第三話「戦力の交換」
今回は暴力的、非倫理的な描写が増えたので、R15タグをつけさせていただきました。
俺と玲音が牧野と野伊を探している途中、その二人が奇襲を仕掛けてきた。
―――――――――とある川の堤防にて
向こうから飛んできた魔術弾を見事かわし、堤防と橋の影に身を隠す俺と玲音。
玲音が張ったバリアで守られているが、バリアの方向から牧野と野伊がゆっくり迫ってくる。
「ナイフはこれでいいね?」
玲音は俺にナイフを四本渡す。
俺の服のポケットは二つ。
右手に投擲バリア用、左手にナイフ生成用、右のポケットに対物理特化用、左のポケットにクラッキング用。
銃は今回は無しだ。狭い場所で銃は打てないという考えだろう。俺も同じだ。
リーダーは玲音の糸の魔術に任せる。リーダー以外に割く割合が減るが、そこは俺がカバーする。
「ああ、冷静さを欠けていなくて助かった、玲音。」
「あのねぇ・・・ 私はこれから一流の魔術師になるのよ。」
「恋する魔術師か・・・ 王道だな。すごく可愛い。」
「何を言ってるの!冷静を保てなくなるでしょ!」
「これくらい慣れてもらわないと困る。さっきの動揺は危険だ。」
「もう・・・さっさと逃げるわよ。」
「人のイチャつきというのが、こんなに見るに堪えねぇものだとはな!」
そういいながら牧野が地を蹴って襲ってくる。
「玲音、逃げろ!」
「ふふふ・・・」
後衛にいる野伊の表情が変わる。戦法はこれしかないだろう。
俺は両手のナイフを川の真上をめがけ投擲する。
そして、両ポケットからナイフを取り出し左手で牧野に斬りかかる。
「おらぁ!」
「その程度、余裕だ。」
牧野は両手でそれを受け止める。彼は無傷だ。
次に俺が右手で斬りかかる。うまく受け止めなければ致命傷になるはず。
「二刀流を甘く見るな!」
「そんな武器じゃ魔術には勝てん!」
牧野は魔術で後方に大きく吹き飛び、態勢を整えながら詠唱を開始。
俺はそのまま一回転し、二本のナイフで魔術に対抗する。
「武器で魔術を防げるものか!」
牧野は魔術弾を三発打ち込む。
牧野の魔術の上、この短時間の詠唱。見た目だけで中身は大したことないだろう。
魔術弾も発射が終わればエネルギー集合体という物理的なものに変わるので、対物理用ナイフで対抗することができる。
個体と違ってすり抜けるので、ボールを斬るのとは違う技術が必要になり相当難しいのだが、俺は既に会得している。
俺は右手のナイフで二つの魔術弾を斬る。残りを左手のナイフで斬るが、ナイフをかすめるだけ。
俺はもう一回転しながら残りの魔術弾を右手で斬る。
その時、牧野とは逆方向から玲音に向かって無数の魔術弾が降り注ぐ。
かなり遠くに発動地点があるように見える。
魔術には、術者と発動地点の距離の限界がある。だがこれはあきらかにそれを超えている。
他に誰かいるか、あるいは事前に仕掛けておいた魔術だろう。
仕掛けておいた魔術を起動させるのは遠距離からでも可能だ。
ちなみに、遠くに魔術を放てないのと同じで、近すぎても魔術を放てない。
術者を除いた有機物には魔術を阻害する力が常に働いている。特に人間はそれが強い。
その為、周囲のエネルギー利用し生成する魔術弾は、攻撃の対象から離れて打つ必要がある。もちろん味方からも離れなければいけない。
魔術弾の速度的にバリア魔法は間に合わない。
だが、既に俺の投げたナイフの連鎖爆撃が既に始まっている。
玲音は自分を川の方向へ吹き飛ばす。そして連鎖爆撃によるバリアへと飛び込む。
