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ストーリー外のボスを倒すメリット

 ミストルイン鉱山に入ってから一時間。


 十五体ほど魔物を倒し、ようやくハンマーのコツが分かってきた頃。

 鉄鉱石・銀鉱石もかなり集まったが、それに伴う疲労感は凄まじいものがあった、


「勇者様。一旦休憩していいですか」


「そうだな。少し座るか」


 ちょうど良いサイズの岩を見つけ、私は腰掛けた。



 手にはマメができて、両手両足はプルプルと震える。

 ここまで必死になって鉱山を進んだが、ボルトゴールドの採掘数はゼロ。

 本当に見つかるのか、疑問にさえ思う。


「よかったら水、飲むか?」


「結構です。自前のものがあるので」


 腰に掛けておいた水筒の蓋を開け、中身を喉に流し込む。

 ハーブの香りが鼻腔を駆け巡った。


 続いてスカートのポケットから紙袋を取り出し、ラスクを頬張る。


「意外と用意周到だな」


「空腹は、鍛練の天敵ですから」


「一つ分けてくれないか?」


「……仕方ありませんね」


 五つあるうちの一つを勇者に渡す。

 笑顔で受け取る勇者は、本当に嬉しそうに見えた。



 考えてみれば、私という女性メイドから食べ物を分けられたのだ。

 男なら喜んで当然かもしれない。


(というか、たまに勇者様から変な視線を感じるんだよなぁ)


 戦闘中は見守られてる感じがするのだが、それ以外__例えば今なんか、別の意思を感じる。


(……私を異性として見たりしてる?)


 試しに、腕で汗を拭いつつ伸びをする。

 わざとらしく、勇者へ向けて脇を見せた。


 確実に視線を集中させる勇者。

 私が顔を向けると、何も無かったようにスンと視線を戻す。


(やはりか)


 世の中の男性諸君。女性をそういう目で見るのは止めよう。

 全てバレているぞ。


 と、誰にも届かない忠告を心に刻んだ。



 事が動いたのは、休憩開始から十分ほど経った後。

 ごろん、と岩に寝転がると、後ろで何かがキラリと光った。


「あれは……」


「どうした?」


 私の視線を辿り、勇者も異変に気付く。


 黒っぽい岩肌から顔を覗かせる黄色い光。

 遠目には分かりにくいが、ピリピリと帯電しているように見える。


「ボルトゴールド……?」


「こんなところにあったんですね」


 仰向けの状態からゴロンと起き上がる。

 疲労による痙攣は残るが、かなり体力は回復している。


「おいルナ、警戒しろ」


「分かっています」


 周りを観察するが、魔物は見当たらない。

 採掘に集中しても問題なさそうだ。


「大きな鉱石が埋まっていれば、いいのですがっ!」


 期待を込めつつ、ハンマーを振り下ろした。



 ガンッ!

 コゴゴゴゴゴ……


「うわわわっ!?」


「下がれ、ルナ!」


 言われる前に距離を取る。

 地響きでうまく立つことができない。


「あれは、珍しいな」


 岩壁から、ボルトゴールドと鉄鉱石の塊が崩れ出てくる。

 そして、それに付随するようなスライムの塊。


「あんな大きな魔物が……」


 体長は三メートルくらいで、以前戦ったフルムーンベアより低い。

 しかし横はそれ以上、六メートル近くある。


 ボルトゴールドの黄色・鉄鉱石の黒色・岩石の茶色で、三色のマーブル模様。

 それぞれが体表のデコボコを埋め、かなり滑らかなフォルムを実現している。

 ライムで出来ていた手足には、内部に一メートル越えのボルトゴールド岩石が取り込まれていた。


 何というか、伝わるか分からないが……オープンワールド系のゲームなら、登って叩きたくなるような外見。

 そして、倒せば鉱石が沢山ゲットできそう。

 それはこの世界でも同じだろうけど。


(出てくるゲーム間違えてない? こんなの出てきたっけ!?)


