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第六話「透明の彼女」

ついに最終話です。

涼太と玲音は、仲間の助けもあり、雲のボスを倒すことができた。

雲と森の戦争が突然起き、森が襲撃された時は、森の人達が必死に私を守ってくれた。



―――――牧野宅



「さくらにはお礼しないとな。あの防護膜がなかったら俺たち死んでたぞ。」

「そうね。って、あそこにいるの誰だろう。」

「良く観光客は来てるみたいよ?心霊スポットになったらしいわ。」



最近、世の中では「幽霊」がブームらしい。

廃墟が多いこの国では、主に屋敷などが心霊スポットとされている。

桜の木なんて、にわかな人には全く興味を持たれない。

だが、コアな幽霊ファンは、さくらや千夜の情報を既に知っているのだ。

本当、どこから情報を仕入れてくるのか全く分からない。


「ここの家の方ですか?あそこに幽霊が二人いるので、近くに行きたいのですが。」


黒い長髪の女性が、無表情でそう言ってくる。

明らかに怪しいが、真の幽霊ファンというのは怪しい人がほとんどだ。


「糠烏(ぬかえ)、どんな幽霊だ?」

「現世から遠い幽霊が一人、現世にものすごく近い幽霊が一人。現世に近いほうはものすごく眩しい。」


この子、幽霊が見えてるの!?

さくらだけじゃなく、千夜まで見えているらしい。

二人の幽霊がいる、と見に来る人はいるが、幽霊の質までわかる人は今までいなかった。

本当に幽霊が見える人は、稀にだが、この世に存在するらしい。


「本当に見えてる感じね。」

「浩美、牧野の代わりに侵入許可取れるか?」

「もちろんよ。」


「では、失礼します。」


女が手で空を触る。

あそこは、おそらくさくらがいる位置。

私には見えないが、あの動作はあきらかにさくらに触れている。


「魔術の詠唱を止めなさい!」


玲音が叫ぶ。

詠唱・・・?この子が?

幽霊が見えるだけじゃなく、この子は相当な腕のキャスターってこと?

