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ミノタウルスの文化とスライムの村

 ネズミが戦闘不能になったのを確認するとレオは磯矢たちの所へ戻ってきた。


(やばい……レオ様カッコイイ!)


 と、磯矢は改めて思った。

 今は精霊化してノームとなった磯矢だが、元はミノタウルスである。

 その価値観はミノタウルスのものである。

 ミノタウルスは頭部が牛であり、その個体差はかろうじて判別ができる程度である。

 ゆえに美醜という文化はミノタウルスにはない。

 その代わり、絶対的な価値観が存在する。

 それが強さである。

 強いはカッコイイ。

 男女関係なくそれは絶対だった。

 要するに強さ=イケメン力なのである。


 そのミノタウルスの中でも磯矢は最上位クラスの強さを持っていた。

 男の求愛など鉄拳制裁で全て袖にしていたのだ。

 攻略難易度の高いキャラだったのである。

 そんな彼女と正面から打ち合い勝利したレオ。

 ミノタウルスの価値観では超絶美形に求婚されたようなものである。

 ミノタウロスの中では恋愛=暴力なのである。

 ちなみにミノタウルスの結婚感は日本人の価値観ではご主人様と奴隷と感じられるだろう。

 嫁は所有物と同じ扱いなのである。


 さて、では磯矢の目には先ほどの闘いがどう映ったのであろう。

 超絶美形が強敵を「ふんゴミか」とばかりに葬る。

 これをミノタウルスの価値観を照らし合わせるとこれは壁ドンである。

 超絶美形の壁ドン。

 全ミノタウルス女子の憧れのシチュエーションなのである。


「ふわあああああ! しゅ、しゅごいよおおおおおおッ!」


 叫びながら抱きつこうとする磯矢をレオは華麗にかわす。

 そして懐に忍ばせたバカ用スリッパを握る。

 スッパーン!


「ありがとうございました!!!」


 なぜか顔を真っ赤にしながら磯矢は喜んだ。

 ちなみにこれも全ミノタウルス女子憧れのシチュエーションである。

 磯矢は心の底から喜んでいた。


 一方、助けられたスライムたちは気が気ではなかった。

 なにせ猛獣を素手で、しかもたった一撃で倒したのである。


(新たな危険生物に遭遇! ワーニン! ワーニン!)


 それがスライムたちの本音である。

 例えるならライオンに襲われたところを虎に助けられたようなシチュエーションだったのである。

 少しでも機嫌を損ねたら殺されかねない。

 それはそれは恐ろしかったのである。


「お、お役人様はオーガでございますか」


 スライムはレオが強すぎたのでとりあえず『お役人様』をつけることにした。

 それに対してレオは妙な顔をしていた。


「オーガじゃないよ」


 とりあえず間違いは正しておく。


「も、もしかしてオークで……」


「お、お、お、オークちゃうわ!」


 度重なる『くっ殺せ!』のせいでレオはオーク呼ばわりされることに過剰反応してしまった。


「ぴいいいいいいっ!」


 ところがスライムたちにはたまったものではない。

 危険な生物の逆鱗に触れてしまったと思いパニックを起こしたのだ。

 全員が林の後ろへ隠れガクガクブルブルと震えた。


「大丈夫だ。(敵じゃなければ)なにもしない。溝口殿は(身内にだけは)優しいぞ。(ただし敵は目が合った瞬間に殺すが)」


 重要な情報を巧妙に隠した林がスライムたちを安心させる。

 スライムたちは「いじめない?」という表情をしていた。


「それに溝口殿は人間だぞ」


「ひいい! に、人間!」


 さらにパニックが加速する。

 ここでパニックは非常にまずい。

 すぐに止めねばならない。

 だがレオは地味にいじけていた。


「いいもんいいもん。どうせ嫌われ者だもん」


 すねたレオは石を蹴る。

 ところが人間とは不思議なもので、いじけているとなぜかレオのヤンキー回路が活性化、重要なことを思い出させる。


(そうだ! 俺には秘密兵器があった!)


