第五十四話 コロナの悩み②
「はいパパ、あ~ん♪」
「あ、あ~ん……」
大きなパフェをスプーンですくってパパの口元に運ぶと、パパも嬉しそうに口を開けてくれる。
そして、パクリ。
んも~ぅ、アタシとパパってばホントの恋人みたい♪
「……ねえコロナ、キミとのデートは楽しいんだけど……せめてもうちょっと、人目に付かない場所を選ばないかい……? 周りの視線が……辛い……」
ぐったりと首を垂れるパパ。
そういえば、さっきから周囲に人だかりが出来てるなぁ~
すっごくジロジロ見てくるし、正直目障りなんだけどぉ……
でも、アタシとパパの仲睦まじい姿をたっくさん自慢出来るから、これはこれで良いかも!
「いいじゃんいいじゃん! 皆に自慢しようよ、アタシ達がラブラブな所をさ♪
……それとも、パパは楽しくない?」
「う……いやはや、そういう言い方は卑怯だなぁ」
「フフン、アタシはこう見えても悪女なのですぅ~♪ はい、あ~ん♪」
もう一度パフェをすくってパパの口元に運ぶと、パパは引き攣った笑顔で食べてくれる。
緊張しちゃってかわいいなぁ~♪
パパはかわいいし、デート姿を周りに自慢出来るし、アタシはご満悦なのです!
……うん?
"そもそも、どうしてアタシとパパがデートすることになったのか"って?
それはね――――
◇ ◇ ◇
「セレーナばっかりパパとキスして、ズルい」
自室のベッドの上で枕を抱えて、アタシはパパに不満をぶつけた。
パパはため息を吐いて、
「やっぱり、ソレだよねぇ……セレーナから話を聞いた時には、予想がついてたけどさ……」
「ズルいズルい! アタシだってパパとチューしたい~!」
悔しくて羨ましくて、ベッドの上でドッタンバッタンと暴れ回る。
――夜になって、パパはアタシ達の部屋に尋ねてきてくれた。
まだ【雷の精霊】との戦いから帰って日が浅いから、パパは病室暮らし。
一応校長先生やクレイチェット先生としては、刻印を授かったパパの経過が見たいっぽい。
……セレーナは、まだ部屋に戻ってきてない。
アタシも大概だけど、あの子も【精霊】絡みでしょっちゅう先生達に呼び出されてる。
だから、今日はマトモに会話も出来てない。
……とはいえ、会ってもちょっとだけ気まずくなったりもするんだけどさ。
「……いやまあ、確かに結果的にセレーナとはそういうことしちゃったし、弁論はし難いんだけどさ……
でもコロナ、キミもわかってるだろ? あの時、彼女は考え得る限りで"最善の最善"を尽くそうとした。意識を保つだけでも苦痛だったはずなのに、それでも僕と《魔脈》を繋げてくれたんだ。
キミなら……あの時のセレーナの気持ちを、理解してあげられるんじゃないかい?」
パパにそう言われて、アタシはピタッと動きを止める。
そしてパパに背中を向けたまま、
「…………そんなの、わかってるよ。もしあの時、アタシとセレーナが逆の立場なら――アタシだって同じことをしたはずだもん」
理解なんて……出来るに決まってるよ。
あの子の気持ちを一番わかってるのは、アタシなんだから。
パパを好きな気持ちも、パパが大事な気持ちも、パパの"夢"を叶えたい気持ちも――全部、一緒。
「……わかってるもん。わかってる……けどぉ……」
「僕は、キミ達が気まずい関係でいてほしくない。小さい時から、なにをするにも一緒だったじゃないか。だから――」
「…………デート」
「へ?」
くるり、とアタシはパパの方へと向き直る。
「アタシもセレーナに負けないパパとの思い出がほしい。セレーナと対等になりたい。セレーナに羨ましがられたい」
「い、いや、言いたいことはわかるけど、父親と娘がデートっていうのは――」
「セレーナはパパとチューしたよね?」
「うぐっ!?」
「アタシは・パパとの・デートを・所望します」
――沈黙。
パパは額に手を当てて、少しの間考えたみたいだった。
けど、すぐに「ふぅ」と息漏らす。
「……それで、キミはわだかまりを解消出来るんだね」
「モチのロン!」
「……わかった。良いよ、一日"デート"しよう。当然、セレーナには内緒で、だ」
――待ってましたぁ!