爆発はまだ続いているが、玲音は魔術の防護膜もあり恐らく無傷だろう。
玲音でも普通にあの攻撃を喰らえば致命傷だが、川の上で爆発しているため川の水が跳ね上がっているのだ。
川の水によって爆発の温度は冷却され、玲音は守られる。
俺は一回転し終わり、再び牧野に向き直る。
その時、野伊が詠唱を終えていた。
「挟み撃ちよ!」
野伊は七本ほどの細いビームを放つ。
俺たちにとって、このタイプの攻撃が一番厄介なのだ。
エネルギーの圧縮率が高いのでその分詠唱が長いが、避けにくい上威力が高い。
なので、俺の今のクラッカーの短剣はその魔法の複数の暗号化パターンに対するものを使用している、と俺は考えている。
全ては玲音に委ねている。
玲音はバリア魔法で防ぐが、この短詠唱でのバリアでは防ぎきれない可能性がある。
玲音がビームの範囲外に逃げる魔法を詠唱し終わるまでになんとかしなければいけない。
俺はクラッカーのナイフを回転をかけ投擲する。
この軌道なら四本は断ち切れる。
「そう簡単にいくと思うか?」
だが、牧野がそうさせない。ナイフに向けて魔術弾を三発発射。
さすがに一本のナイフで同時に三つ斬るのは無理だ。
だが運が良かった。連鎖爆撃がまだ終わっていないので、それを利用して1発だけ防げる。
川の水によって爆発の熱が冷却されているので、連鎖の速度が通常より遅いのだ。
俺はナイフの出現地点を魔術弾三つのうち一つの場所へ移動させる。
「二発なら一本のナイフで斬れる!」
俺は二発見事に斬り、川に飛び込む。
川の流れと水圧で機動力が大幅に落ちる。早く向こう岸へと乗らなければ。
俺が先ほど投げたクラッカーのナイフは見事に四本のビームを断ち切る。
ビームを耐えきった玲音は下水道入り口の方向に自らを吹き飛ばす。
牧野と野伊は詠唱中だ。俺は急いで川から出る。
「涼太、急いで!」
玲音の詠唱が終わり、大きなバリアが張られる。大きい分耐久力は低いだろう。
おまけに向こうは二人分の魔術攻撃だ。
川を抜け出した俺は、玲音の元へ飛び込む。
「玲音、頼む!」
俺は玲音に左手を伸ばす。
「逃がさないよ!」
牧野と野伊は詠唱を終え、牧野は魔術弾を数発、野伊は剣の雨を降らせる。
「涼太、行くわよ!」
玲音の左手が俺の左手をしっかり掴み、下水道の中へ勢いよく引きずり込む。
バリアが砕け野伊の剣の攻撃があたりそうになるが、それは俺の右腕のナイフで弾く。
弾かれにくいように細い剣にしたのだろうが、本気の俺にはその程度簡単に弾ける。
「汚いし、臭いが酷い。これじゃ集中力が落ちるわ・・・」
「なら、俺のことを考えろ。」
「え?いや、それも集中力が・・・」
「さっきの玲音は手をつないでも集中していたぞ。大丈夫だ、俺を信じろ。」
「そういえば、繋いでたね・・・ そうね、もう緊張なんてしてられない。」
「やだなー あんな汚いところで戦うの。」
「それは向こうも同じだろ。さっさと片付けるぞ。」
牧野と野伊は川を超え、攻めてくる。
玲音は、俺にナイフを渡す。
今度は両手に対物理特化、右ポケットに投擲爆撃、左ポケットにナイフ生成だ。
牧野が魔術弾を四発撃ってくる。野伊は詠唱中。
野伊は何の魔法を詠唱しているのか分からない。同じ芸当を二度はしないはずだが。
まあ、玲音が糸の魔術でリーダーを使っているから、玲音の行動から読むしかない。
玲音はバリアを張らない。野伊の魔術が相当恐ろしいものなのか・・・?
