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Fランク荷物持ちのバズりキャンプ飯 〜無能と追放され最深部でヤケクソ配信したら、ラスボス神獣が餌付けされました〜  作者: 伊達ジン


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第45話 協賛ギルド・第一回「深淵の美食フェス」

 ズゴンッ!

 重い地鳴りのような音と共に、キャンプサイトの端に構築された『公式食材受け取り用転移陣』が、今日だけで数十回目の青白い光を放った。

 光が収束し、オゾンと冷気が入り混じったような特有の匂いが風に流れると、そこには巨大な氷のブロックに厳重にパックされた、全長3メートルはあろうかという巨大な魚の切り身が鎮座していた。添えられた手紙には、拙い日本語で『北海のアビス・サーモン。最高の燻製にしてくれ! ノルウェー第1ギルドより』と書かれている。


「……おい、ハナ」


 俺は石造りのかまどの前で、フライ返しを片手に振り返った。


「はい……」


 少し離れたキャンピングチェアに座る小島ハナが、胃薬の瓶を力なく握りしめたまま、この世の終わりのような声を出した。彼女の目の前には、世界中から届いた食材の送り状が山のように積まれている。


 ザッ、と草を掻き分ける音がして、森の奥から華奢な人影が姿を現した。

 普段からルーズなパーカーを着込んだ久美子が、自分の体積の何倍もある巨大な麻袋と、厳重に梱包された木箱を重そうに引きずっている。


「……ヒロト。ロシアのギルドから、アビス・マンモスの鼻肉の追加。あと、イタリアのパーティーからバジリスクの卵、30個。それと、ブラジルのクランから幻獣の果実が20キロ……重いから、早くしまって……」


 久美子はそれだけ言うと、ドスンと荷物を地面に下ろし、力尽きたように近くの倒木に突っ伏した。


「俺のアイテムボックス、容量は無限だし時間経過もしない。それはいいんだが、取り出す時のインベントリの検索枠が限界に近いぞ。ここ数日で送られてきた肉や魚の塊だけで、優に100種類を超えてる。スクロールバーを回すだけで日が暮れるレベルだ。マンモスの鼻肉に、ロック鳥の卵、見たこともない巨大なキノコに、得体の知れない香辛料の山……」

「申し訳ありません……。各国のギルド本部も、もはや自国のトップチームを止められなくて……」


 ハナがこめかみを強く揉みながらうなだれる。ここ数日、世界中から送られてくるレア食材の量は、完全に個人の処理能力を超えていた。Sランク探索者たちが意地になり、ギルドの転移ゲートを半ば私物化して次々と獲物を送りつけてくるのだ。


 俺は送られてきた巨大なサーモンのブロックと、久美子が運んできた荷物をアイテムボックスに収納し、大きく息を吐き出した。


「もういい。ちまちま作ってられないし、食材を抱え込んだままにするのは料理人として落ち着かない。全部一気に調理して、バイキング形式にするぞ」

「……バイキング、ですか?」

「ああ。どうせなら、食材を送ってきた連中を全員ここに呼べ。お前らが狩った肉はこうやって食うんだって、直接見せて、食わせてやる」


 俺の言葉に、ハナがガバッと顔を上げた。


「……それ、本気ですか?」

「本気だ。籐子、機材の増設はできるか?」


 木陰で魔道具の調整をしていた籐子が、ゴーグルを額に押し上げて不敵に笑った。


「誰に聞いてるのよ。火力も冷却も、広域で全自動制御するシステムを組んであげるわ。私の魔導工学の集大成を見せてやるわよ」

「よし。じゃあハナ、招待状を送れ。明日の昼、この最深部で『第1回・深淵の美食フェス』を開く」


★★★★★★★★★★★


 翌日の昼下がり。

 深淵の迷宮の最深部は、ダンジョンの底とは思えない異様な熱気と喧騒に包まれていた。

 湖畔の平地には、籐子が魔導錬成で一晩のうちに組み上げた巨大な調理設備が立ち並んでいる。複数の大型かまど、魔力で温度を一定に保つ特大の保温プレート、そして長大な木製のテーブル。

 そのテーブルを囲むように集まったのは、普段はニュース映像の向こう側でしか見ないような、世界各国のトップ探索者たちだった。中東のSランク探索者、カリームが、自前の黄金の皿を手に行列の先頭付近に陣取り、真剣な眼差しでかまどを見つめている姿もある。


