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私の天職は歌姫のはずですが  作者: 江藤樹里
14章 占星の申し子
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17 残った城内ですが


「この者たちの腕は俺が保証する。礼節も重んじる者だから好きにやらせろ。お前たちは普段の練習の成果を見せることに集中するんだ。民を守れ」


 リャンの短い激励は兵士たちの士気を上げるに充分だった。応、というこちらも短い返答はそれでも雄々しく勇敢さを感じる。それを聞いたリャンが満足そうに笑ったのが兵士たちにとっては報酬らしい。信頼し信頼されることで人を惹きつける人、というのは彼のような人のことを言うのだろう。


「お前たちも無理はするな。まぁ関所で奮った勇猛さを此処でも発揮してくれることを願ってはいる」


「手を抜くつもりはないさ。あんたも魔物の巣叩き、気をつけて」


 ラスの言葉にリャンは任せろと笑った。何処か少年っぽさを残す笑顔は本来であれば皇弟というよりは自由に外を駆ける青年の方が生き生きとするのかもしれないと思わせる。


「シンは置いていく。現場で計算する機会はそうないからな。これでもこの国一番の博士だ。顔は利くから何かあればシンの名や顔を出せば良い。俺の名はダメだ。今、表に出て行くのは皇帝だからな。軍の奴らというか城にいる奴らは事情を知っているが、もしも市井に出るなら皇帝ハオの名を使え。魔物討伐に勤しむ姿を見せれば否が応でも信じるだろ」


 何でもないことのように告げられたそれに私は彼の在り方を見せられた気がした。皇弟としてではなく、皇帝として表に出る。外には出られない皇帝のその表向きの役目を担う人。真の皇帝はこの国の危機に今、何処で何をしているのだろう。


「皇帝様が魔物の巣叩きに出ることだってそう信じられることじゃないはずだけどね」


「はは、それが信じられるのがこのナンテンだ。皇帝は視察にも戦場にでも赴く。その姿を見せなきゃ意味がないだろ。城に籠ったままの皇帝なんて、いないのと同じだ。兄貴(ハオ)はそう言う」


 城に籠らざるを得ない皇帝として在るからこそ。そう在ることを定められた兄弟たちの生き方を、違う生き方をしてきた私には苦しく感じるけれど。それ以外を許されないのは彼らが皇帝だから。其処に治める国があり、其処に暮らす民がいるから、なのだろう。


「気をつけて。帰りを待っています」


 思わずそう口を開いた私をリャンは一瞬驚いたように見て、任せとけ、とラスに見せたのと同じ笑い方で返した。


 リャンが率いる部隊は魔物の巣があると思しき方向へ向けて出発し、今日も訪れるだろう魔物への対処をすべく私たちは城に残った。と言っても戦えるのはラスとロディだけで、私やオユン、セシルは兵の手を借りずに自分の身を守ることに注力することが目的となる。逃げ遅れた民の避難誘導くらいならできるかもしれないけれど、メイシャンを抱えたオユンをひとりにすることはできない。


「わたしは戦闘はからきしでして……被害が少ないだろう場所を計算することはできますが」


 残ったシンはメイシャンを守る命を負っているのだろうことが窺える。それでも身を賭して盾になるくらいが関の山だろう。この国一番の博士を喪う痛手も大きい。私たちは相談の上、ラスとロディは魔物を迎え撃つために外へ、それ以外は城の中でできることをするとして役割分担を行なった。土地勘のない二人が立ち回りを考える上で必要だからと外へ向かうのを見送り、私たちは城の中を案内してもらう。


 城は大きく敷地も広い。ナンテンの都そのものも大きいのに城でこれだけとなるとどれだけの人間がいるのかと目を回しそうになった。また、この都の外は飢えて人同士での争いさえ起きているのに、此処には物が溢れているように見えるのも気分が落ちる一因だった。セシルは分かりやすく眉根を寄せて綺麗な顔の眉間に皺を刻んでいる。