牧野の魔術弾四発は俺が二本のナイフで全て斬る。玲音は後退し徐々に距離を取る。
「あんたたち、相当前からここで戦うことを決めていたんだね。でも甘いよ!」
玲音が強気に言う。
その瞬間、玲音が銃弾を下水道の壁に何発も打ち込む。
玲音は銃を隠していたか。
玲音に銃の技術なんて無いはずだが、おそらく何かを誘発させるためだろう。
ドドドドーン!
ものすごい轟音とともに、銃弾によって数多の魔術トラップが誘発する。
「最初からそんなギミックに期待なんてしてないの。隙を与えるためよ!」
そう言いながら野伊が小さい魔術弾をものすごい数発射してくる。
小さいということはエネルギー圧縮率が高いので、一発の威力は高い。
おまけに数が多すぎてナイフでは全て捌ききれない。
玲音の詠唱は当然のように間に合った。バリアが野伊の魔術弾を防いでいく。
「このバリアはいずれ破れる。涼太、やることは一つ、分かるね?任せたよ!」
俺が今できることといえばもう、一つしかない。
牧野が下水道の中に踏み込んでくる。
牧野はクラッキングによって野伊の魔術弾を打ち消しているが、逆にそのおかげで魔術弾の数が減る。
「おらぁ!」
俺は両手の対物理特化用ナイフを同時に投擲する。
そして、すかさず両ポケットのナイフを取り出しながら牧野に向かって突進する。
「こんなもの効かんぞ!」
牧野はそう言いながら、両手それぞれの拳でそれぞれのナイフを破壊する。もちろん無傷だ。
牧野にこんな運動神経があったとは。能ある鷹は爪を隠すってやつか。
だが、あのナイフは相手に隙を与えるための物。
そして、俺が進む道を作るための物でもある。投擲したナイフは数個の魔術弾を破壊した。
ナイフの破壊に両腕を使った牧野の後ろをめがけて2本のナイフを投擲する。
牧野も気付いただろう。
野伊の魔術弾でナイフが起爆しないようにクラッキング範囲を変えるはずだ。
そのおかげで俺は魔術弾をかわすという行動をしなくて済む。
牧野は俺に蹴りを入れる。
これさえ耐えれば俺達の勝ちだ。
後ろに引けば簡単に避けられるが、そうすると魔術弾が当たる可能性がある。
だから俺は両腕で受けた。
ものすごい衝撃だが、仰け反ったらまずいので足で必死にこらえる。
その時、下水道入り口でナイフ同士が衝突し、ナイフは起爆する。
下水道の入り口が崩壊し、瓦礫とバリアが魔術弾を防ぎ、爆発音だけが鳴り響く。
これで牧野と野伊は隔離され、俺たち二人と牧野の戦いになる。
野伊がここで詠唱中の魔術を発動したところで、牧野の邪魔になるだけだろう。
「くそっ、お前だけでも!」
牧野が詠唱をしながら右手と足で攻めてくる。
ハイブリットの弱点はこれだ。詠唱中は魔導書の持ち手が使えない上に視界が悪くなる。
俺は怯むことなく攻撃を受ける。呼吸を止めながら。そして、後ろへ逃げる。
牧野の息が荒くなっている。連鎖爆撃のせいで酸素が薄くなっているのだろう。
これから一酸化炭素の濃度がさらに上昇するだろう。牧野もそれに気づいている。必死にこちらへ向かって来ようとする。
だが、牧野はそのまま倒れ、気絶してしまった。
このまま放っておけばこいつは死ぬのだが、殺すのが俺たちの目的ではない。
玲音が魔法の詠唱を完了する。俺は呼吸を再開する。やはり空気清浄の魔法だ。
玲音は牧野を生かすためだけに詠唱の長い空気洗浄魔法を詠唱したのだ。
俺は牧野の体を下水道の奥へ運ぶ。
野伊もそれを察知したのだろう。
連鎖爆撃も終わっているので、簡単に塞がれた入り口を突破してくる。
「咲人!やられたの!?・・・いや、生きてる。人質にでもしたつもり!?」
「俺たちは最初からこういう作戦のつもりだ。まさかこんな場所でやるとは思っていなかったがな。」
予想外の戦闘だったが、この戦闘の間俺と玲音の息は完璧に合っていた。
息が合うのは昔からだが、昔とは比べ物にならない程に。
恋愛関係というのは今までの関係を超える物なのか・・・?
