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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
14章 占星の申し子
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25 最遠より望む占星の申し子ですが


「お嬢さん、こちらへ」


 タオに呼ばれて私は狭い路地へと身を滑り込ませる。戦場の音が近づくのが判って、タオが近道をしたのだと知った。


「こんな場所を通るの?」


「今は緊急事態ですからな。普段は蜘蛛の巣が張るような場所、通るはずも」


 私よりも背の高いタオが先を進むから蜘蛛の巣は彼が引き受けてくれているのだろう。ありがとう、と言えばタオは驚いた様子で一度私を振り向き、それからまた進行方向へ顔を戻して笑った。


「キヒヒ。我輩に礼なぞ」


「どうして? 先を行ってくれてるのに」


「……道を知っているのが我輩というだけのこと」


 それでも、と私はタオに言葉を向けた。


「私が言いたいの。貴方がただ受け取ってくれれば嬉しいわ」


「……では、お言葉に甘えましょう」


 今度こそ私のお礼を受け取ってくれたタオは其処で足を止めた。私にも止まるよう身振りで示す。声を出さないのは道の先の様子を窺っているからだと察して私は口を噤んだ。


 剣戟に指示を飛ばす声、大勢の足音。負傷したのか苦しげな呻き声もする。紛れもなく命をやり取りする戦場の音であることを感じて私は一気に緊張した。タオがどうかは知らないけれど私に戦闘向きの“適性”はない。身を守ることがバフルのおかげでいくらかできるようになっただけで、戦闘となると役に立てる機会はなさそうだ。タオも恐らく、城の兵ではなく墓守を選んだことから戦闘向きの“適性”はないのだろう。


 そんな私たちが物陰で身を潜めるのは道理で、戦闘が終わるまでそうしているのが一番安全なのも事実だった。


「あぁ、お嬢さんと同じような出立ちの冒険者が……ほうほう、これはお嬢さんが自慢げにするのも頷ける……」


「自慢なのはそうだけど自慢げにしてたかしら」


 自慢げに聞こえるなんて良くないことじゃないだろうかと慌てて私がタオに尋ねるのと魔物の声が重なるのは同時だった。びゅう、と強い風が吹いて建物を揺らす。数名の兵士がよろめいて倒れるのが覗き込んだ狭い視界に見えた。


「恐らく最後の悪足掻きというものでしょうな。今の風をものともしない女剣士が今まさに(とど)めを刺すところで」


 ラスだ、と私は直感する。タオは見えた範囲のことを小声で教えてくれているようだ。タオの体の幅は私よりどうしたって大きいから気を遣ってくれているのだろう。ラスが恐らくはロディの援護を受けて鳥の姿をした魔物を一刀両断する様子をタオは仔細に私に伝えてくれた。


 喉が引き攣れるような断末魔をあげて魔物が絶命するのは私の耳にも当然届く。思わず身を竦めてしまうような苦痛に満ちたものだったけれど、こういう時のラスは躊躇わない。その躊躇が苦痛を長引かせるだけだとちゃんと知っているから。


 どう、と巨体が地面に倒れる音が地響きの次にやってくる。私は断末魔が聞こえた時から手を組み、両目を固く閉じて祈った。どうか、と女神様へ向けて祈る。同時にその魂を受け入れる地の底へも。


 人と敵対した命であったばかりに奪い合いになったことを嘆いて。それでも、どうか。どうか、安らかな眠りが訪れることを。そして地の底にいるであろう存在へ、この命を贄とすることを。その傲慢さを自覚しながら願う。


 ふ、と音が消えた気がして私は目を開ける。街並みは変わらない。目の前にタオの背中があることも。断末魔が消え、戦いが終息したから音が消えたのかと思ったけれどタオがこちらを向いた表情が、その口元が緊張に引き攣っているのを見て私は察した。これは。オリガと一緒に山で二人、取り残された時と同じ。


「──離れないで」


 私は咄嗟に手を伸ばしてタオの腕を掴む。驚いたように薄く唇が開いたタオの、けれど声が出ることはない。目の前を青白い炎が通り過ぎる。細く狭い路地に身を潜めている私たちはお互いに小さく息を呑む音を聞いた。来たのだ、と思う。また、此処へ。


「会わなきゃ。地下にいるわ」


「……キヒヒ。つまりお嬢さんが前に来た場所と同じ、と」


「全く同じではないけど、多分、そう。呼んでもらえたの。他にも呼ばれている人はいるかもしれないわ」


 前回はロディもラスもセシルも、離れた場所だけれど同じ空間にいた。此処で戦っていた多くの兵たちはどうなっただろう。ラスは、ロディは。


 ……ロディには今度は来てほしくないと思いながら。またあんな思いをさせたくはない。


「何、何よこれ……! どうして……!」


 押し殺したような悲鳴が聞こえて私とタオは顔を見合わせる。首を伸ばしたタオがあれは、と呟く。


「お嬢さんのお仲間さんでは」


「え」


 タオが少し場所を空けてくれるから私は其処から首を伸ばしてみた。青い炎に怯えたオユンがメイシャンを抱いて狼狽えていた。


「オユン……!」


「ら、ライラ……?」


 声をかければオユンは私を向いた。何なのこれ、と言いながら駆け寄ってくる。城にいたはずのオユンが戦場だったこの場所まで来たのかと思えば違うらしい。移動させられたのだ、と私は察した。


「誰か! 誰かいないか!」


「リャン?」


 反対側から声を上げながらやってきたのはリャンだ。大剣を持つ出立ちはハオとは違う。討伐へ出た装備のままだ。リャンも此処へ移動させられたのだろう。他にも移動している人はいるかもしれない。


「ライラたちか。どうした、何故こんなところへ。いや、それは俺もだけどな。魔物を追っている最中だったんだが……」


「なるほどなるほど。我輩たちはどうも、呼ばれた様子。その選出の理由は不明なれど」


 タオが一点を見て楽しそうに笑った。


「皇帝陛下もいらしたなら此処には星に選ばれた神子がいることになる」


「リャン、それに葬儀屋」


「兄貴? 何でこんなところに」


 また別の路地から蜘蛛の巣を払ってハオが現れる。地下にいたはずのハオまでいるならタオの言うことは当たっているのだろう。タオもハオもメイシャンがそうとは知らないはずだけれど。


 此処に集ったうちの三名は確かに、占星の申し子たちなのだと。


「お嬢さんが言うには地下へ会いに行く、と」


 タオがペラペラと話すから皆の視線が一斉に私を向いた。ハオは私とタオが此処へ来た理由に推測がついたのか目を細めるだけだったけれど。


「──どうしてか判らないけど、私たちは呼んでもらえたの。行こうとした理由は向かいながら話します。いずれにしても此処にいるだけでは出られないと思うから」


 最遠の地下を目指して、私たちは踏み出した。



本日ライブ参戦の予定がありいつもの時間には更新できなさそうなのでこの時間に!

異色メンバーでまた地下にいきたいなぁと思っていたので書いていきたい所存!あちこちにフラグ立ててるので回収していきたいけど彼ら好き勝手動くし言うこと聞いてくれるか分からんです!なるべくがんばります!


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