涼太が飛び込んだが、既に遅かった。


「きゃっ!」


彼女は、自分の魔術で自爆した、ように見える。

でも、これはさくらの魔術。

女の魔術を跳ね返したのだ。


「さくらが守ったの!?」

「さくらはこの場所でのみ魔術を使えるのよ。」


あのピンクの宝石。

あれは、魔術を介してさくらと公信できる特殊な宝石。

交信しているときにも、さくらは魔術を何度か見せてくれた。


「お前ら、もう二度とここに来るな。」


「すいません・・・」


男性と女性は名残惜しそうに帰っていく。



「やっぱり、魔術は脳で発動してるんじゃないんだな。じゃあ魂か?」

「なら起動装置はなんなのさ。あれは脳を操作する魔術でしょ?」

「脳に魂があるんじゃ?」

「その理屈だと脳が無かったら魂が無いでしょ。」

「浩美、ちょっとでいいので情報を・・・」

「私も理屈はよく分からないわ。」

「これは研究するしか無さそうだな・・・」


私にも、実際に起こっていることは分かっても、理屈はさっぱり分からない。

それもそのうち、知るときが来るのだろうか。




―――――玲音の基地



「二人とも、魔術の森を追放されたの!?」

「ああ、まあ当然だよな。」

「所詮森も組織。お上さんに逆らったらクビにされるんだよ。殺されなかっただけマシってところ。」


魔術の森を追放された涼太と玲音は、基地を作って社会の裏でこそこそ研究を始めるらしい。

基地でこそこそ暮らすなんて、かつての私たちみたいだ。


「まずは、安定した収入源と書物の収集だな。」

「収入源ならそんなに心配いらないよ。瑠音がとんでもない金額稼いでて、使い切れないからあげるって言ってる。」

「あんまり人を巻き込んじゃだめよ?」


森を追放されたという多少危険な身とはいえ、この二人は仲間がたくさんいる。

しばらくは、心配なさそうだった。



―――――ある日



「みんな揃ってるのね。これは一大事かしら?」

「ああ、ちょっとまずい事態になった。話は瑠音から聞いてくれ。」

「浩美は、小屋の中で瑠音と一緒に監視をお願い。」


まずい研究をしている人がいるという話は聞いていたが、ここまで緊迫する事態になるとは。

とりあえず、私は瑠音から事情を聞いた。


「オルタナティブワールドって、知ってるよね?それが、完成しちゃったの。」

「固有結界、だっけ?何が起こるのかしら?」

「このまま何もしなければ、世界の均衡が崩壊する。」

「私たちは、一体何をすれば・・・」

「必死に生き延びるだけです。」


そんな・・・。

警戒態勢を整えていると、涼太たちの話し声が聞こえる。


「オルタナティブワールドが完成したらしい。未完成とはいえ、世界の大混乱は必至。犯罪に巻き込まれないよう気を付けるんだ。」

「涼太、森は大丈夫なの?」

「森なんてまだいい方だ。染井サイドはそれどころじゃないぞ。あらゆる闇の組織にオルタナティブワールドを奪われようとしている。肝心のホムンクルスは逃走中だ。」


どうやら、相当大変な事態らしい。

瑠音が半ば諦めているのも分かる。


「みなさん分かりますか?あちらに魂の量がやたらと少ない人間がいます・・・」


聞きなれない声。でも、一度だけ聞いたことがある。

あの、幽霊が見える少女だ。


「先に気付かれてしまいましたね。初めまして、染井(そめい) 佳乃(よしの)です。」


ホムンクルスが、やってきた・・・!

どうして、ここに・・・?


