第二話「小半桜の少女」
今回は地の文がメインです。
「私のお母さんは半分桜のホムンクルスなの。だから私は四分の一。」
美咲の父は植物研究家でありライターの牧野咲人。母は半人半桜の佳乃。
つまり、美咲は桜のクォーターなのだ。
そして、美咲の母である佳乃の魂は混ざりもの。
美咲の父の咲人は母の佳乃と野伊晶に愛され、咲人は佳乃と晶を愛している。
佳乃と晶の仲もいいので、親が三人というのは成り立っている。
元々は咲人と晶のカップルだったのだが、花と共に人生を過ごしてきた咲人は佳乃に惹かれてしまう。
これだけならただの浮気の前兆だったのだが、なんと晶がそれを認めてしまったのだ。
咲人が晶を愛し続けるのを知っていたからこそ、晶は二人の関係が壊れることは無いと思った。
認めた理由として、当然過去の経験もあるだろう。
晶も子供が欲しかったのである。
成り立っているのと認められるのは別の話だ。
小学生の頃は周りの人からただの優等生と思われていたが、中学生になり家族構成の噂が流れ出すと皆美咲を避けるようになる。
信じられない話だが、二人の父の咲人と晶は過去に全く同じ過ちをしていたというのだ。
それでも本物の愛によって生まれた子供がそれを否定することは無かった。
美咲は自分で自分の生きる意味を考え続けたのだ。
美咲の親達は愛という生きる意味を見つけた。
でも美咲には恋人はおろか友達すらいない。
思春期の美咲にとってそれはとても苦痛であった。
そんな美咲を救ったのは魔術の研究。
学校と勉強以外のほとんどの時間はライターとキャスター、そして根源の研究に費やした。
それでも辛いことには変わりなかった。
親にも見せずに一人泣き、必死に孤独を耐え続けた。
高校に入ってから友達はある程度できたが、表面上の関わりだけで本当に信頼できる人なんていなかった。
だから美咲は結局自分の生きる意味や能力の使い道を見いだせないまま高校を卒業することになった。
親はそんな美咲を気にかけてか、夏目魔術学院を勧めた。
夏目魔術学院のパートナーシステムは素晴らしいものだった。
入学そうそう周りの人間関係が築かれていく。
異性のパートナーを求める人が多いため、カップルが大勢出来る。
そんな中、優等生の美咲は当然注目される。
注目されるということは、当然あの噂も流れるわけだ。
それでも悲劇のヒロインというのは人気なもの。
大勢の無責任な王子が寄ってくるのだ。
ファッション感覚で寄ってくる女子、見た目で寄ってくる男子。
そんな人をひたすら断り続けた美咲。
当然美咲を理解しようとした者も現れる。
でも自らの全てを犠牲にしてまで美咲を守れる奴なんて誰一人居なかった。
美咲には当然後悔もあった。
完璧なパートナーなんてありはしないと。妥協をするべきだったのではないかと。
美咲はまた孤独になる。
夏目魔術学院は魔術の根源の研究に力を入れている。
最近流行りの研究ではあるが、学生がするような研究ではない。
一部の優等生しか理解できないような内容だからだ。
でも美咲はそれを研究すると決めた。
自分が優等生だから。
こんなに辛いんだから、いつまでも謙虚でいる必要なんてない。
美咲は優等生のパートナーを求めた。
でも優等生というのは中々に賢い奴ばかりだ。
自らの人生を擲ってまで美咲と組もうなんて人はいなかった。
だから美咲は一人で研究するしかなかった。
―――美咲、出会いの日
あの本さえ、あの本さえ読めれば・・・
久しぶりに私はあの本に挑戦する。
そこに現れたのは気弱そうな一人の男性だった。
美咲は彼が優等生であることは当然知っていた。
無意識に彼を避けていた私であったが、案外悪くはないのではないかと思った。
彼はすごかった。この本を理解できるだけでもすごいのに。
彼はあの噂を知っていながら私を受け入れてくれたのだ。
でもこんな弱そうな人が私を守れるのだろうか。
それは一週間関わって分かった。
彼は間違いなく私を守ってくれる。
何よりも、彼といると妙な安心感があるのだ。
心を預けてしまいそうな安らぎ。
いや、預けるべきなのかもしれない。
今まで誰にも頼ることができなかった美咲にとって、本当に必要なものは知っていた。
一般的な女子が好きな男のかっこよさ、それとは違う強さ。
それを理解した美咲は少し優越感に浸った。
彼に心を預けたい。でもどうすればいいか分からない。
「今まで辛かったでしょ。強がらなくていいんだからね。」
私はその言葉に思わず涙してしまう。
そんな私を彼は優しく抱きしめてくれた。
涙が止まらない。
私の方が身長が高いせいもあって、何か情けなく思えてくる。
でも今はずっとこうしていたい。
辰巳はいつも優しい。でもそれに飽きることなんてない。
辛いのはもう嫌だから。孤独はもう嫌だから。
優しさで私をただひたすら満たしてほしい。
「僕さ、美咲の使う魔術を研究したい。」
それは私がずっと望んでいたことだった。
私が桜から受け継いだ魔術は、私の最大の特長。
それを研究したいがために今まで苦労してきたようなものなのだ。
でも、そんな研究は当然結果を出しにくいし、評価もされにくい。
彼はそこまでして私の為に生きてくれるのだろうか。
これが私のずっと望んでいたものなのに、いざ目の前にあると本当に受け取っていいのか不安になる。
でも受け取るべきなんだ。
彼が心からそれを望んているから。
「相当大変な研究になると思うけど、ちゃんとついてきてね?」
「もちろんついていくよ。僕がやっと見つけた生きる理由だからね。」
私が彼を求めているだけじゃない。
彼も私を求めている。
