二人目の男
翌日、午前中に簡単な歩行のリハビリなどをこなし、ご主人という人が来て少し話して「午後はマンションの理事会だから、夕方また来るね」と言って帰っていった
昼食を済ませた頃に、知らない男の人がやってきた。
「やあ、久しぶり、大変だったんだって、ダンナから電話貰って、ちょうど上京してたから寄ることができたよ。今夜はまた田舎に帰らなきゃならないから・・・」
背の高い、同じ年頃の白髪頭のこの男性は、私のことをよく知っているらしく、口調がタメ口で友達のようにフランクだった。
だれなんだ?
「あの~あなたは?」といぶかしげに尋ねると・・・
「そうかやっぱり記憶喪失って本当だったね、オレ北条だよ、高校の同級生
お前さんのことは結婚前からの知り合いだし、今も月に一度メールを交換して近況報告しあってる仲だぜ」
北条? 思い出せない? でもこの顔はどこかで見たような親しみさがあった。
「ねえ、そりゃそうと早く思い出してくれないとヤバいことがあるんだよ」
「ヤバイ事?」
「そう、パソコンのメールチェックした?」
「ううん、ここにないけど、私パソコン持ってるの?」
「あれあれ、そこから・・・こりゃ大変だ」
「大変って?」
「あのさ、今から話すことしっかり聞いてね、オレその事伝えにわざわざ来たんだから、オマエさんの将来と夫婦関係が壊れるかもしれない重大なことなんだよ」
何やら私に大きな運命のカギが握られているようだ。
少し感情が戻ってきているようで鼓動が大きく聞こえる
その男は周りを見回し、椅子をベッドに近づけると、私にささやくように衝撃なことを言い放った。
「オマエねえ、不倫してたんだよ」
「えっ私が」
「そうオマエが、ダンナにはバレてないようだけど、だから帰ったらすぐにメールチェックして、場合によっては削除した方がいいかも」
余りにも唐突な申し出にびっくりするばかり、私が不倫?
うそでしょ。誰と?
[私が誰と、あなたと?」
「ちげ~よ」
「誰なの?」
「名前は知らね~よ、オマエはいつも「かの君」でメール書いてくるから」
「・・・・・・」返答に困る
『かの君』っていわれても、それでなくとも不倫なんて重要案件、今この状況で言われても理解が追い付かない。
どうしよう、私ってそんな女なの?自分が恐ろしくなる
急に私に課せられたタスクが重大過ぎて支えきれない
「でもなんで、あなたが知ってるの?」
「オマエがメールで送ってきたから」
「私が?」
「先月の近況報告でさ、自慢してたよ。乙女みたいにさ」
「えっ私が?」
「ああ、だからさ。家に帰ったらすぐメールをチェックしな」
「どうしよう、私ってそんな女なの?」
「いやふだんは真面目、でもプールでアドバイスしてもらって、メルアド交換してメールで毎日やり取りしてたら、恋しちゃったって、書いてあった」
「え~私が?恋した?誰に?」
「そう、オマエが誰かさんに」
「はずかしい~そんなこと。で、私その人と・・・その・・・・どこまで・・」
「まだ会ってはくれないとか書いてあったけど。最後のメールはなんか別れる決心して長文を送り付けたとか・・・・そのあとはどうなったかオレも知らない。」
そんな大それたこと私が?と信じられなかったが、このなれなれしい男友達がいうなら本当なんだろう、でも信じていいのか?
「あの、私とあなたは仲がいいの?」
「そうだ、男女を超えた友情でもう40年以上なんだかんだで続いている。オレの結婚式にも2回来てくれたしな」
「2回?あなたって今何しているの?」
「定年でカミさんの実家の田舎でお百姓さんやってる、思い出した?」
「全然。でもいい人なんだよね、私の味方?信じていいんだよね」
「ああ、オレが唯一の友達らしいぜ、オレもガンで入退院繰り返してたから、今はメールだけだけど、以前は年に数回会って飲んだりしてた。お互いウォッチしていてオレが先に死んだらオレの女性遍歴を書いて本にするって言ってたし。覚えてない? 覚えてない方が都合いいけどね」
「はあ~、とういうことはあなた女たらしなの?」
「ちげ~よ、博愛主義者、さびしがり屋の博愛主義者ってオマエが言ってたぜ」
「そうなんだ」
私ってなんだかヤバイ立場なんだと悟ったものの、さてどうするべきか、それに誰なんだろう、プールの「かの君」って・・・・・早くパソコンにアクセスしなきゃ
友情熱い北条君が帰った後、天井を見つめてあれやこれや考えていたら脳が活性化されたのか、白い霧の世界から一気に重い現実に戻った。
ところどころジグソーパズルのピースがくっつき始めた
翌日大きく重い使命を背負って退院することになった。