「浩美、正面から攻めても勝ち目はない。それはさくらを見てきたあなたなら分かるはず。」

「いざとなったら、逃げるしかないのね。」


ホムンクルスは、オルタナティブワールドを作る核。

そんなものがここに来たのだ。何か恐ろしい目的があるに違いない。

そして、ここにはたくさんの人がいる。

いざ攻められたら、犠牲者が出てもおかしくないのだ。


「どこへ向かうつもりだ。」


「牧野宅の桜の木です。そこにいる少女の幽霊に用があります。」


「素直に話すってことは、もしかして協力を求めているのかな?」


「話が早くて助かります。幽霊とのコミュニケーションの手伝いと、治安部隊その他邪魔者の排除をお願いしたいです。」


私は安堵した。

彼女は、私たちを味方にしたがっている。

ここに咲人はいない。桜の木を渡す権利を持っているのは、私だ。


「私の出番のようね。初めまして、内池 浩美と申します。」

「研究所の護衛担当、大橋 瑠音です。」


涼太、玲音、瑠音のほかに、四人の仲間がいた。

見た感じ、四人はそこまで強そうには見えない。

でも、あの幽霊が見える少女。

あれを見てしまったからには、この人達はただものではないと感じてしまう。


「ここで私を殺せばオルタナティブワールドは消滅します。でもそれをしないってことは、国の治安よりも大事なものがあるのでしょうね。」


「生憎俺たちは国から認められてない存在でな。さくらに危害を加えないのなら何だって協力するよ。」


「では、先を急いでもよろしいでしょうか。」


「ああ、構わない。同好会のみんな、お前らはどうする?来るか来ないか。お前らが決めるんだ。」



今回の作戦は、大人数で行われるものとなる。


幽霊とのコミュニケーションを担当するのは、谷崎、糠烏、私、そしてホムンクルスの染井佳乃。

邪魔者への対抗を担当するのが、越村、村上、涼太、玲音、瑠音。


こんな大規模な作戦には参加したことがないし、そもそも私はちゃんとした魔術師ではない。

今は、リーダーである涼太の指示に従うだけだ。




―――牧野宅



道中には邪魔者はいなかった。

だが、桜の木の前に四人ほど怪しい人物がいる。


瑠音が先陣を切ってバリアを張る。

そして、向こうが攻撃する隙に涼太と玲音が突撃する。


瑠音、涼太、玲音、そして越村によって、四人を撃退することができた。

そして、本番はこれから。


染井佳乃が桜の木に近づき、交信を始める。

私は、白の宝石とピンクの宝石の両方を握りしめ、桜の木に願いかける。


「野伊(のい) 千夜(ちよ)・・・」


糠烏が呟く。


「さくら、ここは魂を分け与えましょう。綺麗な魂を得た彼女は、きっと世界を救ってくれる。」

「でも、あの子が魂を得たら、あの世界が完璧なものになっちゃう!現実世界が崩壊しちゃうよ!」

「そうね。その可能性の方が高い。でも、何もしなければ、このまま不安定なままだよ。」


脳にさくらと千夜の言葉が響き渡る。


「糠烏怜理。空っぽの人間。私の敵になるのね。」


糠烏さんが、空っぽ!?

魂が足りていないのは植物と交配して生まれた人間だったはず。

彼女は人間じゃないっていうの!?


