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神速の陰陽師 〜幕末艶武伝〜  作者: 風花
最終章:黎明の風、死神たちの文明開化
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継がれる熱、永遠の黎明

 明治も十年代に入り、東京の街からはかつての戦火の匂いは完全に消え去っていた。

 煉瓦造りの家並みが広がり、行き交う人々の装いもすっかり様変わりした頃。東京の喧騒から少し離れた静かな屋敷には、かつての「死神」凱夜と六人の女たちの、新しい生活の形があった。


「――お父様、見て! 蝶々!」

 庭を駆け回る幼い少年の声に、凱夜は目を細めた。その傍らには、赤ん坊を抱いた夕霧が、慈愛に満ちた微笑みを浮かべて座っている。

 凱夜と彼女たちの間に生まれた子供たち。

 呪われた血筋や宿命とは無縁の、ただただ純粋な「生」の結晶。それは、箱館で土方歳三と約束した「新しい日本」で、凱夜たちが掴み取った最大の勝利だった。

「凱夜、この子ったらまた私の髪を引っ張るんだよ。将来は相当な跳ねっ返りになるね」

 お凜が、自分によく似た面差しを向けて笑う少女を抱き上げ、凱夜に苦笑いを見せる。かつて敵の喉笛を狙っていたその腕は、今や我が子の重みを愛おしそうに支えていた。

 白雪は縁側で、少し大きくなった子供に読み書きを教えている。緋糸は子供たちの着物を新時代の意匠で仕立て、阿と吽は年下の子供たちの面倒を甲斐甲斐しく見ていた。


「……トシ。見てるか。俺もようやく、守るべきものの本当の意味が分かった気がするぜ」

 凱夜は懐から、かつて土方が愛用していた和泉守兼定——そのこしらえを写した小刀を取り出し、手元で弄んだ。

 刀を捨て、家族という絆を選んだ男。

 十年前、獄の鉄扉が開いたときには想像もできなかった、穏やかで騒がしい日常。

「凱夜様、何をぼんやりされていますの? ほら、この子も抱いてあげてくださいまし」

 夕霧に促され、凱夜はぎこちない手つきで赤ん坊を抱き上げた。掌に伝わる、驚くほど小さくて、驚くほど熱い、命の鼓動。

 かつて多くの命を奪ってきた死神の掌は、今、新しい命を育むための温もりを知っていた。

「ああ……いい顔してやがる」

 その時、一陣の風が吹き抜け、庭の桜が舞い上がった。

 かつて京都や箱館で見た、散りゆく命を象徴する花吹雪ではない。それは、巡りゆく季節と、止まることのない時代の息吹。

 たとえ自分たちが歴史の影に消え、伝説の住人になったとしても。

 自分たちが愛し合い、この地に刻んだ「熱」は、子供たちの瞳の中に、そしてこの新しい国の未来へと確かに受け継がれていく。

「さあ、みんな。飯にするぞ」

 凱夜の声に応えるように、子供たちの歓声と女たちの笑い声が重なり合い、春の空へと溶けていった。


 死神の旅は、ここで終わりではない。

 家族という名の永遠を連れて、凱夜たちは光り輝く黎明の中を、どこまでも歩み続ける。


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