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一度目トラック事故~神様との出会い&ミッション

「しかし……、

弥生ちゃんは、いつ見ても可愛いな」

俺は高校1年の時に、同級生の八嶋弥生ちゃんと、スマホで一緒に撮った写真を見ていた。

いままで何度この画像を見たかわからない。

弥生ちゃんとは、それほど仲が良いわけではない。

文化祭のノリで撮っただけだ。


朝に「おはよう」

帰りに「また明日」

というだけの仲。


彼女の事はなにも知らない。

でも好きだ。

中学1年の頃に始めて見かけて、

それから高校2年になるまで、

ずっと好きだ。


黒髪ロングでスレンダー体型。

芸能人とかよくわからないけど、

多分芸能人でもいけるくらい可愛い。

俺にとっては女神のような存在。


あぁ奇跡でも起きて、

彼女と付き合ったりできないかな。

そんな事を1日のうち、

何回かは考える。


ただ。

俺は基本的に冴えない、

ただ猫額が取り柄なだけの男子高校生。

成績は中。

スポーツも中。

顔はモブ。

コミュ力も中。

家も普通。


対して、

弥生ちゃんは、

成績はクラスでも上の方。

スポーツは得意。

顔は可愛い。

コミュ力は高い。

家は知らない。


つまり異世界転生ものの、

冒険者で例えると、

俺がB級冒険者だとしたら、

彼女はS級冒険者。

つり合うわけがない。


考えるだけ無駄だとわかっているのに、彼女の事がいつも頭から離れない。


いま俺は街の少し大きい書店に向かっている。お気に入りの小説家の新作が出るからだ。

早くみたい。


向かい側の道路の少し先に可愛い女の子がいる。

カバンについたマスコットに見覚えが……

おっあれは弥生ちゃん。


あぁ声かけたいな。

でもなんて?

こんな時、チャラ男ってすごいなと思う。

俺がチャラかったら、すぐに声をかけているだろう。

なんて声かける?


あっ弥生ちゃんじゃん。

どこいくの?あっ俺は本屋。


こんな感じか……、

あんまりチャラいのは好きじゃないが、あのチャラ男のフットワークの軽さだけは見習いたい。


あぁ勇気が欲しいな。


(キー……ドーン)

突然激しい音がなった。

(キー)

あちこちで車の急ブレーキの音がする。


なにがあった。

俺は辺りを見回す。

えっ事故。

斜め前でトラックが潰れて、煙が出ている。


まじか……

こんな経験始めてだ。

ちょい動画撮っておこう。


こういうのSNSに投稿したら、バズってニュースで使われて、お金もらえるとか話を聞いた事がある。

五万円くらいもらえるかな。


あっダメだ。ダメだ。

そんな浅ましい気持ちじゃ。

真実を伝えるためにつらいけど撮りました。

という大義名分でもなくっちゃ、

叩かれる。


俺はスマホで動画を撮りながら、

事故現場の隅っこに倒れている女の子に気がついた。

えっウソ……

ウソだよね……

頭が真っ白になる。

全身の血の気が引いた。


八嶋弥生

俺の初恋の人。

そして今も好きな人。


倒れているのは、

彼女だった。


助けなきゃ。

助けなきゃ。

助けなきゃ。


嫌だ。嫌だ。嫌だ。


こんな別れは。

嫌だ。


なに?

どうするの?

救急車。


救急車って何番?


どうしたら良い?