「空っぽなのはあなたもでしょ。私たちはさくらの敵を倒せと言われてるの。」


染井佳乃の目的。それは、自分に足りない魂を分け与えてもらうことだ。

そして、さくらの言い分を聞く限り、まだオルタナティブワールドは不完全な状態らしい。

完成に必要なのは、魂。


「怜理、何が起こっているんだ。詳しく教えてくれないか。」

「事が済んだらね。今から戦いが始まるよ。」

「谷崎さん、私たちは離れましょう。」


魂の管理は、私のすることではない。

それに、あのホムンクルスから守ることすら、弱い私には敵わない。

ならば、今はこの件は向こうに任せて、私は私のすべきことをするだけ。


「谷崎さん、あなたは私の後ろに隠れてて。無理に戦闘しないこと、いいね?」


治安部隊が私たちに向けて魔術弾を大量に撃ち込んでくる。

こちらは完璧な形勢ができている。

向こうは、まずその形勢を崩そうとしているのだ。


「みんな自分の身を守ること最優先で!」


玲音が叫ぶ。

越村がバリアを張るが、特殊な軌道の魔術弾がそれをすり抜ける。

村上は、それを体術で破壊する。

あれを破壊するのには相当は技術が必要なはず。

この子、戦闘に慣れているのね。


次に狙われるのは瑠音。

瑠音のバリアには反撃機能がついているので、バリアに触れていない弾も破壊することができる。

それでも向こうの魔術は強く、それさえもすり抜けてくるものがあるのだ。


二発すり抜けてきた弾は、私の刀で正確に切り落とす。

一度体を壊してから動きが鈍ったとはいえ、まだまだ動くことはできる。


向こうの次の攻撃は、上空からのビームと正面からの特殊軌道弾。


「上空からの攻撃は私に任せて!」


瑠音が叫ぶ。

薄く広いバリアが何重にも張られる。

次々破壊されていくはずなので、あまり猶予はない。


越村は前方へのバリアを張り、村上と越村で守りの陣形を作る。


そして、バリアをすり抜ける魔術弾が、数十発飛んでくる。


本気を出すのは久しぶりね。


幽霊になったさくらでも、私の刀に魔術を施すことはできる。

さくらの三本の刃を操ることは、今の私には容易だった。


「まずいっ!」


一発斬り逃してしまった。


「ぐあぁっ!」


谷崎が破壊してくれた。

普通の人間なら破壊することはまず不可能だが、彼はなんとか成し遂げた。

練習を重ねてきたに違いない。


「私も腕が落ちたものね、歳かしら。」


桜の木の方の話し声は、とても緊迫している。

糠烏が、佳乃側につこうとしているのだ。

私が信じるのは、さくら。

植物でもあるさくらは、植物の世界であるオルタナティブワールドについて、誰よりも詳しいと信じている。


「谷崎さん、まずいわよ。糠烏さんが染井の味方に付こうとしてる。フォローをお願い。」


「怜理、お前染井の味方に付くつもりか?正気なのか!?」

「紳介、内池さんの牽制をお願い。私と内池さん、どちらを信じるかは任せる。」


ここは、彼に任せるしかない。

彼が説得すれば、この件はまだ望みがある。


「ちょっと、谷崎さんしっかりしなさいよね。糠烏さんを説得してちょうだい。時間が無いのよ!?」


「時間が無いのはこちらも同じだ。俺はいつでも怜理の味方。まずは怜理より俺の説得をするんだな。」


この件は世界がかかっている。

それは勿論、さくらと私のこれからの人生も、である。

私は、さくらの為なら容赦しない。


「三秒あげる。ここで死ぬか、私に従うか。」


彼は糠烏を見て、考えを曲げる気はない、という表情をする。


「残念ね、ここで死になさい。」


彼に向けて剣戟を走らせる。

彼は、世界の存続を阻む邪魔者。

死んでしまっても、構わないと思った。


「さくら・・・!?何で!」


私の斬撃は、さくらのバリアによって防がれる。

そして、染井佳乃に魂が分け与えられる。


さくら・・・ どうして・・・!?