今までこんなことが無かったから、いまいち実感が沸かない。
そんな夢うつつな恋愛模様だが、それは沼のように私を抜け出せなくするものだった。
ずっとこんな時間が続きますように。
私の父と母は私にパートナーが出来、研究部門に移動することをとても喜んだ。
そんな私に教えたいことがあると言われて、たくさんのことを教えられた。
それは、植物と魔術の関連性、そして世界の理に関するものだった。
いつか教えようと思っていたらしいが、なかなかその機会が無かったそうで。
昔は魔術といえば脳で発動するものと言われていた。
それが今では魂で発動するものというのが定説。
でも親達の研究によると、もっと根源に迫ると植物が関わってくるという。
植物同士が交信するために植物が魔力を放出し、それを魂と魔術文字によって魔術として発動される。
その魔力が魔術に変わる原理に植物が深く関わってくるのだ。
世界を裏から操っていると言われている桜花の守り人についても説明を聞いた。
桜花の守り人によって世界の平和が守られていること。
親達が桜花の守り人の拠点であるオルタナティブワールド生成に参加したこと。
そして、植物と人間の混種が生成できるオルタナティブワールドは五次元理論と深く関わっており、我々が住む宇宙と同じ広さを持つという。
それが意味するのは、今我々が住んでいるこの宇宙も誰かのオルタナティブワールドである可能性があるということ。
そして、桜花の守り人が現実世界を捨ててオルタナティブワールドを選んだ場合、現実世界はここではなく向こうになるということ。
現実世界の闇は光へと反転する可能性があるということ。
そして、現実世界を守るためには親達の研究が必要ということ。
私はこの現実世界に生まれてきて、苦しい中必死にもがいて今を手に入れた。
それが無くなってしまうのは寂しく感じてしまう。
それに、世界の皆が必死に受け継いできたものを捨ててしまうのはいけないと思った。
だから私は親を憎んでいた奥底の心を無くし、辰巳と共に世界存続のため研究を続けることにした。
―――でも彼らはそんなものに意味がないことをいずれ知る。何故なら、人間が植物を生かしているのではなく植物が人間を生かしているからである。
生命体は植物から魂を供給されることで生き続けることができる。
無性生殖の場合も有性生殖の場合も同じ。親から受け継がれた魂だけでは不完全なので、植物が放つ魔力を魂として生きていくのだ。
植物が生い茂る場所に行くと気持ちいいと感じるのはそういう理由もある。
人間の魂が魔力と共鳴して魔術と発動する原理もこれによって生まれる。
辰巳と美咲が研究しているうちに半ば気付いていたことだが、世界の守護者といわれる桜花の守り人を統べる人物は晶が産んだ子供だということを教えられた。
その子は既に死んでいるのだが、幽霊でも魔術を発動できる例外があるらしい。
幽霊は本来魔術文字を入力できないから魔術を使えないが、植物との交信ができる場合、植物との魔力の共鳴が霊体が持つ意識とリンクし疑似的な脳の回路が生まれ、魔術文字を入力できる。
要するに、彼女の存在は魔術そのものなのである。
世界の守護者が生まれるきっかけとなった千夜という存在についても教えてくれた。
人間が植物によって生かされているという世界の理は大昔から一部の人間は知っていた。
だから、植物と公信する才能があった野伊千夜は桜の下に埋められ、死後も植物と公信し続けることで死による魂のレベルの低下を防ぎ続け、五百年以上も生き続けた。
そして霊体になっても植物と公信し続けた千代はさくらに魂を分け与えたことで、さくらが無事誕生した。
そして世界の終末についても知ることとなる。本来あと三年で絶滅に向かうはずの人類が世界の守護者によって守られているということ。
今の世界からたったの三年である。
理由は、科学と魔術の急激な進化による兵器のインフレーション。
そしてインフレーションしすぎた力による戦争によりあっという間に滅亡するというのだ。
それは佳乃が語ったことだ。植物との交信で知った情報らしい。
人間は植物に生かされている生き物だから、植物はそんなことまで知っているのだ。
世界の終着点は本来人類の滅亡による文明のリセットだった。
しかし、桜花の守り人が滅亡を阻止している。
このままでは何が起こるかと言うと、人間の更なる根源への理解である。
植物が本来望んでいなかった未来。そこに何があるのかは分からない。
でも、永遠の平和なんて存在するわけがない。
この世に永遠なんて存在は無い。
なぜなら、世界の守護者の命は有限だからだ。
桜の木はいつか朽ちる。
桜の木が朽ちたときオルタナティブワールドは崩壊し、連鎖するように現実世界も崩壊する。
それでも抗う者が存在した。
世界の守護者を生んだ咲人と晶である。
彼らはずっと行ってきた植物の延命研究を形にする。
どこまで延命できるかは分からない。
無限に延命できれば世界の理は人間の手によって書き換わることとなる。
当然、彼らが目指しているのは世界の理への叛逆であった。
「よし、これが成功すればこの研究は終わり。」
「辰巳、あんたほんとすごいよ。辰巳が世界を救っちゃうなんてね。」
「そんな大げさなことじゃないよ。それに、この研究ができたのは美咲がいたおかげ。」
「それもそうね。じゃあ、最後の実験始めるよ!」
辰巳と美咲は世界の鍵となりえるのか。
全ては植物に委ねられる・・・
本来二話から四話までだったはずの話を一つにまとめました。
あんまり長々とやってもしょうがないので。
後一、二話で完結します。




