9話 冥界への贈り物
今回は運送屋の仕事。
届け先は天の上…
所謂 冥界…
・・・
はてさて…
和と洋の混ざった妙な感じの服に慣れてきた今日この頃…
何気に俺、普通に幻想郷での生活に慣れちゃってんじゃん…
でもーーあの時に戻るよりは、今の状態が一番 俺にとって良いのかもしれない…
「あら、どうしたの? そんな辛気臭い顔して」
いきなり声が聞こえたかと思ったら、突然 紫さんが姿を現していた。
いつもいきなりだよな…
「あ、紫さん。何でいきなりここへ?」
「仕事よ 優翔」
「仕事って?」
「運送屋の仕事よ」
はぁ…なるほど。
またあの仕事か…
紅い館以来か。
つか、まだ運送屋してて良い事無いんだけど…
紫さんは俺に近づいて来て、いつもの紙と荷物を手渡した。
「あれ? 今日の荷物は意外に小っちゃいですね」
この前の中型の箱では無く、今回は手の平サイズの箱だ。
「小っちゃくても荷物は荷物。しっかりと大切に届けなさい」
「はい…」
「今回は上よ」
「上? 上って何ですか?」
「上に続く階段が何処かに在るから、それを昇っていけば着くわ」
「はい?」
と、俺が疑問を浮かべたまま紫さんは空間を裂いて消えてしまった。
上が届け先って事なのか?
じゃあ階段はそこに行く方法って事か。
一体どんなところ何だろうか…
俺は小さい箱を持ち、家を出て飛び立った。
だけど、階段って一体ーー何処に…
まさか空中に浮いてて“別世界に繋がる道”みたいな事がある訳…
その時、俺は見た…
自分の家から約200mくらい離れたところに硝子のように透明な階段が目の前に浮いてた。
しかも空のずっと向こうにまで続いていた。
「マジかよ…」
本当に幻想郷は訳のわからない事ばかりだな…
逆に呆れるよ…
俺は階段に近づいて足を掛け、階段を昇って行った。
昇って行ったが…
10分後…
「ゼェ…ゼェ…」
どんだけ長いんだよこの階段!
もう空気も薄いし疲れてきたっての…
でも、後もう少しで着きそうだ。
真上に黒い穴があるから、絶対あれが入り口…
俺は残る体力全てを使い、階段をフルスピードで昇った。
昇り切った直後、世界が変わり、辺りが薄暗くなった。
「何だ? もしかして場所 間違えたか?」
でも、階段を昇ったんだから、間違いは無い筈…
ふと、俺の視界にまた階段が現れた。
しかもさっき昇った階段に似て恐ろしく長い…
透明じゃないが…
「いい加減にーーしろ…!」
俯いた状態で俺が言葉を発した直後、無い筈の体力が戻り、感情が無くなった…
“心殺”が発動されたのだ…
体を前傾姿勢にした後、右足を前に出し、強く踏み込む…
そして右足で地面を蹴った直後、右足で踏み込んだ場所が砕けた…
そして数えて1秒、階段を昇り…いや、飛び越えた だな…
・・・解・・・
「まさかこんな時に…出るなんて…」
まあいいさ、とりあえずは階段を昇ったんだから、後は届け先の家を探さないと…
と、歩き始めた時だった…
「何なんだ? あの木…」
樹齢何年…いや、何年とか言う前に、何かの気を感じる…
デカい木は昔、“神”や“妖”が宿るって、言われてんだっけ…?
オカルトにはハッキリ言って、興味なんて一切無いけど、そんな俺でもわかる…
あの木ーーただの木じゃない…
おっと、こんな事をしてる場合じゃなかった。
早く届けないと…
俺は家が無いか周囲を見回しながら歩く。
すると、“あの木”の離れた場所に和の御屋敷があった。
彼処が届け先の場所か?
俺は走って御屋敷に近づいて行った。
“あの木”を気にしながら…
「ここか」
日本の古き良き屋敷 ってやつか?
こう言う御屋敷は“何代目当主”みたいな代々続いてるものがあるんだろうな。
「誰ですか?」
後ろから俺に尋ねる声が聞こえてきた。
振り向いてみると、銀髪の少女が居た。
両手で抱えてる袋からして、どうやら買い物からの帰りのようだ。
「あの~、お届け物です」
そう言って俺は手の平サイズの小さい箱を取り出した。
ついでに住所の書かれた紙も出した。
「ん~…何の荷物でしょう? 私にはわかりません…」
「それは私の頼んだ荷物よ」
突然 俺の後ろからおっとりとした声が聞こえてきた。
「幽々子様」
ゆゆこさま?
