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序 +竜王の治国+
地界より遥か上方、星々が集い、雲と共にもうひとつの“海”をかたち作るその中心には、天帝の住まう城と都を峻険な連峰が取り巻く“天界”が広がっている。そしてその周囲には、郷と呼ばれる里山が星々の合間にいくつもの浮き島を成し、網目状に連なる星屑で作られた広大な陸地が築かれていた。
果てのない闇の中、天帝竜王の居城となる天界の中心は、幾千、幾万の星々が天を分かつ“天の川”の本流の中で護られ、天の川そのものも、天界と地界の狭間を超え、往来を繰り返す竜王の辿る道から生まれたと言われている。
地界、天界それぞれの地で暮らす人々にとって竜王は自然現象を司る神獣の象徴であり、ごく稀に波間、雲間より民の前にその姿を現せば、その渡りによって引き起こされる、天地双方の水にまつわる大きな災いと恩恵を人々は酷く恐れ、崇め奉っては祈りを捧げた。
地と天を行き交う竜王。その側に侍る次代の織女を決める竜王宮司は、その選出のために、祭りの時期直前に各織部に密使を遣わす。遣わされた当の本人にすら、その使命を伝えられないままに――