↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界ワンダラー  作者: 藤川白紙
第1章 過去の幻影

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/14

14.回収

「この森は本当変わっているなァ」

 キホーテは、辺りを見回しながらへらへらと笑う。

「住宅がまばらに建っている土地にィ、不意に現れる針葉樹林。普通こんなことはないぜェ」

「そうなんだね」

 ディアボリックは、まったく興味がない様子で、遠くの地面に目を凝らしている。

「そんなことより、さっさと任務を終わらせよう」

「相棒、もっと状況を楽しまねえと、人生損するぞォ。まだまだ若いんだから、今のうちに遊んどけよォ」

 ディアボリックは、隣を歩いていたキホーテに、針を続けざまに三本飛ばす。

「うおっとォ」

 キホーテは、慌ててその攻撃を避ける。

「僕は相棒じゃない」

「そんなに怒るなよォ」

 地面に斜め四十五度に平行に突き刺さった針を、キホーテは抜き、ディアボリックに針の先を向けて差し出す。ディアボリックの顔が歪む。

「何? 僕に死ねって言ってるの」

「違うって。武器は大事にしろってことだよォ」

 ディアボリックは、キホーテに嫌悪を露わにする。

「キホーテが馬鹿なこと言うから僕は無駄な武器使用をしないといけなくなったんだよ。一回使ってしまった針はもう使えない。この針はその辺りで見つかるような量産品じゃない。先端に返しがついた、戦闘専用の針なんだ」

「じゃあ、使わなかったらいいだろォ。衝動を抑制する方法も学ばないとなァ」

「キホーテに対しては抑制できないみたいなんだ。キホーテみたいに狂わないといけなくなりそうだ」

「ヒヒヒ、お前にできるかなァ。俺は感覚が麻痺してるんだぜェ」

「頭の感覚の方でしょ」

 そろそろキホーテと話をするのにも疲れてきたディアボリックの目が、地面に横たわる遺体を見つける。探していた遺体だ。

 二人は、組織から連絡を受けて、死亡した構成員の居場所を確認するという任務に向かっているところだった。普段は特定が容易なのだが、今回は大まかな居場所が分かっても、正確な場所が探知できないということだった。

 ディアボリックが近寄ってみると、倒れているのは、サングラスを掛けた人間だった。片方の手首がなくなっているのが不自然だ。

 ディアボリックは、目を細める。

「キホーテ、こいつ知ってる?」

「ああ、見たことはあるって感じだなァ。名前までは知らねェ」

「僕もそんな程度だよ」

「組織所属IDは持っているだろうが」

 キホーテは笑う。

「どうせ死んじまってるんだから、今更名前を覚える必要もねえなァ」

「珍しく同感」

 キホーテが、腰のポケットから携帯電話を取り出す。

「待って」

 ディアボリックが、キホーテの行動を制した。

「僕が電話掛けるよ」

「気遣ってくれなくても大丈夫だぜェ」

「気遣ってるわけないでしょ」

 ディアボリックは笑う。

「強くなるためには、強い人に認めてもらう必要があるだけだよ」

 キホーテが肩を竦めるのを尻目に、ディアボリックは個人の携帯電話に連絡する。コール音の一回目が鳴り終わる前に、相手は出た。

「私だ。見つかったか」

 硬質な声が電話口から聞こえてくる。

「クローディアスさん、ディアボリックです。見つかりました」

「IDは確認したか」

 ディアボリックは、言葉を詰まらせる。

「確認していないのだな。今すぐ確認しろ。事実を捏造しないこと。必ず裏付けを取ってから報告しろ」

「すみません」

 ディアボリックは、急いで倒れている同じ組織の人間のポケットを探る。ポケットには、雑多な小物がしまわれていた。

「あったか」

「それが……」

 あるはずのIDカードはどこにも見当たらなかった。

 ディアボリックは、携帯電話を握りしめる。

「誰かに持ち去られたようです」

「持ち去られた?」

「はい。手首も切られて、持ち去られていますから」

「なるほどな」

 電話口の向こうで、クローディアスが目を眇めているところが目に浮かぶようだ。

「その構成員を殺した奴はIDカードの存在を知っていた。その構成員は何らかの事件の渦中にいたようだな」

 構成員に狙われた時点で、組織外の現執者が一般人のように生きることはもう、許されない。それなのに、構成員を殺害し、さらには組織に関わる情報を持ち去る。

 一体何者が、何のために、こんなことを。

「ともかく、遺体は処理班に連絡して片付けてもらうから、お前たちは危険物のみ持ち帰れ。手に入れた武器は自由に使用してくれて構わない。ただし、機密情報を得た場合は、私に報告するように」

