2 仕事の依頼ですが
「護衛……」
長のドルジに頭を下げられ、当のオユンにも頼み込まれては私たちも断るに断れない。バルは困惑気な表情だけれど否とは言わないし、ドルマーは流石にそんな迷惑はと言いつつ強気には出られていなかった。これがオユンの頼みである、というのが大きいのだろう。
片付け途中だったドルジのテントに私たちは呼び出され、バルについて行くと言うオユンの護衛を頼まれていた。
「色々なところを旅してきたこと、トムを討伐したその手腕があればオユンひとりの護衛は容易いかと思ったが」
ドルジは首を振る。
「彼らの都合も考える必要があると言っただろう、オユン」
どうやらオユンの希望だけのようだ。ドルジはそれを諌めたけれどオユンが聞く耳を持っていないのだろう。お願い、とオユンは私の手を取った。
「この目で確かめないと気が済まない。でもあたしには姉さんみたいな才はないし……ライラ、あなたがついてきてくれたら助かるの」
私は弱り果ててロディやラス、セシルに視線を向けた。ロディは穏やかに微笑み、キミが決めたら良い、と答える。私の行きたい場所を知っているのはまだロディだけだ。だから私に選択を促す。ラスやセシルもそれで異論ないとばかりに頷いた。
「……分かったわ」
オユンの頼み事に弱いのは私も同じだ。ヨキの願いも叶えたいけれど、関所を越えた後にまた戻ってくるのは二度手間だ。それに移動する彼らを見つけられる保証はない。
「やった!」
オユンは嬉しそうに喜び、ドルマーやドルジは安堵した様子を見せる。面倒かけるね、とドルマーに言われたけれど私はかぶりを振った。
「そうと決まればオユン、出発の準備を。ドルマー、此処のことは任せたぞ。縞岩で合流だ」
バルは端的に指示を出すと自分はさっさとテントを出て行ってしまう。それをドルマーが何か言いたそうに見送り、けれど結局は首を振って口を噤んだ。私たちも準備をするため幕の外へ出る。オユンは相談の結果、私たちの馬車に一緒に乗ることになった。
「マナンの洞窟は此処から南西にある大きな洞窟よ。ドルジのおじいちゃんのおじいちゃんのそのまたおじいちゃんもその洞窟のことを知っているくらい昔からあるの。魔物が多くいるけど、自分の才がどのくらい通用するか腕試しにも使われる。姉さんやバルは下層まで行ったって話だけど、最下層にはツァガーンの衣があると言われてるのよ」
何層まであるかは知らないけど、とオユンは私たちに教えてくれる。語らないけれど彼女はその洞窟には入ったことがないのだろうと思う。彼女に魔物使いの“適性”はないようだから。だから私たちに護衛を頼むのだ。
「あたしたちの先祖は、この土地で暮らす狼だったって伝説が残ってるの。その狼が選んだ番は真っ白な毛並みを持っていたんですって。だから、婚礼の時に花嫁は白い衣を身につけるのが伝統。白いなら別に何だって良いけど、姉さんが身につけるならツァガーンの衣じゃないとダメ。バルがそれを持って帰ってこられるか、誰も見たことのないそれをツァガーンの衣と偽って持ち帰らないか、あたしが見極める」
「バルはそんなことをするような人じゃないと思うけど」
私が驚いて声をあげると、そうね、とオユンも頷いた。
「なかったらなかったって言うし、確信が持てなければ確信はないけどって言う人だとあたしも思う。でも、ダメなの。あたしが見届けないと」
「……」
オユンにはオユンの考えがあるのだろう。私たちも仕事として引き受けた以上、彼女を守りながら洞窟探検をしなくてはならない。
「アンタの願いが叶うよう、アタシらが頑張るってわけだね。ところでその護衛でも魔物は襲いかかってくるなら討伐することになるけど、アンタはそれで良い?」
ラスの問いかけにオユンは頷いた。襲いかかられたらその時の判断は任せると答えるオユンに、好きなようにやらせてもらうけど、とラスは返した。
「でもこの場所の流儀にはなるべく従うよ。アタシだって無闇に斬りたいわけじゃないからね」
戦う術も追い払う術もないなら危険の排除は護衛に一任するしかない。けれどあの集落で教えられ、あるいは暗黙の了解として受け入れていた討伐への忌避感を急に拭えるわけはないだろう。ラスはオユンの気持ちを汲み、そうすると宣言したのだ。オユンは息を零すようにして分かったと頷いた。
「それにしても誰も見たことがないのか。キミが見たってそれがツァガーンの衣とは判らないのではないかな」
ロディはオユンの言葉を拾い上げ、矛盾点を指摘する。良いの、とオユンはそっぽを向いた。
「あたしもバルも、それを見てツァガーンの衣だと思ったなら、それで。月のように白い綺麗な衣だと言われているわ。見たらきっと分かる」
洞窟の中で、光はどのくらいあるだろう。暗闇の中で佇む白い衣を想像した。でもその衣は一体どうして其処にあるのだろう。誰かが作っているのか、それとも自然にできるものなのだろうか。最下層にあるそれを、誰も見たことがない。そもそもあるかも判らないけれど。
誰も口には出さないその疑問は、私だけが感じたものだったのかもしれない。だから私はひっそり胸に仕舞い込む。いずれにしても行ってみなければ判らないのだから。
ドルマーに人数分の食料と水を分けてもらい、バルの相棒である狼のスレンを紹介され、私たちは一足先に集落を出発した。
2024/10/20の夜:どひゃーー!!ご指摘頂いて発覚しました!長はドルジ!長はドルジでございます!!!失礼しました!!!ドルジも「……はて?」ってなってたよ絶対!!ごめんな!!!!
この場面に誰がいたかな〜〜〜と思いながら書いてる&これは言い訳ですが今日はちゃめちゃ眠い中で書いてた&すみません今日はより推敲しませんでした一回も多分読み返さなかった眠かったので…な状態だったので全くきづきませんでした…書きながら船を漕ぎ、投稿前の十分前に爆音アラームをセットして起きれるようにすげー姿勢で寝たのもあると思います…いやはや本当に申し訳…修正しましたので引っ掛かりがなくなっていれば幸いです!!!




