7日目 13 落下地点
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緋色髪の舞剣士ヒナが怪しげな白頭巾と対峙している傍を、一人の男が通りかかった。
通りすがりのモーブさん、この宿場街で道具屋の雇われ店員として暮らす、小太り、薄毛、ぽっこりお腹、気弱で少々おっちょこちょいな四十代妻子持ちだ。
周囲から鈍いと言われるモーブさんも、長年暮らすこの町の気配には敏感だ。
(何やら揉めてる気配がするぞ……)
狭く暗い路地の入口に立つのは目を引く鮮やかな赤い髪をした人。
山から吹き下ろす北風に外套をなびかせると、健康的に日焼けした太腿を堂々と見せる短い下履き姿はおそらく娘くらいの年頃の女の子……それも軽装なれど皮鎧を着込んでいて冒険者みたいな恰好だ。
道具屋で働いているために多様な姿の客に応対することもしばしば。
だが、自分の娘があんな姿で街中も野外も問わず出歩いているのは、とても想像がつかなかった。
路地の向こうはどんな相手か判然としないけれども、収穫祭が近づくといろんな輩が街にやってきて揉め事をおこすからな、くわばらくわばら、関わったところで命がない。
近づかないのが身のためだ……。
と幼い頃しわくちゃの曾祖母に教わったように両掌を擦り合わせ厄災が降りかからないようにと天に祈りながら揉めているであろう路地の女性を見て見ぬふりで通り過ぎようとする。
「どいてどいてどいてどいてどいてどいてどいてーーーーーーーー」
どこからかそう遠くないところで叫び声がする。
収穫祭の搬入をするために無理な荷積みをした馬車の制御でも利かなくなったか、やれやれ無茶な牽かせ方するからだ。
馬の扱いなど苦手なのに、人の馬車捌きには難癖をつけがちな小市民である。
いちいち気にしてなどいられないと、様子を確かめようともせず歩みを進める。
また街行く誰かの声がした。
「な! なんか落ちてくるぞっ!」
「そこの人! あぶ、あぶなーーーーーーーーーーー」
切羽詰まった女性の声があまりに近づいてきた、と気付いた時には遅く。
目の前には人が優に跨れる太さの丸太が宙からモーブさんめがけ尋常でない速さで迫っていた。
本当に人が跨っているわけだが、この時のモーブさんには見えていない。
「しゅ、しゅしゅしゅしゅ「何やってんですか早くし」守護方陣んんーーーーーっっ‼」
若い女性の声らしいやり取りが聞こえたときには中年男モーブさんの鼻先ギリギリのところに浮いた丸太が止まっていた。