声の方向を向くと、桃色の髪に何か描かれた布を帽子の上に巻いてる女の人が居た。
こう言うタイプのファッションの人は変人が多いんだけど…
じゃあ紫さんも変になるか…
それはそれで間違って無いけど。
「紫に頼まれて来たのね?」
「あ、はい」
「そう…。とりあえず、中に入りましょう、優翔君」
「えっ? 何で俺の名前…」
「紫から聞いたの」
紫さんからか…
まぁそれはいいか。
とりあえず中に入れって言ってるし、お邪魔させてもらうか…
「お邪魔しま~す」
荷物の届け主 幽々子さんに招かれ、俺は屋敷の中に入った。
・・・
しかし、広いなぁ…
まさに見た目通りの広さだ。これだけ広い屋敷に住んでるって事は、やっぱり何かのお嬢様なんであろう。
そんな感じで 案内されるままに歩いていたら、幽々子さんが突然 止まった。
「ここに入りましょう」
幽々子さんが手を差し、襖を開けて入った。
俺も後を付いて入る。
最後に入った少女が襖を閉めた。
そして目の前の卓に座る…
すると先ず先に座った幽々子さんが口を開いた。
「聞いたわ、あなた異変を起こしたそうじゃない。話を聞かせてもらえるかしら?」
いきなり俺が知る訳無い事を訊いてきた幽々子さん…
「いや 話も何も、俺は全くそんな事した覚え無いですから…」
「あらそう、じゃあ何でそんな異変が起こったのかしらね?」
話を突き詰める幽々子さんに少し苛立ちを覚えた…
知らない物は知らないっての…
「だから知らないですって…。そんな事したなら俺が覚えてますし、俺自身が何らかの罪悪感を刻んでますよ」
「フフ、それもそうね」
幽々子さんは微笑んだ。
たく、変に疑われても何も知らないから答えようが無い。
無知なのに記憶を漁れ と言われるようなものだ…
「ところで、その箱の中 見ないんですか?」
俺は今だに気になっている小さい箱を開けないか訊いた。
「そうね、何かしら?」
幽々子さんは微笑みながら小さい箱に手を伸ばし、外側の包みを解いて開けた…
と、その瞬間…
フワァ…!
柔らかい光と共に大量の蝶が小さい箱から出現した。
あの小さい箱から数十に及ぶ数の蝶が出て来るって、どう言う仕組みなんだ? あの小さい箱…
俺は蝶の美しさよりも箱の原理が気になって仕方が無かった。
「これは…!」
「フフ、これは紫からね…」
銀髪少女が驚き、幽々子さんが小さい箱の届けが誰からのなのかに気付く…
・・・
て…紫さんから⁈
何でわざわざ…
「たまには、自分以外の蝶を見るのも良いわね」
幽々子さんは扇子を広げながら微笑み、口元を隠す。
…おっと、何か忘れてる気がしてると思ったら 自己紹介がまだだったな。
「あの、あなた達の名前は?」
「あら、そう言えばまだ自己紹介して無かったわね。私は西行寺 幽々子よ」
「私は魂魄 妖夢です」
漸くわかった。頭辺りに変な布を巻いたのが 幽々子さん、物騒な物をぶら下げた銀髪少女が 妖夢な…
「幽々子さんは知ってると思いますけど、俺は鳴神 優翔です」
「よろしくね、優翔君」
「よろしくお願いします、優翔さん」
なんだか意外と ほんわかした人だな。
さっきのカリスマ感との違いが凄まじい…
と、俺は一つ気掛かりな事を思い出した…
「幽々子さん、一つ訊いても良いですか?」
「良いわよ」
「外のあの大樹は一体…」
俺は屋敷の外で見た“あの木”の事を幽々子さんに訊いた。
「あぁ、見たのねアレ。凄いでしょ? あれは西行妖と言ってね、一応にも桜の木なのよ」
「そうなんですか…」
あんなにデカい桜の木が在んのかよ…
こりゃあ、咲いた時が楽しみだね…
「でも、もう桜は咲かないの。前に私が咲かせようと春度を冥界に集めたのだけど、途中で邪魔者が入って咲かす事が出来なかったわ」
邪魔者? 誰だ?
「その邪魔者って誰ですか?」
「あなたも知ってる霊夢と魔理沙よ」
「霊夢、魔理沙…」
あぁ、あの二人かぁ…
俺の時もあいつ等が来て、問答無用で攻撃されたな。
まぁ、逆に返り討ちにしちゃったけど…
て事は だ。あの二人が現れるには何かしらの理由があった筈…
「その春度はまさか幻想郷から?」
「ええ。ただ、その所為で幻想郷自体の春が遅れてしまったわ。その事はしっかり反省してる」
春度とか言う物を集めた所為で春が来るのが遅れる…
そりゃ来てもおかしく無いな。だって、妙な事が起こったら霊夢が来るんだろ。
それに、寒いのは好まないし 霊夢本人から聞けば何かといろいろ理由がありそうだな。
と、いつの間にか俺は談話を繰り広げていた。
やる事やったし、そろそろ帰るかな…
「あの、そろそろ俺 帰ります」
「あら、もう少し居れば良いのに」
「いや、意外とそうもいかないので…」
「そう、わかったわ。気を付けてね」
幽々子さんが扇子を閉じ普通に微笑みだした。
そして俺は立ち上がり、その場を足早に立ち去った…
・・・
「妖夢、お茶とお菓子を頂戴。少しお腹が減っちゃった」
「わかりました」
「それにしても“彼”、西行妖に似てるわ…。明らかで似てるのでは無い。何かを惹き付け、でも僅かに感じる怪しい力…あれはーー」
その日、俺はずっと寒気がして眠れなかった…
寒気だけでは無かった。
何か起こりそうな予感まで、しかも直ぐそこに…
続く