「浩美が壊れていくのはいやだ。それなら、わずかな可能性にかけたほうがいいと思った。」


私、壊れようとしていたのね・・・。

いつも、さくらの為ならと思って行動していた。

でも、肝心の私が壊れてしまっては台無しだ。




「糠烏さん、私はこれからどうしたらいいのでしょう・・・」


そこにいたのは、まるで別人のような佳乃だった。

冷酷なホムンクルスじゃない、普通の人間のような。


「佳乃、まずは落ち着くのよ。」


怜理が佳乃を抱きしめる。


「私は・・・ 私は・・・! どうして、涙が止まらない・・・」

「いきなり感情を得たから混乱してるだけよ。いまは私の胸で思い切り泣きなさい。」


さくらは魂を分け与えてもらった時、何を感じたんだろう。

まだ小さかった頃だろうから、もう覚えていないかな。


一旦、この状況を皆で話し合った。

オルタナティブワールドは完成し、多大な犠牲が生まれる。

さくらはそれが嫌だったのだ。

でも、さくらは私のことを優先した。


「私は、私の持つオルタナティブワールドを破壊したい。だから私を殺して。」

「佳乃、落ち着いて。今あなたが死んでも訪れるのは世界の混乱、そして破滅よ。」


今破壊したところで、どうにかなる話ではない。

第二、第三のオルタナティブワールドが作られるだけだろう。


「そのオルタナティブワールドさ、もう一つ作れるだろ?なあ、そこの幽霊。」


越村が言った。

そこの幽霊とは、もちろんさくらのこと。


オルタナティブワールドの鍵は、植物と人間の交配によってうまれた人。

さくらは死んだとはいえ、幽霊としてちゃんと存在している。


「オルタナティブワールドを作るのに必要なのは鍵と優秀なキャスター達。染井の場合、染井佳乃と魔術起動装置によるキャスターだったな。」


「とりあえず、一旦安全な場所に移動しないとね。」



玲音の提案によって、私たちは安全な場所に移動した。

今も刻々と、染井による支配が進められている。

急いで助けたいところだけど、急いだところで何も解決はしない。


「あっという間に完成してしまったな。」


瑠音と玲音の魔術によって、基地はあっという間に完成してしまった。

皆の混乱は徐々に落ち着き、平和な雰囲気になってきた。

そんな時・・・。


「なんか揺れてない?急いだから建築ミスかな・・・」

「玲音、これは地震だよ。建築は完璧。」


「ちょっと、揺れ酷くなってない!?うわぁっ!」

「双葉、転ぶなよ・・・」


「皆怪我しないように!」

「バリアを張ったので落下物は大丈夫です!」


間違いない、どこかでとんでもないことが起こっている。

もしかしたら、大規模な殺戮かもしれない。


「恐らくオルタナティブワールドからの攻撃です・・・」


佳乃がそう言うと、雰囲気は恐怖に包まれる。


「これは早めになんとかしないとまずいな。玲音、瑠音は大丈夫だな?あと越村、糠烏にキャスター役を手伝ってほしい。」


「任せてください。」

「人数はこれで足りますか?」


「恐らく足りないだろう。俺と玲音で魔術の森へ行く。そこからなんとかしてキャスターを引っこ抜いてくるよ。」


玲音と涼太は、相変わらず顔が広い。

今回の件、私に何ができるのだろうか。

私は、足を引っ張ってばかりな気がする。

今、私にできることは・・・



―――次の日



「植物研究家、牧野 咲人です。」

「同じく植物研究家で、今回のキャスター役、野伊 晶です。」


「魔術の森の会長、野守(のもり) 宗一(そういち)です。」

「魔術の森のライター、天見(あまみ) 日影(ひえい)です。」

「魔術の森のキャスター、天見(あまみ) 晴菜(はるな)です。」


「基地にこれだけの人が集まるのは初めてだな・・・ こんな狭い中じゃまともに会議もできない。まずは改築だな。」

「それなら問題ないよ、涼太。私が地下に会議室と寝室を作っておいたから。」

「さすがね、瑠音。」


会議が始まり、情報交換や計画についてなどが話し合われる。


今回の計画は、複数人のライターによる魔術の作成と、複数人のキャスターによる発動。

ライターでもキャスターでも無い私は、一体・・・



―――寝室にて



「瑠音は、二つの部屋を兼任するのね。」

「佳乃を一人にはしておけないし、浩美だって心配だからね。」

「もう、気にしなくていいのに。」


今回の計画のリーダーは涼太だが、瑠音も相当重要な役割を持っているように思えた。


「浩美、あなたの役割は分かってるね?」

「えっと、皆の足を引っ張らないように・・・。」

「そういうことじゃなくて。佳乃の心のケアでしょ?」


そうか。さくらも佳乃も似た者同士。

今の佳乃を最も理解できるのは、もしかしたら私かも知れない。


「じゃあ、私は佳乃と寝るから。おやすみ。」

「おやすみなさい。」



さくら、今頃どうしてるのかな・・・。

さくらのことをずっと考えていると、気付いたら眠りについていた。



―――二日目



二日目も、会議をした。

私は聞くだけで、内容はあまり理解できていない。

それでも、佳乃の傍に寄り添っているだけで、佳乃はどこか安心できているように感じた。



―――女子風呂にて



「佳乃、何か考え事?」


おっとりした少女と化した佳乃は、最近良く考え事をしている。


「浩美の胸、大きいなーとか?」

「怜理・・・ 私はもうおばさんだし、双葉のほうが大きいわよ。」

「え?私は太ってるし、浩美のほうが良い身体してるよ?」

「私は、怜理の華奢な体が素敵だと思うわ。」


「あの、私は・・・。」


「佳乃も大きいよね。十六歳相当の成長だっけ?」


「私、もう上がります・・・。」


「こら、怜理がからかうから。」

「怜理ちゃん、ずいぶんとアクティブになったよね。もしかして、谷崎のおかげ?」


遠くで瑠音と隣り合っている玲音が言う。


「そうよ。紳介のおかげ。」

「もう・・・ あんたたちは盛んなんだから。」

「盛んって!玲音・・・。大人のからかいは怖いわ。」


たしかに、怜理は昨日と変わった気がする。

前よりも大人な雰囲気・・・ かな?



