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10月10日に何が起こった?  作者: 力丸あかね


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1/10

めざめ



「けんか別れはしたくなかったけど、いままでありがとう、ほんとは一番言わなきゃないけない言葉はやっぱり「いろいろごめんね」かな じゃさよなら」

白い霧の中に消えていく誰か、奥からまぶしい光線がやってくる

うぁ~まぶしい・・・・


「うう」

「あれココちゃん、気が付いた?今看護婦さん呼んでくるからね」

え~何?看護婦さん? ここは病院なの? 私どうしたの?

少しずつ目を開けて周りを見回す、白い室内、点滴が見える。病室らしい、なんで? ここはどこ? 体が重い。

やがて早い足音が聞こえて白衣の看護婦が私をのぞき込んだ

井馬いまさん、気が付きました?わかりますか?」私は少し顔を傾けて

「はい」と小さな声で答えた。

「よかったですね、ご主人。さっそく検査室へ移動しますね」

ご主人? この人私の配偶者? 私結婚してるんだ。で、私ってだれ?


私はいつの間にか車椅子に座って診察室の中にいた。後ろにはご主人と呼ばれる人が立ち、先生の話を一緒に聞いている

「MRIの結果はひとまず安心というところでしょうか?ただご本人は記憶喪失があります。でも、これも徐々に取り戻していけると思いますので、焦らずリハビリをやっていきましょう。」

「先生退院は?」

「そうですね、一日様子を見て明後日には、リハビリは明日から始めましょう」

「ありがとうございます、よかったねココちゃん」

と私をのぞき込んだが、私はまだ現実を受け入れられず、ぼんやりした霧の中にいるのだった。


病室に戻ると「ご主人」が今までのことを話してくれた。

「1週間前に脳梗塞で倒れて、ず~と寝たきりで意識が戻らなかったんだ、よかった、一時はどうなるかとすごく心配して、これで安心、またプールに行けるようになるといいね。今日は帰って洗濯やら掃除やらで退院の準備しとくよ。」

私はほぼ無表情でその人の言うことを聞いていた。

「プールって?」

意外にも質問はそこ?という感情は自分の中にあった。もっと聞くことがたくさんあるだろうに。とぼんやりした頭でも自分に突っ込みを入れた

「毎日行ってたじゃない? ほらバタフライが泳げるようになって熱心だったよ」

「バタフライ? 私が? 泳げるの?」

「そう、やっと25メートル完泳したんだよ、倒れる前の日、ちゃんと見てたよ」

私がバタフライをねえ~にわかに信じがたかった。水泳なんてあまり興味がなかったので、自分のこととは思えなかった。もしかして私は違う世界に例えばパラレルワールドにリープしたのかもしれないとさえ思った。

「家に帰って水着とか見れば思い出すよ。それにプールに行けばもっと思い出すかもね」

プールか、行ってたんだ私。どんな水着だろう。

でも、検査から始まって、自分の事、周りの状況、一日の情報量としては私にはまだきつかった、疲労感が押し寄せてきた

「ふ~ちょっと疲れた」とベッドに上半身を起こしていたが、布団の中へもぐりこんだ

「そうだね、じゃ僕は帰るよ。明日また来るから、なんか食べたいものある?」

「食べたいものねえ」何も浮かばなかった

「私何が好物だったの?」「う~ん 覚えてないな、チョコかな」

「ふ~ん、チョコねえ、いいや別に食べたくないから」

「そう、じゃあね」

とご主人という人は帰って行った。


病室の天井を見ながら、私は誰なんだ? ココちゃんって言ってたけど、なんで?

それにあの夢みたいな別れのシーンなんか現実味があったけど、だれに別れを告げていたんだろう

プールにバタフライ、全然覚えていない。

ところで私は今何歳なのだろう?




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