったら[編成]に新しく追加されているであろう。確認してみると良い。」
「ホントだ。じゃあ出来てるわけか。」
と、困っていると[編成]で出来るとこ事なので一応確認。
確認して見ると確かにミズホの名前の隣りに「樹霊」の文字。
そこまで確認してようやく少し安心できた。
「まぁ予行練習としては上々であろう。では、もう一つの目的を果たしに行くとするか。」
「そういやさっきも言ってたな。用事ってのはなんなんだ?」
一つ新しいことを試して終わった所でまだ終わったわけではないことを思い出した。
そういえばミズホは元々この機能を使わせるつもりで別に用事があったと言っていた辺りただ俺を引き取りに来たってわけではなかったんだろう。
改めてではあるがなにをするのかと理由を聞いてみると楽しそうに、これからする悪戯が楽しみで仕方ないと言うような蠱惑的な笑みを浮かべ告げた。
「なぁに、ただの狩りじゃ。」




