序 +地界の少年+
ジリジリと灼けるような日差しが照らす村道を、二頭の馬が派手に土埃を舞いあげ、飛ぶように駆けていく。
風雨に晒され、今にも崩れそうに撓んだ一軒の粗末な家の前で、馬は嘶きと共に足踏みをし、馬上からひらりと役人装束の男達が次々に飛び降りた。
「ああ! お待ちしておりました!! こちら、こちらにございます!!」
初老の男――村長の言葉に軽く頷き、役人達は家の中に入っていった。
「――この者か。川縁にかかっていたとのことだが、最初に見つけた者はいるか?」
「――俺です」
役人の声に、土間の隅に座し、じっと様子を見ていた少年が立ちあがった。
「今日は俺と婆様のふたりで朝から山に草刈りに行って、日が落ちる前に村に戻るつもりで途中から土手道にあがったんだ。そしたら川縁の茂みになにか引っかかっとるのが見えて、川に下りて近寄ってみたら、そいつが……血まみれになっとって……」
「息は確かにあったのか?」
「いや……そん時は、どっちが顔かもわからねえくらい汚れとったし……でも喉首が動いたから、生きとると思ったんだ。だから慌てて俺は村に知らせに行ってひとを連れて戻ったら、婆様が着物で顔をきれいに拭っとった。こいつ……明らかに俺達とは違う。なあ、お役人様、こいつは何者なんだ?」
「――この者のことを知っているのは、ここにいる全員か?」
少年の問いには答えず、役人は戸口に立つ村長をはじめとした数人の村人達に視線を向けた。
「ちょうど祭りの仕度をしとった最中に、清太が血相変えて飛び込んできたもんで……おそらく、村のもんは皆、知っておるんではないかと……」
「よし。ではこの者のことは我等が引き受けることにしよう。おまえ達、よくやってくれた。話すなとは言わんが、あまり面白おかしく尾ひれをつけて騒ぎ立てることは慎んでくれ――この者にもきっと悲しんでいる家族がいるだろう」
役人は床に伏せったきり動かない、まだ幼い少年のようにも思える若い男の生気のない裂傷だらけの寝姿をじっと見おろした。
続けてやってきた部下の馬車に少年を乗せるよう指示すると、役人は戸板に乗せられた少年とともに闇に沈む村道の畦道を静かに取って返し、やがてその姿は村人達から完全に見えなくなった。