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冒険者になりたくて 3

 平蔵と由美のボヤキ。光一も安藤らと開拓団に加わった方が正解だったか? とか今更ながら思ってしまう。あちらの方なら、行うべき役割や作業など、段取して貰えてただろうな~などと。

 だが、今更それは後の祭り。

「日本なら、事業立ち上げたろか? てな選択も有るが……こう勝手が分からんじゃなぁ」

「後藤さん、営業やってたんすよね? やっぱ独立願望とか、有ったんすか?」

「まあ、自由気ままにやりたいなぁとかは思ってたけどねぇ。時間とかノルマとか、常に何かに追いかけられてる感じだったからなぁ」

「新たにギルド立ち上げちゃう、って設定も異世界モンではあるあるだね」

「だからアニメ脳から離れなさいって、東ぁ!」

「あの……」

 このところ、定番になりつつある光一と由美の掛け合いの中、シオンが皆の顔色を窺い気味に一つの案を提示し始めた。

「皆さま方ご自身で、新たに看板を立ち上げる……もしも、そう言ったご希望が、ホントにお有りでしたら……」


         ♦

 

「如何かねぇ、この物件。ここなら、概ねシオンさんのご要望に沿ってると思うんだけどね?」

 などと、この一見して事務所っぽい、机や棚まで備えた部屋の紹介をするオバさん。オバさんと言ってもほぼほぼ婆サマに近い印象。

 彼女は両手を広げながら自信満面に、この賃貸物件の評価をシオンに尋ねた。

「う~ん、こんなところかしらね~。ヘイゾウさん、いかがです?」

 一緒に付いてきた平蔵ほか、日本人の面々はキョロキョロと部屋の内外を見分しまくった。

「広さは十分かな? 机とかの調度品がそのまんまってのは有り難いねぇ」

 この物件の大家だと言う、ほぼほぼ婆サマに近いオバさんの説明によると、前の店子も事務所として使っていたとか。そのせいか事務机や簡易な応接セット、書類や本が収められそうな棚も壁際に設けられたままなのだ。

「この階は、ここと控え室だか詰所みたいな部屋が一室と、こっちは倉庫?」

「てか、給湯室……いや、台所っぽいっすね。流しに石窯みたいなのも有るし。でも奥行きはそこそこあるっすよ?」

 平蔵と良介が、奥の一室を覗きながら呟く。

「三階も使って良いの~?」

 と、由美が窓から顔を出して上を見上げながら。

「二階と三階で纏めて契約してくれりゃ家賃は二割引くよ。本来なら一割だけどシオンさんの紹介だからね」

「ありがとうございます。レジオン商会さんの行商護衛もお値打ちに引き受けさせて頂きますわ」

 旧知なだけではなく、ギルドとの取引もあるようだ。持ちつ持たれつな雰囲気が就労経験の無い光一にも伝わってきた。

「んじゃ、ウチ、下の食堂で昼いただいて来るからね。決まったら声掛けてぇね?」

「は~い」

 シオンの返事を聞くと、婆サマに近いオバさんは部屋を出て行った。トントンと階段を降りる足音が聞こえてくる。

 つまりこの建屋は三階建て。一階は大衆食堂(酒場込)で、二階は事務所的な作りで三階は4つの部屋があり、そのまま住み込めるらしい。

 食堂の店主は別に住居を持っており、住屋も事務所も不要なので一階のみを借りているとの事。

「どうです? ヘイゾウさん?」

「まあ、僕たち五人なら十分すぎる物件だね。設備の追加も最小限で何とかなりそうだし……どうだい、みんな?」

「……ホントに……あたしたちで、事務所を……立ち上げる、なんて」

 相変わらずボソッとした話し方の真鈴。そんな彼女の言に、光一らも思わず苦笑。

 この状況の流れは、先だって光一の言った「自分たちで新ギルドを立ち上げる」という異世界モノでありがちな流れを口走ったところにシオンが食い付いて来たからだった。

 

         


「ギルド……は無理ですが、それに準じた組織なら作る事は出来ますよ?」

「準じた組織……っすか?」

「残念ながら新規ギルドは無理なんです。ギルドを新たに立ち上げるにはギルドに所属して、ある一定の経験と実績を積んだ後に所属のギルドマスターとギルド協会に所属する他のギルマス、最低二人からの推薦が必要なんです。これは程度の低いギルドを乱立させないための措置です。これ以外でギルドを名乗る組織や集まりは、いわゆる『闇ギルド』と言う事になるんです」

「ギルドじゃない、となると?」

「フリーのパーティ、とでも言いましょうか? 闇ギルドに有りがちな密輸品の運び屋とか非合法な事はせず、基本は冒険者ギルドと同じ業務を受ける集まりですね」

「ギルドに入ってないのに仕事とか請け負えるの?」

「ギルドの外注、と言えばイメージして頂けますかしら? 提携パーティ、協力組織と言った塩梅で」

「なるほど。予算が乏しい依頼人がギルドに頼むとギルドの取り分とかで高くなるけど、フリーならその分安くできるって事かな?」

「はい。仲介料は頂きますけど、ギルドの正規依頼よりは幾分割安にはなります。その代わり結果においてはギルドは一切の責任を持ちませんけどね」

「そう言う……パーティ……多い、の?」

「いえ、実は……あんまり居ないんですよね……」

「まあ、ギルドって組織があるのに敢えてフリーでやるってのは、それなりの事情がありそうだもんな」

 なるほど。光一たちのような特殊な事情があればともかく、誰にもケツ持ちしてもらえないフリーの冒険者パーティになろうなんてのはよほど物好きか、偏屈者か? 学生の光一ですら理解できる不自然さではある。と言うワケで、

「あれ? じゃあ、何でシオンさんはそんなフリーランスをあたしたちに薦めるワケぇ~?」

同じく引っかかるモノを感じた由美も、シオンに質問。

「え? あ~、それはですねぇ~」

「都合のいい……下請けが……欲しい?」

「あ、いえ、その~……」

「実入りが、少ない仕事……いわくつきで、正規ギルドが手を出し辛い案件……それらを押し付けられる……手駒が……欲しい?」

 真鈴は通常通り、物静かなままで攻めてきた。しかし、目は思いっきりジト目をくれていた。シオンの額に冷汗が浮かび上がる。

「おやおや、大人しげなJKかと思ったら真鈴ちゃん、けっこう鋭いね~」

 平蔵も軽く感嘆した。彼女の推測は、彼自身も感じていた事でもあるし。

「思惑が有るんなら言っといた方が良いっすよ? お互いがウィンウィンならそれが一番っすから」

 良介の催促。全方位で勘付かれてしまっては、シオンも言葉を選んでいても仕方が無さそうだ。

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