―――――寝室にて



「佳乃が咲人と仲良くなったそうだよ。」

「あら、それは良かったじゃない!」

「まあ、ちょっとは警戒を強めといた方がいいかもしれない。」

「そんなことあるわけないじゃない。」


「今日は佳乃は一人で寝たいって。私はここで寝るわね。」

「一人の夜は人恋しくなるのよ。もしかしたら、佳乃はそれが狙いなのかもしれないわね。」

「なら、尚更警戒を強めるべき。」

「咲人と晶を見てきた私には分かるけど、何も心配いらないわよ。」


見てきたつもりでいた。

でも、本性というのはいつも隠されるものである。




―――三日目、寝室にて



「咲人が落ちたよ。」

「ええっ!?」


瑠音は冗談を言っているのではないだろう。

本気の顔をしている。


「こんな大事なときに、大丈夫なのかしら?」

「今日の時点では、まだ分からない。」

「そもそも、そういう情報はどこから拾ってるの?」

「佳乃から直接聞いてるのよ。」

「さすが、裏リーダーね。」



四、五日目は特に進展は無かった。

あともう少しで壮大な計画は実行に移される。

そんな中だというのに、なんでこういうことが起こるのか。



―――そして、六日目・・・



「晶も落ちたよ。」

「・・・はい?」


今回のはさすがに冗談だ。

でも、ただの冗談ではないように感じる。


「冗談っぽい言い方をしてごめん。咲人と佳乃の関係を、晶が認めちゃったの。」

「なるほどね、あの三人はこれからどうなるのかしら?」

「子供を作るかもしれない、らしいよ。」

「あの人達、ほんと懲りないっていうか、なんていうか・・・。」

「彼らなりに色々考えてるんじゃない?むしろ、経験豊富な彼らなら安心でしょ。」

「経験は豊富でも、性格が性格なのよ?私は安心できないわ。」

「でも、私たちが関わることじゃない。」

「まあ、そうね・・・。」




―――――そして、ついに計画を実行する日がやってくる



騎士達の凱旋のように、大勢で桜の木に向かって歩いていく。

普段なら、周りからしたら異様な光景だろう。

でも、今の世界の状況だと、逆に普通かもしれない。

そもそも、今の世界の状況を知らないのだけれど。


「どこかから作戦が漏れている可能性がある。どれだけの戦力が襲ってくるかは分からない。ライター組と佳乃は全力でキャスター組を守ること。」


スパイは絶対にいない。

裏リーダーの瑠音がそう言うのだから、間違いない。

作戦が漏れるとしたら、盗聴だろう。

建築や防犯魔術は完璧とはいえ、向こうは世界を覆すほどの魔術を使える。

もしかしたら、こちらの情報は全て筒抜けかもしれない。


「全員位置についたな?糠烏の合図で開始だ。」


さくらと公信ができるのは、私、佳乃、そして怜理の三人だけ。

私と佳乃は防衛担当。

怜理はキャスティング担当なので、彼女がスタートの銃声を鳴らす役目となる。


「怜理、こっちの準備はできたよ。」


さくらと怜理で確認を取り合う。

怜理が魔導書を開くと、それに合わせて他のキャスター組全員が魔導書を開く。


「さくらの魔術が準備できました。みなさんもうキャスティングの準備は完了したようですね。では開始!」


周りは緊張に包まれる。


そして、予想通り兵士たちが攻めてくる。

武装をしているが、あれは全員少女だ。

魔術起動装置に最も適正のあるのは、少女。

あれは絶対に、魔術起動装置を付けた集団だ。

相手が誰であるかなんて、今はそんなこと気にしてられない。


作戦通り佳乃が片付けると、今度は魔術武装兵が一気に攻めてきた。

これは佳乃だけではどうにもならない。


涼太が先陣を切り、魔術弾を二本のナイフで斬り落としながら敵陣へと踏み込んでいく。

私もそれに続き、魔術弾と敵を刀で斬り倒していく。


後衛の支援もあり、ライター組だけで相手の膨大な戦力に勝ち抜くことができた。

武術もまだ、捨てたものではない。


キャスター組の詠唱が完了し、オルタナティブワールドが開く。

そして、私たちは急いで中に入る。


これが、さくらの世界・・・!

無限に広がる森全体から、さくらの雰囲気を感じ取ることができる。

あまりに幸せすぎて、狂いそうになる。


「新世界へようこそ。」


千夜の声だ。

千夜、こんなに小柄な子だったのね。

まあ、五百年以上前の子だから当然ではあるけど。


「あら、千夜さんじゃない!さくらはどこにいるの?」


「さくらは霊体なので、この世界に受肉した時点でオルタナティブワールドと現実の出入り口は塞がれてしまいます。」

「え?じゃあ、さくらは一生現実世界で一人だっていうの!?」


さくらの世界が現実世界の秩序を守り続けなければ、現実世界は崩壊してしまう。

でも、そのためには、さくらは一生一人でいなければいけない。

どうして、どうして!世界は私たちを引き裂くの・・・!?


