『どうして』5
ナユタ君を通して、結城さんは悪魔《零さん》を常に監視している……。交渉を邪魔されるって話は、同業者嫌いの冗談じゃなかったのか。
死神 対 悪魔。
それなら、二人の因縁があそこまで深いのも頷ける。
「零さんを信用するな」と言い続ける結城さんと、「彼は混乱を好む」と言った藤本さんにも納得だ。
色々繋がるがゆえに出てくる疑問も無きにしもあらずだが、躍起になって探る必要は、今は無い……だろう。
問題なのはこの状況だ。
零さんが悪魔で優海さんは幽霊。二人はどういった関係? 契約者?
(そう考えるのが妥当か……)
「さぁさぁ、優海サン? お話進めよっか。とっとと決着つけようぜ。願い叶えたいんだろ? ラスボス来る前に終わらせねーと」
「!」
優海さんの肩を背後から鷲掴み、零さんは囁く。
私からすれば脅しとしか思えない口調でも、優海さんには激励に聞こえるらしい。うん、と頷いた彼女は私に一歩近付いて、凛とした声で言った。
「私に魂をひとつください」
「だから私は……――零さん!」
(彼女を騙して何がしたいの!?)
零さんを睨む。
でも、「嘘を吐いて何が悪い。引っかかる方が悪い」と言いそうな顔で、彼は唇の端を釣り上げるだけだった。
結城さんが時折見せる冷笑とよく似ているのが、なんとも皮肉で。
それを向けられ、私は自分の愚かさを悔いた。もう溜息しか出ない。
――またやってしまった。忠告無視で結城さんの説教二時間コース決定だ……。
「何をしたって亡くなった人は戻らないよ」
「……」
「優音君だってこんなこと望んじゃいな――」
「私はまた歌いたいだけ! おとくんは関係ない!」
優海さんの大声が公園に響いた。
「私はまた歌うんだ!」
(うた……?)
――優海さんが取り戻したいものは、優音君の魂だと思っていた。
ここに来る前に、優音君が亡くなっている話を聞いたから余計だ。
誰かのものと引き換えに、死後迷子でいる優音君の魂を連れて来てあげるよ、とでも零さんに言われたのかな――と。
親子の情を利用するなんて、いかにも悪魔がしそうじゃないか。私を呼び出すために「会いたくないと言ってるから説得してくれ」と適当な嘘を吐いたのも似たようなもので。
――でも、違うってこと?
「優海さん、自分が生き返りたいから……?」
「歌を歌いたい……。だからずっと頑張ってきた。やっとデビューが決まって、大勢の人に私の歌を聞いてもらえるって思ってたのに」
「優音君は? 会いたいよね?」
「……会わない」
零さんは、嘘を……吐いていなかった。
「いや、でも……だって優海さん……」
(あ……どうしよう。そういえば何も説得方法を考えてなかった)
どこまで馬鹿なんだ。私は!
「い……色々あったとしても……それでも、誰かの魂を寄越せって言うのは乱暴な話だから」
「私は歌わなきゃいけないの」
「ねぇ……まさか、優音君より歌が大事とか……言わない、よね……?」
「……」
ここまで歌に執着している優海さんを見ていると、心がざわざわしてくる。
――そりゃあ、苦労して苦労して、やっとメジャーデビューが決まって、これから! という時だったんだもの。割り切れない気持ちは分かる。
(だけどさ……)
ツイッターで読んだ記事や呟きが、優海さんの顔に重なった。