「要求は何?咲人のためならなんでもするよ。」
「お前らとさくらの関係について聞きたい。」
「さくらに会ったのね。まあいいわ、答えてあげる。」
「さくらは僕の娘。咲人も血縁関係よ。」
――――俺たちは、それが何を意味しているかまだ深く理解していなかった。
「さくらは父を守るためにあの魔術を使ったわけか。」
「涼太、これ以上の追求はやめよう?咲人もさくらと血縁関係。このままだと死んじゃう!」
「玲音、野伊は嘘を言っていないんだな?」
「ええ、顔を見ればわかるわ。あれは本当。」
玲音は本当、そういうところの勘がいい。
なにを考えているのか分からないとよく言われる俺の嘘も必ず見破るし、他人のだって見破れる。
そういう所が、理屈で生きている人間にとってどこか憧れてしまうのだ。
「牧野を返す。さっさと病院に連れてかないと後遺症が残るぞ。」
――――――――――帰り道
「まさかさくらが野伊の娘だったとはな。」
「でも内池さんにべったりだよね。内池さんは一体何者なんだろう・・・」
「色々事情があるんだろうな。にしても、これじゃ牧野と野伊をどうすればいいか分からない。」
「さすがに襲ってこないと思うよ。向こうも勝てないことが分かっただろうし。」
「あの二人、組織の他の人と仲悪いらしいし、仲間を連れて襲ってくるって線も薄いだろうな。」
「彼らも色々苦労してるのね。」
「それよりさ、この汚れ、帰ったら風呂だな。」
「帰るって、魔術の森に?この格好で?それはないでしょ。」
「いや、基地でいいんじゃないか?ほとんど使ってないから掃除しないといけないが。」
「そういえばそんなのあったね。掃除なら任せて。魔術を駆使してすぐに終わらせてみせる。」
「あそこに風呂も作ったよな。二人用に作ったけど、結局二人で入ったことは一度もないところ。」
「あったねー。って、涼太。まさか二人で入るとか言い出さないでしょうね。」
「え?二人で入るに決まってるだろ。それくらい恥ずかしがってちゃ恋愛関係のペアやっていけないぞ?」
「いやいや、めちゃくちゃ恥ずかしいよ!あんたはいいかもしれないけど!そして何?恋愛関係のペア?本気でこの路線でいくの!?」
「むしろ恥ずかしがってくれた方が可愛くて良い。今更前の関係に戻るわけにもいかないだろ。それに・・・」
「もう!いちいち可愛いとか言葉に挟んで!それにって、なによ。」
「今日の俺たち、すごい息合ってただろ。これが恋愛関係の強さなのかなって。」
「・・・そうね。私、涼太のいった通りずっと涼太のこと考えて戦ってたけど、心が通じ合ってるみたいで・・・」
「それが恋愛関係のライター×キャスターのペアの強さだ。恋愛のその辺、言葉ではっきりさせておこうか。」
「言葉でって、うん・・・。」
俺が言葉を必死に考えている、まさにその時。
―――――まさかのSOSが来た。
「ひろみがあやつられた たすけて 私とひろみの場所はここ。」
さくらからのSOSだ。内池が操られただと?
