プロローグ
ゆらゆらと。
白い空間に揺れる。
意識が曖昧だ。目の前がぼやけている。
双葉 巡。
俺の名前。なぜか今、それだけは強く胸に刻み付けておかなければならない気がした。
身体を確認する。
ない。あるのは身体の輪郭を朧げに保った光だけだった。
どうなっている?
俺は誰だ? 歳は? 性別は? どこで生まれた? どう育ってきた? なぜここにいる?
何も答えはでない。
思考が鈍っていく。
この空間のせいだろうか。視界がさらに悪くなっていく。すべてが光に還っていく。
身体の光が散っていった。
自分が無くなっていく。感覚が消えていく。次第に何も感じなくなってくる。
このままだと消える。そんな予感があった。
頭の片隅をよぎる。
俺はまだ、消えられない。焦燥だけがそこにあった。消えたくない。何故? 分からない。ただ、消えたくない。何も分からないが、まだ消えたくない。
茜はどうなる?
茜って誰だ? どうなるって……なんだ? 思い出せない。
思い出せないが、ここで消えちゃだめだ。
抗わないと。
身体から散っていく光を掴もうとする。けれど、伸ばそうとした右腕は視界に映らない。右腕はもう、光の塵となって消えていた。左腕も。右足も、左足も。
光の塊はすでに四肢を失っていた。
ただゆらゆらと。
白い空間に揺れ前へ前へと流れてゆく。
なんだっけ。俺の、名前。
意識がもう、保てなくなってきた。
ふと、背後にあたたかな感覚があった。
意識が芽生えてから初めての感覚だった。
「――やっと、見つけた」
背後から声が聴こえた。
四肢を失った光の身体が、背後から優しく抱きしめられる。
俺を包み込むその腕は、どこまでも黒く、深い闇の色をしていた。
「もう、離さないからね」
なぜか、俺は安心していた。
すべてを委ねてしまえるほどの安らぎが、胸の奥を満たしていた。
焦燥なんて無くなっていた。もう未練なんてない。
君と一緒なら消えてもよかった。
何も思い出せない。それでもよかった。
君さえいればもう何もいらないと、意識を投げ出した。




