第五十六話 エルカンの悩み②
「どうって……それは、パパと冒険を続けるよ!」
「ううん、その後の話だ。冒険して、世界中を巡って、僕自身が満足してしまう日が来たら――あるいは、僕が冒険出来なくなってしまう日が来たら――その時の話さ」
【精霊】は全部で八体。
その全てと会うのに、どれほど時間がかかるか予想も出来ない。
僕はもう三十六で、あと四年もすれば四十になる。
今はまだまだ元気だけど、いつまで体力的に持つか……
それに怪我で冒険を続けられなくなる可能性だってある。
むしろこっちの方が濃厚だ。
怪我を理由に引退する冒険者など、星の数ほどいるのだから。
――セレーナとコロナは、今は僕に付いてきてくれる。
僕と共に歩んでくれる。
でも、それはきっと永遠じゃない。
その先にあるモノが――"将来"なのだ。
「パパは冒険出来なくなったりしないよ! アタシ達が守るもん!」
「ありがとう、僕も信じてるよ。だから"仮"の話さ。あくまで"仮"の――けれど必ず訪れる"未来"のね。
コロナは――大人になったら、どんな自分になりたい?」
僕が尋ねると、彼女は今まで見せたことのない悩ましい表情を作った。
「……アタシは、パパの傍に居られればそれで良いもん」
「アハハ、わからなければ素直に"わからない"で大丈夫だよ。なにも責めてるワケじゃないんだから」
「…………パパの傍に居たい。今まで、それ以外考えたことないよ。未来なんて、わかんないもん!」
「その通りですわ!!!」
――――突然、どこからともなく威勢の良い声が響いた。
直後、目の前の断崖絶壁をよじ登ってくる、一人の少女の姿。
「フフフ……相変わらずお父様はご謙遜が過ぎますわね。まあ、そこが可愛らしくて素敵なのですけれど」
ぜぇぜぇと息を切らし、姿を現したのはセレーナだった。
彼女は上りきると、腰に手を当てて城壁の手すりの上に立つ。
「せ、セレーナ……!? キミ、なにしてるの!?」
「なにやら仲睦まじそうなお父様とコロナの姿が見えたので、ちょっとロッククライミングしながら追ってきただけですわ。姿を隠すために、しばらく城壁にぶら下がっているのは辛かったですが」
確かにここは見晴らしもいいから、隠れるならそうするしかないだろう。
いやぁ、凄いなあー。
でもその行動は、親として不安になるなぁー。色んな意味で。
「お話は聞かせて頂きました! コロナや私の将来を不安視されているようですが……愛する人を支え続けたいと思う気持ちに、間違いなどありましょうか?」
「い、いや、そういう問題じゃなくて――」
「それほど私達を独り立ちさせたいのなら――いっそ、本当にお父様を"お一人では生きられない身体"にしてしまいましょうか? 例えば四肢を無くすとか、視力を無くすとか……」
「怖いから! その発想は本当に怖いから止めて! 頼むから親に危害を加えないで!?」
「冗談ですわ」とセレーナは言うと、ふわっと僕達の前に降りる。
「……私達だって、別に将来のことが不安でないワケではありません。ですが未来なんて――究極的には明日がどうなるかだって、私達にはわからないのです。ならば、少なくとも目の前にいる人を大事にしたい……そう思っているだけですわ。そうでしょう、コロナ」
「え? う、うん! そうそう、その通り!」
コロナはぶんぶんと頭を上下に動かし、賛同する。
セレーナは彼女の傍に寄ると、
「コロナ……貴女がどういった引け目を私に感じていたかは知りませんが、お父様を想う気持ちだけは一緒のはず。なにか言いたいことがあるなら、ハッキリと仰いなさいな。私達は双子でしょう?
そもそも、私に秘密でお父様とデートなど……なんて……なんて羨ましい……!」
ギリギリとセレーナは悔しそうに歯軋りをする。
……たぶんまだ気付いてないんだろうけど、そもそも事の発端自体はキミなんだけどね……
今言ったら余計こじれそうだから、言えないけど……
しかしこうして相手を羨む姿は、まさに双子だなぁって思う。
本当にそっくりだ。
けれど、そんな地団駄を踏むセレーナに対して、
「え……? アタシが、羨ましい……?」
コロナはキョトンとする。
「当たり前ですわ! ズルいです! 今度は私も誘いなさいな!」
「…………そっか、ならコレで一緒だね」
呟くような小声で、コロナはそう言った。
どこか嬉しそうに、少しだけ口元を笑わせながら。
「え? 今なんて――」
「な~んでもない♪ そうだね、それじゃ今度は三人一緒にデートしよっかぁ!」
コロナは僕とセレーナと腕を組み、僕達を引っ張るように歩き出す。
「ちょ、コロナ!? まだ話は――!」
「い~のい~の! アタシは満足したから、もう引け目なんて無いのだ♪」
「は、はぁ……?」
困惑した様子のセレーナ。
本当に、コロナは猫のような子だ。
こんな時ばかりは、双子の姉妹であるセレーナも振り回されてしまう。
「あ、アハハ……とにかく、満足したってことじゃないかな。
――よし! 久しぶりにこうして三人揃ったことだし、今夜は一緒にご飯でも食べようか。僕が腕を振るうよ」
「アタシも手伝う~! 二人にご馳走してあげるね~♪」
「わ、私だって手伝いますわ! あ~もう、今夜はちゃんと説明してもらいますからね!? 聞いてますのコロナ~!?」
セレーナの声が、真っ赤に染まった城壁の上空へと響き渡る。
――――こうして、僕達は三人仲良く帰路へとついたのだった。
娘を持つ父親は大変だ。
特に、年頃の娘は難しい。
そんな娘が二人もいるなら、それはもう悩みも二倍増しだ。
ただ、それでもひとつだけ言えるのは――家族は、仲良しが一番だなってことだろう。
次回から新章『世界三大魔術学校編』に入ります。
これまで存在しか語られていなかった他の魔術学校が、ハルバロッジ親子や精霊に大きく関わってきます。
雷の精霊の力を得たエルカンと、双子の賢者であるセレーナとコロナ。
彼ら親子が表舞台に立つことで、魔術の世界は激しく蠢き始め……?
次回の投稿は9/11(水)17:00の予定です。