「こちらの棟は連日訪れる魔物に家屋を潰され持つものも取り敢えず逃げてきた者たちの避難場所になっているようです。皇帝であるハオ様の計らいで帰宅の目処が立つまでは開放するそうで。リャン様たちが巣を叩いて襲撃がなくなればその目処も立てられるでしょうが……」


 四方八方へ伸びる廊下のひとつへ視線を向けたシンは力なく首を振った。十日も続く襲撃に運良く死者は出ていないようだけれど住む場所を奪われた人はいる。思い出が詰まった家を喪うとなれば体に怪我はなくても心に暗い影を落としているだろう。一日でも早く帰れますようにと願うことしか私にはできないけれど。


「……あの、すみません……」


「はい」


 シンはにっこりと笑って声をかけてきた人物を振り返った。全身真っ黒で陰鬱そうな雰囲気を纏った背の高い人物は、前髪が長く伸びているせいで目元が見えない。唇だけで表情を作る青年は、にたり、と不気味に笑う。オユンはヒッと喉の奥で悲鳴を飲み込み、私も思わず目を丸くした。けれどシンは表情ひとつ変えなかった。


「仕事があると聞いてきたのですが」


「いいえ、貴方の仕事はありません。しかし貴方の住まいも被害地区の方でしたね。あぁ、墓守の方の仕事はしばらくお休みください。魔物の襲撃時間が一定とは限らないのですか──」


 真っ黒な服は死者を悼む気持ちからとシンの言葉から推測した最中(さなか)、地響きがした。何にも掴まらずに立っていると少しよろめく、そんな揺れだ。セシルが咄嗟に私を支えてくれて、オユンはメイシャンを守るためかしゃがみ込む。シンはよろめきながらも何とか踏ん張り、墓守の青年は微動だにしなかった。


「キヒヒ」


 墓守の青年は不気味な笑い声を上げた。唇でしか表情の見えない彼は楽しんでいるようにも見える。


「おや、おやおや。我輩の仕事は“まだ”でしたかな。それもそのうちにありそうですが。どうぞ“肉のあるうちに”ご利用頂きますよう」


「ありませんよ。そんなものに頼らずとも皇帝陛下と軍はお強い」


 キヒヒ、と青年は笑ってまだ揺れる地面をものともせずに避難場所になっている棟へ向かって歩いて行った。揺れが収まってからシンが申し訳なさそうに眉を下げて私たちを見た。


「あれは都の外れに住む葬儀屋でして……墓地の墓守も兼ねているのですが如何せんあの風貌と難のある性格のせいか気味悪がられてしまう。生者に興味はないので皆さんに危害を加えることはないでしょうが……」


 驚きましたよね、とシンは困ったように笑った。この揺れも、とシンは足元に目をやる。


「以前はなかったものです。が、此処最近になって揺れるようになってきました。何もなければ良いのですが……」


 シンの抱える不安を拭う言葉を持たないまま、私はシンを気遣わしげに見る以外なかった。



先週はお休みをいただきありがとうございました! そしてお知らせも出さずに申し訳ありません!

あまりの社畜ライフが数ヶ月続いていたところ、集中して繁忙期より忙しい1ヶ月を乗り越えた(落ち着きは束の間でまた忙しくなる未来があるんですけど!)ことと、日帰り墓参りツアーでへろへろだったことと、繁忙期より繁忙じゃなければ休んでたくらい痛い月のもので違う神経も使っていたことと、色々限界だったのに3連休で休んだら疲れていたことを体が理解してしまってぐったり何もできないぜべいべーになっていたのでした! 連休明けの4日間もはちゃめちゃにしんどかった! 栄養ドリンクぶち込んで稼働しました!

この土日もしっかり休んだので今日からまた復活です! 繁忙すぎて昼食べる時間ないからか後は何もしてないのに1ヶ月で5kgくらい痩せたんですけど皆さんも体調にはお気をつけくださいね! 単純にお昼食べ過ぎだった説もあるんですけど! わはは!

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