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判別不明  作者: ふり
雑多
2/4

【5人全員】短編は難しい・1

 冬・百武紗弥菜の部屋。午後7時00分。


「はい、みんなお待たせしました~。カレー鍋ができあがったよ」

 割烹着かっぽうぎ姿の鮭延薫が、鍋つかみを両手にはめて、熱々の土鍋をみんなが待つほうに持ってきた。

「おおーっ、さっすが薫さん! あたしの胃袋を絶対ガッツリガッチリわしづかみだよっ!!」

 目をきらめかせ、赤井真央は薫に好意の視線を送る。

「ホントおいしそうね。自分でスパイスを配合したんでしょ? かおさん、うちの店に来てくださいよ~」

 ご丁寧に自分の両手を絡ませ、祈りを捧げるように籾井香夏は哀願して見せた。

 薫は苦笑しながら茶碗をテーブルの上に置く。

「ふふふ、もう香夏ちゃんったら……薫を殺す気なの? 寝る時間ぐらい欲しいわよ?」

「眼が本気マジですね。いえ、善処でいいんです善処で」

「ならば、よろしい」

「でも実際問題、薫さんは働き過ぎだと思いますよ」

 百武紗弥菜がコップを並べながら、心配事を口にする。

「そーそー。アタシらのコックさんが倒れちゃったら、チョー困るってゆーか。おなかペコペコちゃんで餓死なんて、したくないしー」

 立原未波も少なからず気にかけている様子である。

「みなみん、心配してるようで自分のことを心配してるよね?」

「え? そ、そんなことあるわけないじゃん。なんで、そーゆーことゆーの?」

「声に動揺が見られるんだけどさ。どれ、大きく開いた胸元に手を突っ込んでみようかしら?」

「ゴメンゴメン、アタシの言い方が悪かった。かおるんはみんなのママだよ」

「ママか……ママね……」

 薫はうわ言のように同じ単語をつぶやき出す。紗弥菜はため息をついた。

「まったく、未波が失言するから薫さんの意識が半分飛んでるじゃない」

「うっそー? ゴメンね、かおるん」

「き、気にしなくていいのよ。さ、食べましょ食べましょ」

 割烹着と三角巾を取って横に置きつつ、薫は未波と紗弥菜を促しながら自分も座る。

 すでに真央と香夏が気を利かせたのか、個々の茶碗に取り分け終えていた。

「あ、いっけなーい。冷蔵庫からマイマヨを持ってこないと!」

 真央が冷蔵庫ヘ向かう。香夏は思わず眉をひそめた。

「まっち、アンタいずれ病気になるよ」

「そのときはそのときで看病よろしく!」

「私がするのか。べつにいいけど」

 戻ってきた真央が、緩みっぱなしの表情で茶碗の上に万能調味料マヨネーズをかけようとする。

 がしっ

「ひぃっ!?」

「せめてひと口食べて味わってからかけてね?」

 穏やかな顔をしている薫だが、手はギリギリと真央の手首を握っていた。

「薫さん、な、中身が絶対出かけてますよ?」

「中身ィ~?」

 一段と強く握られる真央の手首。鼻先が触れ合いそうなぐらいに、薫は顔を近づけてきた。目をすがめて真央の目を見つめる。

「なんのことかしら?」

「……ご、ごめんなさいっ」

「わかればいいのよ」

 真央の手首を開放し、薫は元の位置に座り直した。

「姉御、現役の保母さんなんだから、しっかりいただきますしないと!」

「未波、うるさい。仕方ないわね……みなさん手を合わせてください」

 みんなが素直に手を合わせる。

「いただきます」

「いただきますっ」

 みんなが食べ始めた。

 すっからかんの胃袋に、カレー鍋が心地良くみ渡る

 もちろん真央は嬉々として、ひと口食べてからマヨネーズを自分の茶碗にぶちまけた。

 何か言いたげな薫の強い視線を避けていた真央だったが、あることを思い出した。

「あっ……明日までの課題やってなかった!!」

 真央は自分のカバンをあさる。

「……今度はなんの課題?」

 隣に座る香夏がおかわりをよそいながら訊く。クシャクシャになったレジュメを見ながら、真央は答える。

「文学部のゼミらしい短編小説を1本書いてこいってやつ」

「文学部ってそんなことするんだ」

「あ、でもでも、テーマも文体もなんでもいいって言ったから、余裕っちゃ余裕だね!」

「聞いてないねー」

「何が?」

「なんでもなーい」

「で、さ」

 黙って聞いていた紗弥菜が、口の端を歪めた。

「小説に関してなんでも中途半端なアンタが、なんで余裕なんて言えるのかな?」

「ねー。真央っちが今まで書いた短編なんて、数えるくらいしかないっしょ?」

 未波もおかわりをよそって、ウスターソースをさっとかけながら便乗する。

「うぅ……お願いします、お願いしますよぉ~……一応、大学では猫かぶってるんで、そこのとこも考えてみなさん、ひとつ」

 みんなの白眼視が真央にズブズブと突き刺さる。それを振り払うかのように、今まで以上に声を張り上げた。

「その代わりといってはなんですが! バイト代が入ったら、すごくおいしいって評判のシュークリームを買ってきますので!!」

 ウィンクして見せる真央。薫は味覚が完全崩壊している真央の言葉が信じられなかった。

「それはだれが言ってたの?」

「バイト仲間が言ってました!」

「ならばよし!」

「あーあ、薫さんは超甘党だからなぁ……」

 紗弥菜が面倒事に嘆くそばで、未波が俄然がぜん張り切り出す。

「最初からそーいえばいいの。短編が得意なアタシにかかれば、チョチョイの」

「未波だけが書くと、ゼミのみんなどころか教授もドン引きするから、ダメ!」

「うぇー……バッドエンド至上主義の何が悪いのか、アタシにはわかんなーい。チョーベリバー」

「とりあえず」

 薫が手を叩いてみんなの注意を引きつける。

「食事を済ませてからじゃないと薫、怒っちゃいますからね♪」

 満面の笑みで指の骨を鳴らす薫。みんなは素直に、

「はい……」

 と、答えるのだった。


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