 レオは鞄を開く。

 そして中からあるものを出した。

 それはスライムの村攻略の重要アイテム。

 軍から支給された当面の生活費を使って御徒町の問屋で買ってきたのだ。


「くくくくく。くわーはっはっは!」


 悪役顔でレオは勝ち誇る。

 ゲス顔とも言われるその顔はまさに魔王そのものであった。


「くくくくく。君たちの村まで案内してくれたらこれを進呈しよう」


 ゴクリ。

 スライムたちが生唾を飲み込む。

 そうそれはチョコレートや飴、様々なお菓子の詰め合わせだった。

 やたら食い意地の張った林。

 これは種族的な特徴に違いない。

 おそらくスライム攻略の鍵は食欲である。

 レオはそう推測していた。

 普段はバカなのにダンジョン攻略だけは脳が働く、それがレオという男なのである。


「ど、どうせ苦いに決まっている!」


 スライムの一人がヨダレを垂らしながら言った。

 すでに陥落寸前である。


「くくくくく。諸君、一つ食べるが良い」


 ゲス顔でレオが言うとスライムたちは我先にと、お菓子を取った。

 そして器用に包装を破って中身を食べる。


「て、テイスティ!」


 スライムたちの目が輝く。


「くくくくく。今日は君たちに進呈するためにXXの菓子で買ったお菓子の詰め合わせを二キロ持ってきている。チョコに飴、スナックにポテトよりどりみどりだ」


「う、うおおおおおおおおおおお!」


 こうしてスライムの集落へ案内されたのだった。


「溝口殿。拙者も一つ! 一つ!」


「朝食べたでしょ!」


 レオのオカンモード。


「しょんなー!」


 林がきゃいーんと鳴いた。



 それから一時間ほど歩き、一行はスライムの村に着く。

 スライムの村につくと色とりどりのスライムに出迎えられる。

 そして案内してくれたスライムがレオたちを村人に紹介する。


「新しいお殿様の到着である。お菓子を配ってくれるそうだ!」


(ん? 今なんつった?)


「へへー」


 全員がひれ伏した。


「さすがレオ様! そのカリスマ性だけで村一つを征服するとは!」


 磯矢は嬉しそうである。


「溝口殿! それがしにもお菓子! お菓子を!」


 ピョコピョコと林が跳ねる。


「いいけど。あとで荷物運びつきあえよ。ほとんどがお前のお菓子なんだから。御徒町から重い荷物持って歩くの大変なんだよ」


「はーい♪」


「磯矢も食べて良いぞ」


「ははー! ありがたき幸せ!」


 全員がお菓子に手をつけたのを確認してレオはにやりと笑った。


(くくくくく。ここは未開拓地域。住民である彼らにアーティファクトの探索を手伝ってもらえればいくらでも稼げる!)


 ゲス顔をしながらレオは本題を切り出す。


「みなさん! 私たちはアーティファクトの探索をしています。手伝ってもらえませんか?」


「アーティファクト?」


「魔法の道具らしいのですが」


「魔法のありますが……我々も差し上げたいが生活に使う道具は譲れませんな。おう、そうだ! 爺さんの代にお役人様が置いていった道具なら物置に大量にありますぞ!」


 スライムの一人が言った。


「持って行っても構いませんか?」


 レオはにやりと笑う。


「ええ。必要魔力が高すぎて使えないのでお持ちいただいても構いません」


(まさかここまでうまく行くとは!)


 こうして鞄いっぱいに道具を詰め込んで一行はスライムの村を後にした。

 マッピングもした。

 道具はまだ大量にある。

 次回はルートを変えて村に行けばマップ報酬も出るだろう。

 これでしばらくは村と地上を往復すれば食うに困らないはずだ。

 実際の報酬を確かめないでレオは高笑いをした。

 捕らぬ狸の皮算用。

 いや動物は捕まえているがそれが狸かどうかがわからないのである。

 狸だと思っていたら狂犬病のアライグマだったりするのである。

 だが逆に狸だと思ったら超絶レアな絶滅危惧種だったりということもあるのだ。

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