「そういうことです。さくらとの交信は私、あるいはこの世界樹を通じて行えるので、さくらを独りぼっちにさせないであげてくださいね。」

「そんなこと言ったって・・・ さくらは・・・ ううっ。ああああぁっ!」


私は涙を抑えられなかった。

大切なさくらが、世界の神という玉座に縛り付けられるのだ。

ただでさえ孤独なさくらは、声でしか私と繋がることができない。


「俺と玲音と千夜と野守会長はオルタナティブワールドを守る。他のメンバーは作戦通り染井の研究所に向かってくれ。」


私も行かなければいけない。

たとえこの身が犠牲になろうと、さくらが守りたかった世界を守るため。


オルタナティブワールド内では、不思議なことに私も魔術を使えた。

最強の魔術の防護を手に入れた戦士達は、染井の研究所へ突撃する。


佳乃を先頭に邪魔者を潰しながら向かい、研究所に無事到着する。


「良い?入り口が一番危険だから、そこを全速力で駆け抜けるの。入ってしまえばこちらのものだよ!」


玲音の言葉に続き、皆で全速力で駆ける。

入り口に近くなるにつれ、敵の攻撃力は指数関数的に上がっていく。

私たちができるのは、避けながら突進するだけ。

いざとなったら、私たちが盾になる。

佳乃さえ守り切れば、世界に平和が訪れる。


「怜理、危ない!ぐぁっ!ううっ!」

「紳介、私はいいから佳乃を守りなさい!」


私も体中が抉り取られたが、なんとか生きている。

そして、キャスター組によるものすごい風圧によって、入り口を突破する。

もう体の機能はほぼ成していないが、痛みなんてどうでもよかった。


枯れ木の森に着いた私たちは、即座に全員が自身を治癒する。

誰一人死なずに、生き残ることができた。


それにしても、枯れ木の森・・・

さくらの世界は、緑が生い茂っていた。

ここは、未だに不完全な世界なのだろう。


敵が迫ってくるが、佳乃の強力な魔術によって粉々に砕かれ、塵となる。


「神に逆らうなんて、随分大層なご身分じゃない。」


佳乃は、世界樹の前に立つ男を睨みつける。


「よう、我が娘。父を裏切り父を殺す、か。最期に言いたい言葉は・・・ そうだな、失敗しかない人生だった。」


「失敗しかない、ね。でもお父さんのホムンクルス生成は成功した。私に命をくれてありがとう。でも、あなたは死ななければいけない。多くの人を苦しませた罪を償いなさい。」