位置情報が添付されている。かなり遠くだ。
さくらもここにいるってことは、こんな遠くから魔術メッセージを飛ばしたってことか。
魔術の分野全てにおいて人外なんだな、こいつ。
「いきましょ!」
「ああ、さっきの件は保留だ!最速で飛ばしてくれ!」
「いくよ!こけるんじゃないよ!」
俺たちは全速力でさくらの元へと向かった。
――――――――――廃墟 2階
「さくらちゃぁん、これ以上こいつに戦わせたら、こいつ死んじゃうぜぇ?」
「ひろみをかえして。」
「さくらが俺の実験台になってくれるならこいつは解放する。機械今一つ持ってるんだよなぁ。つけてみない?」
「ひろみのためなら、私・・・」
「さくら、だめだ!」
「お前らか。今の状況、分かるか?」
「内池さんに起動装置を付けたんでしょ!瑠音が倒れたから!」
「ああ、こいつなかなか優秀でな。結構無理できるんだわ。まあ、これ以上無理すると死んじまうけどなぁ。」
内池はこれ以上持たない。ということは、逆に考えれば内池の命を考えなければ折田に勝ち目は一切ない。
折田の噂、いわゆる折田の本性は有名だ。俺も知っている。
自分の命が最優先で、危険な任務には必ず部下を採用する。
そして、自分の任務でも危険を感じたら部下が戦っていようと自分だけすぐに逃げる。
相当なチキン野郎だ。
ならば戦略は一つ。
俺はさくらに魔術メッセージを送った。
さくらもこの男の性格を知っているよな?
相当な臆病者だ。
だから、浩美を捨ててこいつの命を脅せば、助かるかもしれない。
そのような内容だ。
さくらが乗ってくれるかは確定してないが、さくらの勘も相当良いはずなので、分かってくれると信じた。
とてつもなくどうしようもない状況なのだ。さくらの理性が働いてくれることを祈って・・・
「コソコソと戦略会議か?これ以上続けるんだったらこいつ殺しちゃうぞ?」
「ひろみがいなくなったら私死ぬよ」
「だってよ。それに、お前の命はどうなんだ?どちらか一つだけでいい。瑠音と浩美。どちらか譲ってくれたら逃がしてやる。」
「くっ、駆け引きか。瑠音を捨てるのはもったいないが・・・ こちらの起動装置の技術も上がっていてねぇ。浩美に成功するくらいだ。代わりはいくらでもいる。」
今、瑠音の姿を初めて見た。
金髪のツインテールの中学生くらいの少女で、身長はまだ低い。
こんな小さな子が操られていたのか。
「瑠音を引き渡すんだな。分かった。」
「ひろみは・・・。」
「さくら、俺たちを信じて。浩美は今度絶対取り返す。」
「どうやって・・・?私があっちにいけばひろみは助かる・・・」
「そうしたら浩美が今のさくらの立場になるだろ?大丈夫。俺たちは知恵と絆で数々の試練を乗り越えてきたんだ。」
「わかった。絶対とりかえしてね。」
「折田、浩美を持っていけ。」
「うう・・・」
さくらが泣いてしまった。でも必死に涙を堪えようとしているのが分かる。
不安は相当強いだろう。それを耐えるなんてさくらはとても強い子だ。
「これが愚策だと後から知ることになるだろうなぁ!では、退散させていただくぞ。」
――――――――――玲音の基地
「さくら、瑠音の起動装置を外せるか?」
「たぶん、むり。」
「でもさくらちゃん、魔術すごく得意だよね?」
「私は感覚で魔術を発動してるから、こういう繊細なものには触れられない」
装置を外しにくい理由は主に二つある。
装置、装置と言っているが、まず装置自体に科学的な要素がほとんどない。
脳に微小のチップを1つだけ埋め込まれているらしく、そのチップに体中の張り巡らされた魔術が干渉している。
機動装置を外すというのは、その魔術をクラッキングするということ。
チップだけでは何の影響も無いので、後で医者にでも取ってもらえばいい。