 冷静に攻略Wikiを確認すると、それらしい記事がヒットした。



『ファンタジア・フロムアビス攻略を検索:

ボルトゴールド ボス


【ボス】岩魔神・ボルトゴールド型は倒すべき? 報酬と倒し方』



「これかぁーっ……!」


 最近は攻略Wikiが当てにならないから、下見せずに鉱山へ入っていた。

 私のミスだ。


「来るぞ!」


 地響きが終わり、岩魔神が向かってくる。

 私はハンマーを構え、その巨体と向き合った。




 最初に仕掛けてきたのは岩魔神。


『…………』


 岩とスライムの塊なので、まあ喋ったりはしない。


 それでも、ボルトゴールドで作られた腕を思い切り突き出してくる。

 岩石パンチだ。


「稲妻切り!」


 私はそれを大きく避ける。

 今までの魔物より動きは遅いが、サイズが違いすぎる。

 頬が切れそうな風圧の横を駆け、魔物の股下を潜り抜けた。


「おりゃああっ!」


 振り返り、背面へ一撃。

 ボルトゴールドにこびりついた岩石が、殴った部分だけパラパラと砕ける。

 ダメージが入ったようには見えない。


『…………』


「え、ちょっ!」


 魔物は私の位置を認識しているのか、ヒップドロップを決めようと飛び付いてくる。


「わああぁーっ!!」


 咄嗟に稲妻切りを使い、回避。

 衝撃波に身体を持っていかれ、五メートルほど吹き飛ぶ。


「痛ったた……」


『……!』


「うわぁぁ、稲妻切り!」


 そのままの向きで魔物は立ち上がり、私へ向かって岩石パンチ。

 これも避けるが、風圧に吹き飛ばされる。


「そっか、関節の向きとか無いんだ……!」


 受け身を取りつつ、当たり前の事実に気付く。


 骨組みは岩、接合部はスライム。

 どれだけ背中に回り込んでも、相手にとっては死角ではない。


「そもそも、どうやって私を認識してるか……分からないけどっ!」


 再び岩石パンチが繰り出される。

 今度は横へ回り込み、足を捉える。


「なら次は、行動を封じる!」


 段になっている岩足の真ん中へ、ハンマーでフルスイング。

 だるま落としのように岩石が抜け、魔物がバランスを崩す。


「まだまだっ!」


 一旦下がり、魔物が倒れきるのを待つ。

 その次は魔物の上、腕の接合部に飛び掛かる。


「これで、どうだ!」


 関節へ一撃。


 バラバラと殴った部分が砕け、繋がっていた岩石も落ちていく。

 岩一つが何キロあるか分からないが、潰されたらまず死ぬ重さだというのは容易に想像できた。


「というか……ここ、もしかして安全?」


 片方の腕は崩壊、もう片方は私まで届かない。

 このまま本体を殴り続ければ、ジリジリ削り勝てるのではないか。


「それじゃあ早速っ!」


 ハンマーを振り上げ、足元へ打ち降ろす。

 ガインッ! と、手に強い衝撃が走る。

 金色の滑らかな体表には傷ひとつ付かない。


「もう一発__」


 再びハンマーを上げようとした、その時だった。



 急に辺りが暗くなる。

 まるで、何かに日差しを遮られたかのように。


「うん?」


 異変を感じ、すぐに魔物の上から離れる。

 直後、ガツンッ! と。


「うわ」


 私がいた場所に、長い岩腕によるパンチが落とされていた。


 いつの間にか、届かないと思っていた腕が二倍くらいの長さになっている。

 私の目の前で、そのカラクリが明かされた。


「腕の岩が、移動して……」


 引っ付き合う磁石の玉みたいに、ゴロゴロと魔物の表面を移動するボルトゴールド岩石。

 よく見ると、五センチくらいの膜……スライムが、岩をすっぽり覆っている。


 長かった腕は二等分され、元の長さに戻る。

 辺りに落ちていた岩石もスライムと一緒に魔物の足元へと集まり、すっかり元の形に戻った。


「調子はどうだ、ルナ」


「見て分かりませんか」


「ははは、今のは助けようか迷ったな!」


 遠巻きに、笑いながら私へ声をかける勇者。

 強者の余裕というヤツだろうか。