とばかりに、アタシはベッドから飛び出す。
「やったぁ! パパ大好きぃ♪」
「た、ただし一日だけだからね! それに、何度も言うけど――!」
「アタシ達とそういう関係にはならない、でしょ? わかってるよ!」
「ホントにわかってるのかなぁ……」とパパは不安そうな顔をするけど、良くわかってるもん。
アタシとセレーナは、パパの自慢の双子の娘。
父と子の関係が歯痒く感じることもあるけど――でも、それが心地良いんだよね。
◇ ◇ ◇
そうして一夜明けて、今日。
すぐにでもパパとデートに連れ出したかったアタシは、こうして漫喫している次第なのである♪
ちなみに、今日を予定していた【雷の精霊】の報告絡みは全部キャンセル済み。
「まあ良いんじゃないかのう! ハハハ!」っ校長先生の許可も朝一で取ってあるし!
ってなワケで遠慮なく、
「パパ! あそこの料理も美味しいんだよ! 一緒に入ろ!」
「パパ! あの本屋も色々な魔導書が置いてあるんだよ!」
「パパ! 『ハーフェン魔術学校』には縁結びの樹があるって知ってる!?」
――という感じで、『ハーフェン魔術学校』の敷地内をあちこち巡った。
楽しいなぁ――――
やっぱり、パパと一緒にいる時間が一番楽しい。
……けど、ホントはセレーナも一緒だったら、もっと楽しいのかも。
そんな感じで一日中デートを楽しんで――すっかり夕方。
「あ~! 楽しかった!」
デートを漫喫して、アタシは長椅子に腰掛ける。
一日の締め括りにパパと来たのは、『ハーフェン魔術学校』を囲う城壁上の道。
ここが、時計台の次に学校内で高い場所。
ぐるりと学校を回っているからお話がてらお散歩するのもいいし、時間帯によっても日の出・日の入も見られる絶景のスポット。
丁度今は日の入で、夕日が地平線の向こうに沈んでいく。
最後はこういう場所で、ゆっくり二人きりの時間を過ごすとか――うんうん、理想的なデートだなぁ♪
「ハハ……楽しんでもらえたなら良かったよ。……僕は視線を集めすぎてもう胃が千切れそうだったけど……」
アタシとは対照的に、やつれた表情のパパ。
パパったら、相変わらず人目を気にするんだから。
「――ありがとね、パパ。ホントに最高の一日だったよ。これでセレーナと対等になれた気がするし、また元通りになれそうだよ」
「それは良かった。キミ達は仲良しが一番似合うからね。僕も一安心だ」
パパも長椅子に座ると、黄昏れるみたいに夕日を眺める。
まるで、パパが『ハーフェン魔術学校』で一週間ぶりに目覚めた、あの日の夕方みたいに。
「……パパってさ、"黄昏"って感じが似合うよね。やっぱり大人の男だから?」
「え、そうかな? 僕は……どちらかというと、夕方は好きじゃない方なんだけどさ」
「? どうしてぇ?」
「ん~……なんだろう、沈んでいく様子がちょっと……。人間歳を取るとさ、自分に重ねちゃうのかもしれない。自分の若い時はとっくに過ぎ去って、あとは老けていくだけなんだなぁ、って」
「なにそれ、パパはそんなオジサンじゃないもん」
プイっと顔を背けるアタシ。
それを見たパパは「アハハ」って笑って、
「……そうだなぁ。ねえコロナ、デートの最後に……聞いてくれるかい?」
次回のタイトルは『第五十五話 エルカンの悩み』です。
次回の投稿は9/4(水)17:00の予定です。