ようは、物理的に外せないのである。
折田は内池に魔術でチップを埋め込んだらしい。
それは失敗したら即死じゃないかと思ったが、あの超エリート折田だ。失敗はまずないだろう。
埋め込むことはできても、有機物の魔術耐性のせいで魔術によって取り出すのは無理だ。
二つ目の理由だが、これが非常に厄介なのだ。脳の神経の繊細さである。
チップに魔術で干渉し間接的に神経を刺激するという仕組みなので、下手に魔術を解くと後遺症が残ったり、最悪死に至る。
そんなことは絶対にさせないので、ものすごく繊細で複雑なクラッカーを作らなければいけない。
脳や神経の仕組みも理解する必要があるが、そもそも魔術自体が脳や神経と密接に関わっているので、特にライターはその辺について深く勉強する。
俺もかなり詳しいし、この基地にはそういう書籍がたくさんある。
「この部屋の掃除、終わったよ!」
「早いな。三分くらいか?」
「で、どうするの?」
「俺がクラッキング魔術を作る。発動は玲音に任せた。」
「分かった。結構時間がかかりそうね。私はここにいたほうがいい?」
「ああ、もちろんだ。ずっといてくれ。」
「もう、何時間でもいてやるんだから!」
魔術の作成は案外早く終わった。
―――――一時間半後
「ふぅ・・・ 完成!ちゃんと確認したからミスは一切はずだ。」
「どれどれ・・・? ・・・相変わらず独特な書き方するのね」
「玲音はその方が慣れてるだろ?」
「うん。そのおかげで涼太の魔術しか発動できないくらいだけどね!?」
「一生俺のパートナーなんだからいいだろ。」
「それが例の言葉のつもり?まさかそんなことはないよね」
「ないない。もっと玲音を完全に堕とすような言葉を用意してある。」
「堕とすってあんたね・・・ まあ、落ち着いたら聞かせてね。じゃあ、始めるよ。」
「どれくらいかかりそうだ?」
「15分くらい。」
「玲音も本当詠唱早くなったよな。 で、俺はいたほうがいいか?」
「ずっといて。」
「ああ、分かった。」
―――――玲音が詠唱を始めたとき。
「あぶない!」
さくらが叫びながらバリアを張る。
なんと、瑠音が起きてしまった。しかも俺たちを攻撃し続けてるぞ。
折田が操作しているのではなく自我を持って攻撃しているのか!?
この近くに折田はいないはず。もし操作しているのならさくらのサーチャーですぐに分かる。
「折田がいるの!?」
玲音も俺と同じ考えのようだ。
「この子はそうさされてない。自分がこうげきしたがってる。」
起動装置はそんな魔術ではなかったはずだが・・・ まさか脳がもうやられている!?
「さくら、攻撃を防ぎきれるか?」
「魔術だけなら、かんたん」
俺が戦闘態勢を取る。肉体戦なら負けない。
威嚇が主な理由だがな。思った通り瑠音は物理攻撃を仕掛けてこなかった。
――――――――――十五分後
玲音の詠唱が終わると、瑠音が光に包まれる。
光が無くなると、瑠音は倒れ込む。
「成功・・・かな?」
「ああ、多分成功だ。玲音、この子は女の子だから、声掛けは玲音に頼む。脳の機能が大丈夫かどうかも。」
「もしもし、聞こえますか?」
「だ・・・れ・・・?ここ・・・どこ?」
「これは何か分かる?」
「本?」
「正解!じゃあ、自分の名前は?」
「うーん・・・ えっと・・・ なんだっけ。」
―――――十分後
「瑠音は確実に記憶喪失だ。多分、折田の魔術の酷使で脳がやられたんだろう。玲音の詠唱中にしてきた攻撃も多分そのせいだ。」
「酷い・・・ 魔術はこんな残酷なものじゃないのに・・・」
「ねえ、ひろみは助かるの?」
「絶対に、浩美を助ける・・・!」
もうすぐで物語の半分が終わります。(七話完結予定)
もうストーリー構成は全て出来ているので大丈夫だと思いますが、エターならずにちゃんと完結させます。