「打開策が……見えない」


 魔物の攻撃を避けつつ、私の殴打は続く。




 あれから数分後。

 疲弊する私をよそに、ボルトゴールドの魔物はピンピンしていた。


 いくら殴っても、茶色の岩石が欠け落ちる程度のダメージしか入らない身体。

 再生する手足。

 それでいて、まともに受けたら命は無い岩石パンチ。


 対する私は、殴ったときの衝撃で腕が麻痺してきている。

 たまに岩石パンチの衝撃波に被弾し、息は切れ、MPもだいたい半分を切った。


「普段なら、とっくに逃げてるんだけどなぁ」


 勇者は相変わらず、腕組みして私の姿を観察している。


 私の視線に気付くと、まだ行けると言わんばかりに親指を立ててきた。


「いや、無理なんだけど……!」


 稲妻切りは活用中。

 雷嵐は単体相手じゃ威力が低い。

 帯電カウンターは論外。

 他に、有効打になりそうな技は__


「あるにはあるけど」


 岩石パンチを飛び上がって回避。

 魔物の上に立ち、ハンマーを正面に構える。


 この世界では滅多に使わない大技。

 魔物からのカウンターが来る前に、私はさらに大きく飛び上がる。


「__落雷切り!」


 叫ぶと同時に、振り上げたハンマーから強い衝撃が伝わる。

 まるで雷に打たれたようなそれを、一直線に降ろす!


「どりゃああああ!」


 稲妻切りよりずっと火力の高いそれを受けた、魔物の反応は__



 変わらず。

 ガィン! という金属音と共に、魔物の表面が欠けただけ。


 一方の私は、あまりの衝撃にハンマーを離してしまう。


「うわっ、ととと」

 そのまま魔物から転落し、尻餅を付く。

 ダメージは軽い、が。


 続けて魔物が押し潰しに来る。


「うわぁ、稲妻切__」


 身体が動かないことに気付き、焦燥。


 落雷切りの欠点は、使用後の大きな隙。

 身動きが取れない状態で、魔物の巨体が迫る__



「稲妻、蹴゛り゛ぃっ!」


 私と魔物の間に、野太い声が入る。

 勇者だった。


「なっ」


 恐ろしいのは、その足技一つで……あの魔物を退けてしまったことだ。

 魔物の重心が後ろに倒れ、私から離れる


「ふっ、ルナは雷魔法の使い手らしいからな。手本になったか?」


「規格外すぎて、なりません」


 土砂を舞い上がらせながら倒れる魔物を背景に、悪戯っぽく笑う勇者。


 まるで戦隊ヒーローだった。

 なるほど、この世界の女が惚れるわけだ。


「冗談は置いておこう。ルナ。君はもっと、敵の弱点を考えるべきだ」


「弱点、ですか?」


「小さな魔物を倒すとき、何て言ったか覚えているか?」


「一撃で粉砕するよう……って無理ですよ!」


 起き上がり、こちらへ向かって体制を立て直す魔物。


 あの大きさをワンパンするには、今の勇者の三倍くらいパワーが必要だろう。


「はは、流石に一撃とは言はない。そうじゃなくて、あいつらの生態についてだよ」


「鉱石を身に纏い、独特な防御力を手に入れたと。でもあの身体、いくら殴っても効果ありませんよ」


「本当にそうか?」


 実際、何度もハンマーで叩いていたが手応えは無かった。

 精々、茶色の岩石が剥がれるくらいだ。



 そう。

 ボルトゴールド製の身体から、余分な岩石が剥がれかけている。


「うん?」


「気付いたか」


 私の攻撃が効かないのは、その丸みを帯びたボディが衝撃を吸収するからだ。


 少しだけ、勇者の言わんとすることが分かった気がした。


「勇者様、私の斧はどちらに?」


「元のところに置いている」


 私が前に寝転がっていた岩に、薪割り用の斧が無造作に置かれている。


 歩いてそこまで行き、魔物に向かって斧を構える。


「少し、試してみたいことがあります」


「見守ろう」


 少し落ち着いた私は、身体に魔力を込めた。



 岩魔神ボルトゴールド戦、続行。

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