 泥や魔物の血で薄汚れた強者たちが、揃いも揃って手渡された木製の丸皿とジョッキを持ち、子供のように目を輝かせて列を作っている。

 俺は巨大なかまどの前に立ち、直径2メートルはある籐子特製の特大パエリア鍋の様子を見ていた。


 たっぷりのオリーブオイルでニンニクと玉ねぎをじっくりと炒め、透き通るまで生米に油を吸わせる。そこに、アビス・キングクラブの殻や魚介のアラから取った濃厚なスープをなみなみと注ぎ込み、サフランを加える。


「よし、炊き上がったぞ。持ってけ!」


 俺が分厚い木の蓋を開けた瞬間、サフランの芳醇な香りと、魚介の濃厚な出汁の匂いが爆発的に広がった。

 黄金色に輝くライスの海。その上には、アメリカチームが送ってきたアビス・キングクラブの極太の脚、大アサリのような魔獣の貝柱、そして様々な白身魚が所狭しと敷き詰められている。

 俺は巨大なヘラを使って、鍋肌のお焦げごとライスをすくい上げ、次々と差し出される皿に盛り付けていく。仕上げに、酸味の強いアビス・レモンをキュッと絞った。


「うっ、美味ぁぁいっ!!」


 大柄なロシアの探索者が、パエリアを一口食べた瞬間に天を仰いで叫んだ。サフランの香りが魚介の生臭さを消し去り、パラリと炊き上がった米が噛むほどに強烈な旨味を放つ。お焦げの香ばしさが、さらに食欲をブーストさせていた。


「おい、次だ! サーモンの瞬間スモーク、切り分けるぞ!」


 隣の調理台では、昨日届いたばかりの北海アビス・サーモンが、籐子の改造した大型魔導燻製機から引き出されていた。

 桜のチップとダンジョン産の香木をブレンドした煙で、表面だけをサッと燻したレア状態。厚さ3センチほどに切り分けると、中心部は美しいオレンジ色の生肉のままだが、表面にはうっすらと飴色の艶が出ている。

 俺はそれに、刻んだ玉ねぎとエキストラバージンオリーブオイル、そして岩塩と粗挽き黒胡椒をベースにした特製のカルパッチョソースをたっぷりとかけた。


「……ッ!」


 それを口にしたノルウェーの探索者が、目を見開いて絶句した。

 咀嚼する口元が微かに震え、手にしたフォークを取り落としそうになっている。燻製の香りと暴力的な脂の旨味に、完全に思考を焼かれているようだった。


「我が国の誇るサーモンが……こんな、全く別の次元の美味さに……」


「おい、卵も焼けるぞ!」


 俺の声に、列の一部がワッと湧き上がった。

 特大の鉄板の上では、久美子が調達してきたバジリスクの卵を30個まるごと使った巨大なオムレツが焼かれている。

 溶いた卵に、たっぷりの生クリームと削りたてのチーズを混ぜ込み、鉄板の上で空気を含ませるように素早くかき混ぜる。半熟のトロトロの状態を保ったまま、両端から折り畳んで巨大なラグビーボール状に成形していく。


「そーれっ」


 巨大なヘラを2本使い、一気にひっくり返すと、表面は美しいきつね色に焼き上がり、中心部はふるふると揺れている。

 切り分けた断面からは、黄金色の半熟卵が雪崩のように溢れ出し、濃厚なバターとチーズの香りが立ち昇った。それに群がったのは、主に女性陣と甘党の探索者たちだ。


「んんんっ! 卵がフワッフワです! チーズの塩気と生クリームのコクがたまりません!」


 エミリアが頬を押さえて蕩けた顔を見せる。


 さらに、俺はその横にある中華鍋で、強烈な火力と共にアビス・マンモスの鼻肉を使った特製四川風麻婆豆腐を一気に仕上げていた。


「こっちは麻婆豆腐だ! 白飯にぶっかけて食え!」


 赤黒い油がグツグツと煮え立ち、花椒と豆板醤の刺激的な香りが周囲に広がる。マンモスの鼻肉はよく動かす部位のため弾力が強いが、細かくミンチにして極限まで煮立てることで、暴力的なまでの肉の旨味が辛味と融合する。

