一回目のループ
「……忍。……忍。 ……忍 」
下で母さんの呼ぶ声がする。
朝か……
しかし、嫌な夢だった。
俺はふと枕を見た。
枕にどっさり髪の毛が抜けていた。
俺は髪の毛をつかむ。
すると、髪の毛は灰を散らすように消えた。
夢じゃなかった。
背筋がぞくっとした。
もしかしたら、とんでもなく厄介なことに巻き込まれているのでは。
そんな恐怖が俺を包む。
俺はスマホで頭を確認する。
額が少し広がっている。
前に撮った写真と今の写真を見比べる。
だいたい1㎝ほど後退していた。
俺はこのボーナスを、
彼女を救うために、
全力で賭ける。
とは言ったものの。
現実に1㎝額が後退していると、
なんだか思う所はいろいろある。
まぁ人間、こうやって大人になっていくのだろう。
俺はそう思った。
俺はスマホで日にちを確認した。
事故の起こる2日前だった。
俺は学生服に着替え、下に降りる。
どこかの町のマラソン大会に鹿と猪が乱入して、中止になった件を報道していた。
間違いない、このニュースは知っている。
このあと、
コメンテイターが、 「猪鹿蝶(町)。まるで花札みたいですね」
と発言し、この番組のコメンテイターのSNSアカウントが、朝から博打とは不謹慎だ炎上し、コメンテイターは謝罪し、番組を降板させられるという事件が起こる。
それを予感したように母さんが、
これ炎上するわよと言った。
そして、父さんが 、
さすがにそれはないって。
と言い、
じゃあ賭ける?
という話になり、
500円賭ける事になる。
そこで俺も炎上しないほうに賭けたものだから、
母さんの独り勝ちだった。
「これ炎上するわよ」
と母さんは言った。
やはり同じ展開だ。
これから起こる行動を知っているって、なんとなく気持ち悪い。
「さすがにそれはないって 」
と父さんが 突っ込む。
「じゃあ賭ける? 」
と母さんは言った。
「よし、じゃあ500円賭けよう。忍はどっちに賭ける」
と父さんは言った。
ここでないほうに賭けて、俺は500円失う。
あるほうに賭けて勝てば250円のプラス。
やめよう。アホらしい。
「子供に賭け事を推奨する親がどこにいる」
と俺は言った。
二人とも笑い出し。
「そうだな。こんな事に賭けて、バカバカしいよな。たしかに堅実に。堅実にだ。よし賭けるのをやめよう」
と父さんは言った。
「そうね。人の不幸をネタに儲けるのも、なんかね」
と母さんは言った。
勝つき満々だったようだ。
よかったな。父さん。500円損しなくて済んだ。
俺は、納豆にマヨネーズを入れかき混ぜる。
ただ納豆のタレを入れてはいけない。味は塩とコショウで調整するといい。
これを焼き立てのトーストの上に乗っけて食べる。
トーストの上にポテトサラダを乗っけたような味になる。
友達に言ったら引かれたけど、これがうちの定番だ。
歯磨きをし、顔を洗い、髪形をセットする。
髪の毛の抜けたところは、剃ったとか、そういうのでなく。
以前から、そこに毛穴はありませんでした。
と言わんばかりにつるつるだった。
ハゲルというのは、髪喰いさまに髪を喰われるということなのだろうか?
もしそうなら、父さんも爺ちゃんも、あのおじさんも、何かを頼んだのだろうか。
俺は学校に向かう。
学校は歩いて20分の距離にある。
いつもの景色、いつもの日常。
すべてが知っている通りに動いている。
俺は時間がさかのぼっている事を確信する。
学校についた。
下駄箱を過ぎると、声が聞こえた。
「高元君。おはよう」
そこには、元気そうな弥生ちゃんの姿があった。
俺は思わず、泣きそうになる。
「えっえぇ~。どうしたの高元君」
心配そうに弥生ちゃんが覗き込む。
やばいやばい。
ここで変な奴だと思われたらまずい。
「ごめん。ちょっと悲しい小説読んでいたから、弥生ちゃんの元気な姿がまぶしすぎて、感動したんだよ」
と俺は言った。
自分でも、何を言っているのかよくわからない。
「あぁ、わかるよ。小説とか読むとしばらく引きずるもんね」
と弥生ちゃんは言った。
いや、あいかわらず、可愛いし、コミュ力高いな。
自分の情けなさが、悔やまれる。
いや悔やんでいてもなにもならない。
俺はこの国宝級の宝物弥生ちゃんを唯一救える男なんだから。
あっ、そうか。弥生ちゃんを救えるのは、唯一俺一人なんだ。
そのことに気が付くと、俺はRPGの勇者にでもなったような気分になり、すこしうれしくなってきた。
その様子を見てか、
「高元君、少し元気になったね」
と弥生ちゃんが言った。
「弥生ちゃんのお陰だよ。すごく元気もらった。ありがとう」
と俺は言った。
弥生ちゃんは、その言葉が意外だったのか、少し驚いた顔をしてけど、
すっと笑顔に戻り、俺の目の前をくるりと回り
「そいつはよかった」
と楽し気に言った。
弥生ちゃんのシャンプーの良い匂いがした。
俺はまた弥生ちゃんに恋をした。
そう思った。
「そういえば、今日一時限目、化学の小テストあるよ」
と弥生ちゃんは言った。
そうだった。完全に忘れていた。
でもテスト内容は覚えている。
さっとやっておこう。
「ありがとう。弥生ちゃん」
と俺は言った。
俺は自分の席に座り、小テストの内容を思い出しながら、教科書をめくる。
このタイムリープできる能力、テストにめっちゃいいよな。
と思った。
化学の担当の先生が来て、小テストが始まる。
この前受けたテストと同じ内容だ。
これはいける。
さすが、2日前に一度受けたテストだけあって、今回は点数が良さそうだ。
俺は、この調子なら弥生ちゃんも簡単に救えると確信した。