 クローディアスは、声を低める。

「隠し立てしても、将来的にお前たちの寿命が縮むだけで何もいいことはない」

「理解しています」

 ディアボリックは、通話を終了した。

「クローディアスは、何だってェ」

「武器回収しろってさ」

 ディアボリックは、素っ気なく言う。

「はいはい。で、その武器はいつも通り好きに持ち帰っていいんだろォ。太っ腹だよなァ」

「見たところ、この人は銃で戦うタイプだったみたいだし、僕が再利用できそうなものはないだろうな。キホーテに譲るよ」

「いいのかァ? ありがたいぜェ。俺だって銃の戦闘はしないけどよォ」

 キホーテが無邪気に喜ぶのを、ディアボリックは、冷めた目で見る。

 僕がほしいのは、物体じゃなくて情報だ。価値ある情報は、戦闘の実力を上回る。

 ディアボリックは、遺体の細部を調べ始めた。

「そもそも、こいつは何でこんな森の中で殺されてるんだァ? 組織の人間なら、現執者だろォ? それなのに、こめかみを打ち抜かれて死ぬなんてなァ」

 ディアボリックは、返事をしなかったが、キホーテは話し続ける。

「銃撃戦では、相手と真正面から対峙するだろォ。こめかみを撃ち抜かれるなんてあり得ないんだよなァ。相手に横顔を向けていたってことになるんだからなァ。組織の現執者のくせに、そんな基本もなっていなかったのかねェ」

「確かに。自殺の線はどうかな」

「自殺にしては、おかしいなァ。こいつが持っているのは、銃身が長いタイプの銃だから、自殺しにきたのなら、もっと扱いやすい銃をもっていくだろうなァ」

「咄嗟に自殺する必要があったとか」

「咄嗟に自殺かァ。こんな開けた場所じゃあ、危険が迫っていると認識した時点で、殺されてるだろォ。自殺してる暇はないと思うぜェ」

「じゃあ、やっぱり殺されたんだね。しかも、正面からではなく、横から。加害側は、気配を消すのが極端に得意みたいだね」

「そうだなァ。それか、複数人いて、そのどれかに気を取られている隙に、やられたというのもあり得るなァ」

「地面に残っている足跡は、一人分だけど」

 ディアボリックは、周囲の地面を見回して言う。

「この足跡は関係ないだろうなァ。一般人が歩いたことがバレバレだァ。こんな足跡を残す人間が、組織の構成員に気づかれずに撃つなんてできるわけがないだろォ」

「なるほど」

 ディアボリックは、顔を上げてキホーテを見る。

「たまには賢そうなこと言うね」

「お前が気づいてないだけで、俺はいつでも示唆に富んだ発言をしているぜェ」

「これは……」

 ディアボリックが、遺体の財布から、小さな紙切れを抜き取る。汚い字で文字が書き込まれている。文字は掠れかけていて、ほとんど読めないが、ディアボリックは、読み取れる部分だけ声に出して読む。

「ラッセル、組織外現執者、認識階級零」

「認識階級零だったら、最上級で危険だなァ。そいつを殺す任務を引き受けていたのかねェ」

「ラッセルか……」

 ディアボリックは、キホーテに顔を向ける。

「知ってる?」

「いや、しらねェなァ」

「僕も知らない。組織外には、他にもたくさんの現執者がいるみたいだね」

「いるさァ。そして、俺たちはそいつらを殺すか組織に引き入れるのが役割だなァ。まァ、たまに失敗して、こうやって死ぬんだがなァ」

 大事なのは、一つだけだ。

 ディアボリックは、情報量が少ない割に重要な情報を含んでいる紙切れを握りしめる。

 この情報を、クローディアスさんに渡すこと。そして、僕も幹部に近い役割を得る。強くなるためには、環境が必要だ。いつまでも、こんな下級構成員ではいられない。

「これ以上の収穫はなさそうだね」

 ディアボリックは、立ち上がる。

「危険物はもうキホーテのものにできた?」

「ばっちりだぜェ。ほんとにお前は何もいらないのかァ」

 ディアボリックは、口だけで笑う。

「僕はこの紙片だけで十分だよ」

 ディアボリックは、森の入り口に向かって歩き出す。

 ここに書かれた情報を幹部補佐であるクローディアスに伝えれば、それだけ早く階級を上げてもらえるだろう。

「そして、それだけ先輩にも近づける」

 ディアボリックは暗い笑みを浮かべる。

「待っててくださいよ、アールグレイ先輩」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。