始動、異世界探偵 4
確かにその対象は、ゲームや深夜アニメ、ましてやR18キャラに有りがちなヤケクソ的爆乳ではないにしろ、服の上からでもわかるそれなりの大きさを誇っておられるお胸であった。決して口には出せないが、少なくとも由美や真鈴よりかは上回っていたというのが光一の判断である。
その辺りも小……いや少女2名のジト目強度に影を落としていたとしても、何ら不思議ではない。
「避けられねぇよ、あんなの! 鍵外してドアノブに手を掛ける寸前に突撃されたんだぞ! おれは免許皆伝の体術使いでも剣術士でも無ぇ、ごく一般的な男子高校生なんだ! そんな器用に避けられるかっての!」
とは言え、ちょっと嬉しがっている自分を否定しきれない光一くんであった。なにせ童貞軍団垂涎の、美しくもふくよかなお胸に顔が埋まってしまったのだからして。
しばらくの間はこの経験をオカズに……いや記憶に纏わりつかれそうだ。
少し開けてしまった上着。押し付けられた目前のたわわ自体の焦点はボケてはいたが、脇からお胸の始まり付近にあった二つ並んだホクロがやたらとエロく感じてしまい、強烈に脳裏に焼き付いた。
たしか、お胸のホクロ占いと言うのがあったはずだが、上方脇側のホクロの運勢ってどんなだっけ? などと以前、ネットの海で見かけた情報が何故か脳内で掘り起こされた。
「さて、まあ、その辺りはともかく……」
平蔵が割って入る。とりあえず仕切り直し。
「昨日の今日、どころか同日中の昼の夜でこの騒ぎ、こりゃ一体全体どういう風が吹いているのか? ご説明願えますかな王女殿下?」
「え! な、なぜ、それを!?」
「情報源は明かせませんが、信頼に足る筋から聞き及びましてね? 間違いないですよね、王女殿下?」
「お、王女はお止め下さい! 今も誰かがどこかで聞き耳を立てているかも!」
「はい、では今まで通りヘレナさんと。しかしながらヘレナさん? 今夜のコレは、その辺りが原因だ、以外に考えられないワケでしてねぇ?」
「は、はぁ……」
「追手って、あなたの行動やエミリーさんの存在を良く思ってない連中かしら?」
「いえ、違うと思います。おそらくは父の手駒……密偵かと……」
「なんだよ? 今回の事って、王様が黒幕かい?」
「そ、そう言う訳じゃ! 多分、彼らは父の命を受けて私を連れ戻しに来たものと……」
「ふむふむ。あなたの父上……国王陛下も妹さんの件は、何らかの思惑が王宮内に蠢いていると、その辺はお気づきで?」
「はい、おそらく気付いておられると……」
「あなたが巻き込まれないように、連れ戻しに来たって事かな?」
「多分……」
ふーっ。顛末を聞いて平蔵が小さいが深くため息をついた。予想外のファクターが次々と積み上がっていく。
「あの、更にご迷惑をお掛けする事になりそうで申し訳ないのですが!」
「はい?」
「私をしばらく……いえ、妹が見つかるまで、こちらで匿って頂きたいのです!」
へ?
いきなりのヘレナの申し出に、光一以下4人は文字通り目の中に「へ」の文字を描きながらお互いの顔を見合わせた。
非公式・お忍びの来訪とは言え、他国の王族を抱え込む?
突然そんな事を言われても! どうすんの? どうしましょう? どないしよう?
おそらく4人それぞれがそんな思いの目線を送り合っていた事だろう。
シオンからの情報で単なる人探しでは終わらないであろう事は承知であったが、ここまでモロに食い込まれるとなると……。
ある程度のスキルと強めの身体能力で、この世界の常人よりかはアドバンテージがあるとは言え、特戦隊から落ちこぼれて苦し紛れに選んだ探偵業である。所詮は素人の集まり。
初っ端からハードルがどんどん上がっていく有り様に困惑は隠しきれない。
とは言え多少、手に余りそうになって来たとしても、そう簡単に白旗を上げる訳にはいかない。
既にこの事務所を借りる家賃、敷金・礼金に相当する保証金や、住居とするための家具類の購入に、王国から支給された支度金をかなり使ってしまっている。
この仕事をものに出来なければ早晩、金策に頭を痛める事になる。来月の家賃云々以前に、食の心配すらしなければならなくなるほどに……
などと光一らが目線だけで逡巡していると、
「もちろん報酬は増額させて頂きます! あと、掛かった実費や経費は別途でお支払い致しますので!」
どしゃ!
ヘレナが抱えていた鞄から革袋式の財布を取り出して机の上に置いた。
勢い余って袋は倒れ、ひもで縛られた口を押し広げて少なくない枚数の金貨がジャランとこぼれ出て来よった。
「「「「!!!!」」」」
この世界に召喚されて約一カ月、街に出て来てまだ十日前後ではあるが、その間に得た乏しい金銭感覚をもってしても予想されるその金貨量は5人全員の支度金よりはるかに多い事は4人とも、一目でわかった。さすが王族!
「ちょ、ちょっと失敬!」
平蔵はそう言うと光一らに目と顎で合図を送り、事務所隣の部屋に誂えた給湯室(その奥に臨時倉庫。従来の倉庫は平蔵の部屋に換装)に集まった。
「なあ。僕らド素人の初仕事にしてはこの案件、いささか難易度が高くなりつつあるんだが……」
光一らは給湯室に入ると、灯りもつけずにお互いの肩を寄せ合った。
それこそ隣の額がくっつかんばかりの、円陣でも組む気かという距離で。
「平蔵さんの懸念はおれも共有している! だがそれを差し引いても!」
「開業してからのこの5日間、日を追うごとに心臓締め付けられてたからねぇ~。手持ちの金子が尽きたらそれまでだったからね~」
「金づる……逃しちゃ……ダメ!」
揃いも揃って4人の目はこれ以上は無いってくらい血走っていた。
襲い来る仕事に対する不安よりも、金銭的困窮への不安の方が身近に感じるのは止むを得ないところかもしれない。普段は物静かな、あの真鈴ですら鼻息が荒くなっているのが光一にもわかる。
つか、鼻の穴を膨らませているのは光一はもちろん、由美も同じ。
軍からの追放、ギルド入会の拒否など将来に対する不安が度重なり、事務所開設で足場は出来たものの依頼案件0の日が続き、金銭的な心配が重くのしかかっている現在、思わぬ報奨にメンバー全員の目の中に¥マークや$マークが浮かぶのも已むを得ないというモノ。まあこの世界、円もドルも通用しないが……




