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第三話「永遠の桜」

唐突に思いついた展開があったり、六話分のプロットを三話にまとめたりと色々あって遅くなってしまいました。すいません。

「植物の延命治療、お父さん達に認められたよ!これで、私たちの生きた世界は守られるね。」


色々あった人生だけど、なんだかんだでこの世界ありきだった。

それは美咲にとっても同じだろう。


「なんか、色々美咲に任せっきりで悪かったよ。僕も強くならなきゃ。」

「そんな、無理しなくていいの。私は元気だから大丈夫よ。」

「本当に?あんまり心の余裕が無いように見えるけど。」


美咲は研究熱心なのだが、どうも研究に生きる意味を求めすぎて余裕が無いように感じてしまう。

それがモチベーションの向上に繋がるのはいいことなのだが、世界がかかっている研究が一息ついたのだ。美咲には一休みしてほしいところである。


「たしかに研究に必死すぎたかもね。でも、それ以外に生きる意味をあまり見出せなくて・・・」


どうすれば美咲が心変わりするのかは分かっている。

でも思い切って踏み出すことができない。

彼女を抱きしめる勇気があればいいのに。


「この研究は一旦終わりなんだからさ、ちょっと遊ばない?映画でも見に行こうよ。」


今の僕にできるのはこれくらいだ。

お食事でもよかったのだが、いい場所を知らなければ会話が続く自信もなかった。

僕と美咲はどちらかが告白して付き合っているわけではない。

でも実質カップルみたいな関係だ。当然と言えば当然だが。


「いい気分転換になりそうね。何の映画を見に行くの?」


気分転換なんて一時的なもののつもりはないのだが。

それはこのデートではっきり伝えるべきだろう。

あの作品の原作を読んだ僕だから分かる。

これは最高の思い出になるということが。


「最近流行ってるファンタジーアニメ映画だよ。『我が幻想の君は真実』って作品。」

「聞いたことないタイトル・・・ でも辰巳が言うんだから面白いんだろうね。」


魔術の進化によって漫画、アニメなどの文化は大きな影響を受けた。

年々上がり続ける作業効率により一時期は作品の濫造が起きたが、それも落ち着き現在は作品のストーリーが重視されるようになっている。

作画技術が限界と言えるほどまで向上したのだから、ストーリーが重視されるのも当然である。

今回僕たちが見に行く作品は、小説界の新人の作品が映画化したものだ。

熟練した脚本家たちが占める業界だが、金やコネで成り上がってる人が多いのも事実。

そこで目を付けられるのは完全な新人である。

ダイヤモンドの原石を見つけるのは大変な作業であるが、それだけのことをする価値があると考えている人も多い。

売上だけを考えたありきたりな作品を作り続けても売上が伸び悩むだけなのである。


僕はこの作品には新鮮味を感じた。

基盤の設定自体はありきたりなものなのだが、細部の設定や展開にとにかくこだわり続けている。

基盤の設定が奇抜な割にありきたりな展開の作品が多い中、それだけで読む価値がある作品だと感じたのだ。


何と言っても、美咲の置かれている立場と作品の世界観が似ているのだ。

これを機に美咲の心が変わってくれるととても嬉しい。


暗闇の中、映画館のスクリーンにただ宣伝が流れ続ける。

絵が飛び出る3D映画や、VRメガネをつけて実際にその世界に入る機械もあるが、この作品にそういう過度な刺激は合わないと思っている。

小説でさえあれだけの世界観を想像させてくれたんだ。こういう古風な表現方法のほうが想像力を掻き立てるに違いない。


「そろそろ始まるね。ワクワクしてきちゃった。」

「うん。美咲も楽しそうでよかった。」


完全に僕の趣味の作品のため美咲がどう思っているか分からなかったが、楽しそうでなによりだった。

きっと、彼女はこういう刺激をずっと求めていたんだろう。


この作品は夢を題材にしている。

主人公の男はある日夢の中に自分の理想の少女が出てくる。

そしてその少女は主人公と共に戦い、主人公を含む六人の幻想によって生まれた人間の中で勝ち残った幻想が現実世界に行ける、という設定だ。

このあらすじだけではただのありきたりな作品なのだが、これがただのバトルロイヤルではないことはすぐに分かる。