 それを掬って大盛りの白飯に乗せたアジア圏の探索者たちが、額に大粒の汗を浮かべながら「辛い! だけど止まらない!」と憑かれたようにスプーンを往復させていた。


「肉も焼けてるぞ! 止まるな、次へ行け!」


 少し離れた巨大な焼き台では、長さ1メートルはある鉄串に刺された様々な魔獣の肉塊が、炭火の上でじっくりと回転しながら焼かれていた。シュラスコスタイルだ。

 表面の脂が弾け、赤々と熾る炭に落ちてジュワッと煙を上げる。肉が焼ける暴力的な匂いが、周囲の空気を支配していく。


「そこのお前、皿を出せ」


 俺は焼き台の前に立ったエミリアの皿に向かって、表面がカリッと香ばしく焼けたベヒーモスの肉を、巨大なナイフで削ぎ落とした。味付けは岩塩と粗挽き黒胡椒のみ。シンプルな味付けが、上質な赤身の旨味を最も引き立てる。


「いただきますっ!」


 エミリアがフォークで肉を刺し、大口を開けてかぶりつく。分厚い肉の繊維が断ち切れ、溢れ出す野性味あふれる肉汁が、塩気と合わさって暴力的な旨味となる。


「あっ、エミリアずるい! おじさん、私にはあっちのワイバーンの脂が乗ったところをお願い!」


 ユジンが隣に割り込み、皿を突き出す。彼女の手には、ちゃっかりと持参した真っ赤な特製激辛ソースが握られていた。


「ほらよ。かけすぎて元の味がわからなくなるなよ」


 俺がワイバーンの胸肉を削ぎ落としてやると、ユジンはたっぷりと激辛ソースを絡め、恍惚とした表情でそれを口に運んだ。


 少し離れたテーブル席では、クロエが私兵たちに肉とパエリアを運ばせ、自身は最高級の白ワインのグラスを傾けながら優雅に舌鼓を打っている。

 足元のハクは、自分用に用意された巨大な木桶の中で、様々な肉の切れ端とパエリアが山盛りになった「特製魔獣丼」に顔を突っ込み、一心不乱に尻尾を振っていた。神話級の魔獣の威厳など、ここには欠片も存在しない。


「ぷはぁぁぁーーっ!! 最高っ!!」


 そんな喧騒の中、一際大きな声が響いた。

 見れば、小島ハナがジョッキを片手に、顔をほんのりと赤くして満面の笑みを浮かべていた。

 彼女の目の前には、籐子が組み上げた『無限冷却・全自動魔導ビアサーバー』が鎮座している。アイテムボックスから直結された樽のビールを、魔力によって氷点下ギリギリまで冷却し、きめ細やかな純白の泡と共に注ぎ出す悪魔の装置だ。


「ハナさん、完全に仕事忘れてますね……」


 少し離れた木陰で、ジンバルに固定したカメラを回しながら琴美が呆れたように呟いている。だが、その琴美の手にも、しっかりとパエリアとシュラスコが山盛りにされた皿が握られていた。彼女もまた、撮影の合間にちゃっかりと限界オタクとしての至福の時間を味わっているらしい。


 俺は次々と肉を削ぎ落とし、空になった鍋に新たな料理を仕込んでいく。

 各国の強者たちが、泥だらけの顔をほころばせ、ジョッキを打ち鳴らして笑い合っている。言葉の壁すら越えて、身振り手振りで「美味い」と伝え合う姿があちこちで見られた。それだけ見事な喰いっぷりを見せられれば、料理人として文句のつけようがない。


★★★★★★★★★★★


 宴の熱狂は、数時間が経過しても全く冷める気配がなかった。

 天井の疑似太陽がゆっくりと高度を下げ、代わりに周囲の岩盤に自生する青白い発光苔が、本物の星空のように淡い光を放ち始める。

 満腹になった者たちは湖畔の草地にごろりと寝転がり、あるいは酒を片手に穏やかな夜風を楽しんでいる。エミリアとユジンは食後のデザートとして俺が焼いたバウムクーヘンの残りを巡って小競り合いをしており、クロエは満足げにハクのブラッシングに精を出していた。

 久美子はといえば、早々に自分のテントに引き上げ、膨れたお腹を抱えて泥のように眠りこけている。


 宴の熱気と莫大な魔力が交錯するキャンプサイトから少し離れた、静かな湖の底。

 青白い発光苔の光すら届かない冷たく漆黒の水底で、分厚い岩盤が音もなくスライドした。

 泥がゆっくりと舞い上がり、その隙間から、ダンジョンの自然物とは明らかに異なる黄金色の人工的な光が、一直線に水面へと伸びていく。

 微細な泡が、静かに水面へと昇っていった。

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