電話。電話。電話。


手が震えてダイヤルがまともに押せない。


落ち着け。落ち着け。落ち着け。


俺は自分の顔を引っ叩く。

(パシ、パシ、パシ)


少し落ち着いた。


俺は電話をかける。

(ぷっぷっぷっぷっぷっ)

電話がつながらない。

(ぷっぷっぷっぷっぷっ)

焦る。

(ぷっぷっぷっぷっぷっ)


でた。


「大通り3丁目でトラック事故です。女の子が血まみれ。同級生なんです。大切な人なんです」

と俺は叫んだ。


「もうすでに現場に救急車は向かってます」

と電話の人は言った。


よかった。


気がつけば、事故現場の周りには人だかりができていた。

みんな興味本意に動画を撮影している。


(やめろ。やめてくれ。彼女を写さないでくれ)


俺はほんの1分前まで、

興味本意で撮影する側だったことに、おぞましさを感じた。


(うぃーん)

3分後。

救急車が到着した。

救急隊員により、彼女はタンカにのせられ病院に搬送された。


人は少しずつ去っていく。

そして何事もなかったかのように。


俺は、

まるで蝉の抜け殻にでも、

なってしまったかのような気分だった。

そして、楽しみだった新刊を買わずに、そのままうちに帰る。


どうやって帰ったかは覚えていない。こういう時に無事に帰れるのは帰巣本能かなにかが人にもあるせいだろう。


玄関の扉をあけると、

カレーのニオイがした。


「忍、

今日はあなたの好きなカレーよ」

と母さんの声がする。


俺は、なにも答えず、二階の部屋に戻る。

部屋のカーテンを閉め切り、布団にくるまり、彼女と撮った唯一の写真をずっと見ていた。


苦しい。

涙が出て。

頭が混乱して。

どうしようもなかった。

消えたい。

俺は始めてそう思った。


その日はご飯も食べず、ずっと部屋にこもっていた。

両親は、なにも言わなかった。


結局一睡もできなかった。

翌朝、俺はカフェオレだけ飲んで、学校に行く。


いつも通りの学校。

いつも通りの同級生。

ただ、一つだけ違うのは……、

弥生ちゃんが欠席だった事。


いつもと変わらないはずの教室が、

昔のモノクロ映像のように見えた。


いつもだったら軽く流せる同級生の悪ふざけが、いちいち癇に障った。


なにかに当たりたい衝動が、腹の中で爆発しそうだった。


担任がやってきた。

いつもは明るい担任の表情は、

曇っていた。

ホームルームで担任は言った。

「八嶋弥生は昨日、交通事故で亡くなった」

担任は、ハンカチを握りしめた。

遠くからでもハッキリわかった。

担任が涙を流していることは。

その日、

大人の男が泣くのを、リアルで始めて見た。


クラス中が騒然となった。

俺は一番うしろの席で、

ただ黙って涙をこらえる。


(俺にはなにもできないのか……)


そう思った瞬間。

世界はぐにゃりとねじれた。


突然、目の前が真っ黒になった。


薄ぼんやり光輝くものがいる。


「お前はあの娘を助けたいのか?」

そう声が聞こえた。


「助ける事ができるのですか?」

と俺は叫ぶ。


「助かるかどうかは知らんが、亡くなる2日前に時間を巻き戻す事はできる」

と声が聞こえた。


「神さまなのですか?」

と俺は聞いた。


「わしは髪喰いさまと呼ばれるもの。

俺の先祖が祀ったので出てきた」

と言った。


「神喰いさまの名前を聞くのは始めてなのですが……」

と俺は正直に言った。


「信仰が途絶えても、代々その家系に憑くのがワシじゃよ」

と言った。


「代償は?」

俺は尋ねる。


「ワシは髪の毛をエネルギーに、時間を巻き戻させる。

つまりワシに願えば、お主はハゲる。

まぁ額が少々広くなる程度よ。

あと目的を達成したら、ワシの事。つまり髪喰いの記憶も消える」

と神喰いさまは言った。


俺は彼女が好きだ。

好きで好きで仕方がない。

髪の毛を犠牲にし、

彼女を救えるなら、

安いものだ。

親父もじっちゃんもハゲだ。

そうだ。

俺はハゲの家系だ。

このネコ額は、

神様のボーナスだったに、

違いない。

俺はこのボーナスを、

彼女を救うために、

全力で賭ける。



「ではお願いします」

と俺は言った。


もし「続きを読んでみたい」と思っていただけたら、

ブックマークしていただけるととても励みになります。


本作はすべて完結済みで、安心して最後まで読めます。


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