まず、主人公とその幻想が最初に見つけた相手は戦う気が無かったのだ。

当然戦う気がないキャラクターも存在するだろう。

でも、その理由を聞くことによって視聴者はこの映画に一気に引き込まれることとなる。


夢の中のバトルフィールドでは幻想でいられた人間たちは、現実世界に行くことで幻想ではないただの人間になる、という設定。

それが意味することは、幻想だったものは本当の自我を持ち、性格までもが現実的になり本当の現実と化す、ということだ。


幻想によって生まれた人間たちは普通、あるじの戦う気を損なわないように真実を知りながらも隠し続ける。

それでも真実を主に伝える必要があったのは、幻想を追い求めた先に何もないことを知っていたからだろう。


この作品は幻想達と主との関係性、そして幻想達の生きる意味について書かれた作品なのだ。



美咲という四分の一が幻想でできた存在。そして彼女が生きる意味。


映画の主人公の幻想は見事に戦いに勝ち残り、現実となる。

凛々しくて強い女騎士だった幻想は、なんの変哲もない一般人となる。

女騎士として生きていた幻想は生きる意味を失いかけるが、共に戦った主人公に寄せていた好意は幻想ではなかったのだ。

だから、病弱な主人公を守るために現実を生き続けることを決意する。


「私は、辰巳のために生き続ける・・・!」


僕の見た原作通り、衝撃の展開の連続による高揚感、そして作品に込められたメッセージがちゃんと再現されていた。

映画が終わって一息ついたので、近くで食事をしながら雑談していた。


「美咲にあの映画気に入ってくれて良かったよ。」

「辰巳、口開けて。」

「ん?」

「あーん。」

「美咲はこういうの結構好きなのかな?僕もするよ、あーん。」

「美味しい。なんか、私だけ幸せになってるじゃない。」

「あの映画見て分かったしょ?美咲も幸せになるべきなの。」

「そうね。これからは研究だけじゃなくて、もっと他の幸せを探していく。」


しばらく話していると、連絡が来た。

桜の延命処置の結果だ。

それを聞いて、幸せな食事の雰囲気は一気に壊れる。


「世界の守護者が妨害したって、どういうこと!?」

「桜花の守り人側が延命処置を拒む理由は分からないな・・・ とりあえず、現地に行こう。」


俺たちはすぐに食事を片付け、桜の木の元へと向かった。



―――桜の木のある家


「植物が延命処置を望んでいないみたいなの。だからさくらは植物の意思で魔術を使わされて妨害しちゃう。」

「佳乃さん、植物の意思で魔術を使わされるって、どういうことですか!?・・・美咲?」


美咲の表情が険しくなっている。


「私もたまにあったよ。私の意思じゃないのに植物達に無理やり魔術を使わされること。」

「私も美咲も、そして世界の守護者のさくらも。植物との交配によって生まれた人間は、人間でありながら植物でもあるの。だから植物の、世界の理に逆らえない。」


そこに咲人と晶が話に加わってくる。


「あとな、さくらは世界の守護者になってから、ずっと桜の木に縛られて自由を奪われ続けてるんだ。もう、選択の時は来てるのかもしれない。」

「美咲、辰巳くん、この世界を捨てなければ、さくらは救われないの。僕たちはさくらを救いたい。」


大切な一人を選ぶか、大勢の平和を選ぶか。

もし僕が美咲の自由と引き換えに大勢の人が平和になることになっても、美咲を選ぶに違いない。

それに、さくらは美咲の従姉なのだ。


「僕はかまわないよ。さくらは美咲にとっても大切な人だから。」

「辰巳は今の現実を捨ててもいいの?大切なものとかはないの・・・?」

「そりゃあまあ親がまだいるし、兄だっている。僕の大切な人達には申し訳ないと思うけど、これは僕の人生なんだ。僕は美咲を選びたい。」

「本当にいいのね?そこまで言うなら後悔なんてさせないくらい幸せにするわよ。お母さん、さくらを選ぼう。」


こうして、美咲と佳乃は交信を始める。

二人は何も話さずにただ精神を集中させる。

僕たちは見守るだけしかできない。

交信が終わると、二人は残念そうな顔でこちらに向き直る。


「ごめん辰巳、さくらを説得できなかった・・・。」

「さくらちゃんは本当に優しい子なんだから・・・。彼女は一番大切な人とさえ触れ合えずに何十年も過ごしてるの。これでが最後のチャンス。さくらの大切な人を呼んでくるわ。」


