↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メインストーリーの、そのあとで  作者: 山楽かかし
第1章:月華の誓い
74/74

幕間3:宣戦布告

 大陸の覇権を握る強大な軍事国家、ベスクラウド皇国。


 その中枢に位置する巨大な塔、その一室でリリストーラは、ふかふかのソファに深々と腰を下ろしていた。


 彼女の視線の先には、テーブルの上に置かれた小さな『琥珀の御守り』がある。


 ショウトへ押し付けるようにして渡した物と対になる、魔道具の御守り。


 今、その琥珀色の石が、まるで心臓の鼓動のように温かく、そして力強い光を放って明滅していた。


「……ふふっ。やったね、ショウト」


 リリストーラは愛おしそうに琥珀の御守りを指先で撫でた。


「ショウトの『神器』が完全に目覚めた。あの子、とうとう自分の殻を破って、『神器』の力を自分のものにしたんだ」

「おめでとうございます、リリィ様。ショウト様の成長ぶり、目を見張るものがありますね」


 傍らに控えていた長身の従者、クレスが、穏やかな微笑みを浮かべて祝福の言葉を述べる。


 リリストーラは『うんっ!』と嬉しそうに頷き、自分のことのように満面の笑みを浮かべた。


 初めて会った時はあれほど迷い、人を傷つけることを恐れていた優しい少年が、ついに1つの壁を越えたのだ。


 だが、リリストーラはふと少しだけ目を伏せ、痛ましそうに琥珀を撫でる指の動きを止めた。


「……でも、それは同時に、あの子が初めて『人の命を奪う覚悟』を決めたっていうことでもある」

「リリィ様……」

「本当は、私が修行の一環として、そういう覚悟の持ち方も教えてあげられればよかったんだけどね。……ごめんね、ショウト。安全に守られた環境で誰かに教えられて決めた覚悟なんて、いざという本番の時には一番脆く崩れ去ってしまうものだから」


 痛みを伴う成長でしか、真の強さは得られない。


 それを誰よりも理解しているからこそ、リリストーラは彼を一人で旅立たせたのだ。


「ええ。彼が真に己の足で立つためには、決して避けては通れぬ道でした」


 クレスが静かに頷くと、リリストーラは再び顔を上げた。


 だが、先ほどまでの可憐で優しげな少女の面影は消え失せ、そこには絶対的な権力と暴力の頂点に君臨する、冷酷な支配者の顔があった。


「……でもさ、クレス」


 室内の空気が、急激に冷たく、重く沈み込む。


「ショウトをそこまで追い詰めて、強引に『神器』を使わせた連中。……御守り越しでもはっきりと分かる、あの吐き気のする『瘴気』の匂い」

「ええ。間違いありません。……かつての『邪神大戦』から長きにわたり、我々と暗闘を繰り広げてきた『邪神の勢力』の残党の仕業かと」


 クレスの声もまた、静かな怒りを帯びて低くなっていた。


 リリストーラは琥珀の御守りから手を離し、ギリッと奥歯を噛み締める。


 ショウトが覚悟を決めたということは、即ち、彼が『命のやり取り』という凄惨な状況に追い込まれ、心に消えない深い傷を負わされたということなのだ。


「……あいつら、ずっと大人しく隠れてたから、こっちも後回しにしてあげてたのに」


 リリィの足元から、尋常ではない密度の魔力が黒いオーラとなって立ち昇り、豪奢な絨毯や家具がミシミシと悲鳴を上げ始めた。


「私(・)の(・)ショウトに手を出して、あの子を痛めつけた。……万死に値するよね」

「如何様になさいますか」

「クレス。……ウチの人と、あの子達も呼んどいて。全員ね」


 リリィはソファから立ち上がり、窓の外――はるか遠く、ショウトのいる方角を氷のように冷めた瞳で見据えた。


「御意。ただちに、全員を招集いたします」

「本格的にやり合いたいみたいだね。そんなにやりたいなら、やってあげる」


 リリストーラの唇が、美しく、そしてひどく残酷な弧を描く。


「――戦争だよ。邪神のゴミ共を、この世界から根こそぎ焼き尽くしてあげる」


 ブチ切れた『世(・)界(・)最(・)強(・)』の呟きは、これから始まる血で血を洗う苛烈な闘争の、静かなる開幕の合図だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。