その技術が誰かから流れてきた情報だったとしても。

制作に関わった人を支配していただけで、何も成し遂げられなかったとしても。

佳乃にとって、父は父であることに変わりは無かった。


「てっきりホムンクルス研究を憎んでいると思っていたが、違ったようだね。一つでも成功があれば、それは素晴らしい人生だ。」


「私は命を授かって幸せだった。私に直接お父さんを殺すことはできない。だからこうする。」


世界の理さえ覆す世界樹が、佳乃の自由を縛る。

でも、彼女の実力は半端じゃなかった。


天から振ってくる漆黒の槍が、世界樹を破壊する。

世界樹の反発により、ものすごい暴風が起こる。

染井はもうどこかへ吹き飛んでしまったが、私たちは無事。

瑠音がバリアで守ってくれているからだ。


「急いで、早くここを出ないと閉じ込められる!」


「永遠」の核と、「永遠」から作り出させる最強の魔術。

世界樹と佳乃の激しい戦いは、佳乃の勝ちだった。


現実世界に戻った後、オルタナティブワールドの入り口は閉ざされる。

その後、私たちは即座にさくらの世界へと向かった。



「出来る限り自然は壊したくないから、建物は最低限しか用意しない。要望があれば、いつでも言ってくれ。」


私は世界の均衡を守る仕事以外、ずっと部屋に引きこもっていた。

さくらと会話しているのだ。


「浩美、ちょっと一人にさせて。」

「ごめんね、さくら。私は仕事場に戻るわ。」

「いつでも繋がれるのはいいけど、肉体がないから離れたいときに離れにくいよね。」

「そうだね・・・。いつか、さくらがこっちに来れる日が来ればいいんだけど。」

「それは来ないよ。私は神だもん。じゃあ、ちょっと離れるね。」


そもそも、さくらとこうして話せるだけで奇跡なんだ。

永遠など存在しない。

それはもう過去の言葉。

オルタナティブワールドの世界樹は、無限の魔力を持っており、永遠の象徴でもある。


私は、確かに永遠を求めていた。

でも、いざ授かってみると、それはとても長くて。


こんなの、私には扱いきれないものだった。

それでもさくらと適切な距離を何とか保ちながら、私は生き続けた。

さくらが望んだ「世界平和」のために、必死に仕事をこなした。




―――24年後・・・



「牧野達の研究が成功した。ついに、桜の木は永遠の存在となる。」


桜の木が永遠の存在となる。

つまり、さくらは永遠の孤独となるのだ。

桜花の守り人が世界の均衡を守り切れなくなるまで、さくらは孤独に縛られ続ける。


今までと、何も変わらない。

私はもう五十二歳。気が付いたら、もうこんな歳だ。

今回の件も、もう何の感情も沸かなかった。


「佳乃?随分と成長したわね。」

「浩美、今はあなたの力が必要なの。今こそ、さくらを解放するのよ。」


さくらを、解放・・・?


「植物の延命治療は、世界樹によって絶対に妨げられるの。」

「世界樹は、永遠を願っていないのね。」

「だから、私たちは決断した。現実世界と、この世界を分断する。」

「つまり、さくらは孤独じゃなくなるってことかしら?」

「その通り。さくらは分断を拒んでるから、説得してほしいの。」

「分かったわ。」


私の死んでいた目に、微かな光が宿る。



「さくら、あなたが神の立場を背負う必要なんてないのよ。」

「でも、私がいなくなったら、何十億もの人間が死んじゃうんだよ。」

「何十億もの人間は、本来死ぬべき運命だったの。それを、さくらが引き留めているだけ。もう、正義の味方はやめよう?」

「私は・・・。」

「今からでも遅くないわ。さくらは、せめて私たちが死ぬまででも、幸せに生きてほしい。」

「うっ・・・ぐすっ・・・。浩美、私は・・・!」

「二人の幸せのためなら、世界一つだって犠牲にする。今までだって、そうやって生きてきたでしょう?」

「うん・・・ ぐすっ。私は、浩美と一緒がいい!うわああああぁっ!うぅっ。」

「泣いてるのに、今のさくらには背中をさすってくれる人もいない。でも、それももう終わりよ。」

「浩美、私、行くよ。」



世界は分断された。

私たちにとっての現実世界は、今のさくらの世界。

元々あった現実世界は、空想でしか考えることのできない、ただの仮想世界になってしまった。


「浩美、ごめんね・・・!うぅっ・・・」

「さくら、思いっきり、泣いていいのよ・・・!ぐすっ。」


二人で、今までの辛かったこと全てを流すように、思いっきり泣いた。

そして、全てが始まった。


数十年もの愛の歴史は、新たな時代へ。


「私が死んでも・・・ さくらは生き残るのよね・・・。」

「大丈夫だよ、浩美。千夜も佳乃も美咲も永遠に生き続けるの。そして、動物たちと仲良く暮らして、いずれは人間が生まれて・・・。」

「その時は、新しい愛を紡いでいいのよ、さくら。」

「それはしないよ。だって、私は神様だもん。」


こうして私の世界は、幕を閉じるのであった。

ついに完結しました!

設定資料集はしばらくは完成しない上、公開をやめることにしたので、完結済み小説となります!

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました!

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