そう言って、佳乃はオルタナティブワールドに入っていく。

しばらくすると、もう五十はいっているであろう女性が出てくる。


「あなたがさくらの大切な人・・・?」

「辰巳くんね。私は浩美よ。さくらとはもうすぐ四十年の付き合いになるわね・・・」


四十年。そんなに長い間彼女たちは愛を紡ぎ続けたのだ。

まだ十九歳の僕には、四十年も付き合い続けるとどういう関係になるのかは分からない。

でも、この四十年で歴史が大きく動いたのは間違いない。

子供を作れない同性愛の彼女達でも、世にかけがえのないものを残したのだ。

俺と美咲が現実世界から離れても、きっと新たな世界で歴史を紡げるに違いない。


浩美はピンク色の宝石を手に、さくらと公信している。

十分は経過しただろうか。浩美の交信が止まった。


「さくらを説得したわ。みんな、いいのね?向こうの世界に行ったらもう二度と現実世界に戻ることはできない。」


全員の意見が一致して、みんなでオルタナティブワールドに移住することを決定した。

親族に挨拶に行こうか悩んだけど、今更伝えることもない。

これから別の世界で過ごすことになって、現実世界は崩壊するなんて言える自信がなかったのだ。


僕と美咲、咲人、晶、佳乃がオルタナティブワールドへ行き、最後にさくらが来る。

さくらは幽霊なので肉体がなく、現実の植物からの干渉を受けない。つまり幻想の存在なのだ。

幻想の存在のさくらは、自身の幻想の世界であるオルタナティブワールドに行った途端、オルタナティブワールドは完全な幻想と化してしまう。

だから、さくらが自身のオルタナティブワールドにいった時、幻想と現実は完全に分断されるのだ。


今までに経験したことがないくらい澄んでいる空気を吸いながら、この世界の説明を受ける。

この世界では植物と公信できる者のみ、植物から魂の供給を受けて永遠に生きられるらしい。

世界樹という神にも等しい木の力によって肉体を得ることも可能だ。

つまり、五百年前に桜の木の下に埋められた千夜とさくら、佳乃、そして美咲が永遠の命を得ることが可能となる。

今までは現実世界の平和を守るために生きていたが、その世界が無くなったに等しい状況なので、新たな生き方を見つけなければいけない。

自分たちだけで子孫を繁栄させるのは難しい。

かといって、ホムンクルスを作って繁栄させるのも倫理や治安の問題上、現実的ではない。

僕たちがすることは一つ。今ある命を最後まで楽しみ、永遠に生き残れる者だけ残り、動物達が生まれた後の世界の秩序を守り続ける。


オルタナティブワールドの広さは、研究した結果三次元空間内では無限大に近いものか完全な無限大らしい。

光速を超えられない以上、最果てへ行くことは不可能なのだ。

この世界は宇宙そのもの。

元の世界との違いは強力な魔術が簡単に作れるか否かだろう。

もしかしたら、今まで俺たちが住んでいた宇宙も、誰かが作ったオルタナティブワールドだったのかもしれない。

この世界には植物があるので、植物の意思次第で動物が生まれる。

動物の進化が続けば人間も生まれるだろう。

一人の力が強すぎる世界の秩序を守るのが千夜、さくら、佳乃、そして美咲の役目だ。


「美咲、僕がいなくなっても寂しくないように、たくさん思い出を作ろう。」

「もう、辰巳はすっかりかっこよくなっちゃって。これは将来に期待ね。」

「美咲のおかげだよ。美咲がいたからここまで頑張れた。ここまで強くなれた。」

「ありがとう。私が元気になれたのは辰巳のおかげなんだからね?二人で成長してきたの。」

「そうだね。それじゃあ、ある程度生きる準備ができたら、海で水遊びでもしよっか!」

「この世界なら辰巳の病気もないもんね、思いっきり遊ぼう!私結構泳ぎ得意なんだからね?」



美咲は俺がいずれ死んでしまう事なんて恐れずに、俺と笑顔で遊んでくれた。

恋人が死んでも永遠に生きなければいけないなんて、とても辛いことだろう。

でも、そんなことを考えるよりも今を楽しむことが大事なんだ。それを美咲も分かっている。

だから、僕も美咲をできるかぎり助ける。


全ては新しい歴史のために。

これで三章全て完結です。残るは外伝二作。

外伝を書くことで物語に深みを持たせたいので、ラストスパート頑張ります。

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