学院の魔王
「トウドウさんは強くなりたいだけなんだと思います」
バイトの帰り、寮までの道を歩いていると唐突にアテナが口を開いた。
『まあ……そりゃ誰でもそうだろうとは思うけど……』
「そうなんですけど、トウドウさんの場合は『強さ』以外にあまりにも無関心なんです」
『ほう……』
「トウドウさんは『このチームなら強くなれると思った』と言っていましたが、あれは正確には『このチームなら“自分が”強くなれると思った』、ということだと思います」
『ふむ。じゃあチームに入った目的は……』
「いきなり強くなった私に目を付けて、その秘密を探ろうとしているのではないでしょうか」
『なるほど……自分が強くなることだけを考えてそれ以外はどうでもいい、と。確かにそう考えるといろいろと納得できる』
そういえばあいつは妙にアテナのことを見ている時があった。
それにルミナスには全く関心がなさそうだったし、元チームメイトであるヴィクタスのことも面倒事としか思っていなさそうだった。
本来であれば前のチームメイトとの決別を意味するはずの決闘。それをトウドウは……面倒としか思っていなかったのだ。
言い換えれば――トウドウは自分勝手なのだ。
自分勝手で、めちゃくちゃストイック。
強くなることしか考えていない。そうやって生きてきた結果があのステータスなんだろう。
だからある意味、エフィさんが言ったように『一生懸命』ともいえる。
まあ正直、トウドウがどう考えて生きていようが興味はない。問題は彼女がチームプレーを出来るのかどうかということだ。
すなわち――
――彼女は『仲間』と言えるのか。
* * *
決闘があった翌日、アテナの学院での立ち位置は少し変わっていた。
……いや、嘘は良くないか。
少しではなくめちゃくちゃ変わっていた。
どういうことかというと、それは言葉で説明するよりも実際に見た方が早かろう。
「魔王だ……」
「魔王が来たぞ……!」
「目を合わせるな! 心臓を取られるぞ!」
「あわ……あわわわ……」
ヴィクタスをボコボコにしたことでアテナは一躍、学院の最強候補にまでなっていた。
落ちこぼれ
↓
なんかヤバい奴
↓
魔王
と、よくない方向にクラスアップを果たしてしまった。
アテナが歩けばモーセの如く道ができる。昨日の決闘は学院生徒に明確な恐怖を植え付けていた。この女に逆らったらヴィクタスのようになる、と。皆がそう考えるようになったのだ。
「ゆっくり……慎重に距離を取るんだ!」
「背中を見せれば襲い掛かられるぞ!」
その周りの様子を見てアテナはピタリと足を止めた。
「ヤマダ様」
じわり、とアテナの目の端に涙が浮かんだ。
『……申し訳ありません、魔王様』
「~~~~ッ!」
『ああっ! ごめんごめん、悪かったよ泣くなって』
「というか、こうなったのはヤマダ様のせいですからねっ」
『ご、ごめんなさい』
確かにやりすぎてしまった感は否めない。
これは反省だな。
と、不意にアテナがニヤリと笑った。
「ヤマダ様には反省してもらいます」
『うん?』
言うなり、アテナは俺を杖(と言う名のただの木の棒)から取り外し、スカートのポケットにスポッとしまいこんだ。
「どうです? 暗くて何も見えないでしょう?」
『な、なんと……!』
確かに自分で動けない俺は視界をふさがれるとちょっと辛い。景色が見えないとつまらないってだけだが。
しかしよく考えてほしい。
ここはスカートのポケットの中だ。つまり、薄い布を隔てて十代の女の子の太ももと密着しているのだ。
細すぎず太すぎず、程よくムチッとした良い肉感の太もも。
『ふひっ……』
「ヤマダ様……?」
俺のすべきことは決まった。
『ひえ~。真っ暗だ、怖いよー』
“スカート怖い”作戦である。
「ふふっ、もうちょっとしたら出してあげますからね」
ドヤ顔のアテナが目に浮かぶ。
この子がアホで良かったとこの時ほど思ったことはない。
と、アテナとじゃれ合っていたら、
「おお、こんなところにいたかヘカテイア殿」
最近よく聞いた声が布越しに届いてきた。
トウドウの声だ。
「トウドウさん、どうかしました?」
「ちょっと言伝を頼まれてな。アカシア校長がすぐ来てほしいそうだ」
「校長先生が?」
「うむ。それともう一つ、これは某の頼みなんだが……もう一度その魔石を貸してはもらえないだろうか?」
おや、またも俺にご指名が入った。
「えっと……」
アテナがポケットから俺を取り出し、ちらりと視線を寄越す。
くそっ、密着タイムもここまでか……。
『……まあ、構わんぞ』
「もしかしてあまり気が進みませんか? 嫌でしたら断っても……」
アテナが小声で俺に問う。
『いや、別にいいんだがな。アテナ(の太もも)と離れるのがな……悲しいと言うか……』
「……! 私といっしょに居たいんですか……?」
なぜかアテナがじ~んと感動したように目をうるうるさせた。
……本当になぜだ。
「ヤマダ様、そこまで私のことを……!」
『???』
そしてなぜかアテナは俺のことを優しく撫ではじめた。
あの、ホントどうした?
「すぐに迎えに行きますからね。少しの我慢ですからね!」
『お、おう……?』
「できるだけ早く用事を済ませますから!」
幼稚園児を預ける母親の如く、アテナはトウドウにそっと俺を手渡した。
「何度も申し訳ない、また一刻ほどしたら返そう」
「いえ、ではまたあとで……」
そうしてアテナは何度もこちらを振り返りながら校長室に向かっていくのだった。




