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ラスボス、花の声を聞く。

近づいた窓は微かに開いていた。中から見えないように木の幹を壁がわりにしてこっそり近づいてみると、丁度良い具合に中の様子が見える。

やっぱり思った通り中にいるのは王女達だった。ご丁寧なことにアティ王女以外全員揃っている。全く、女子というものは直ぐにグループになるから。複数で一人を攻撃するのは、一対一で勝負を挑む事が出来ない弱い者がすることだ。

「・・・何だか静かになったわね」

私がどんな華麗な登場をしてやろうかと考えていた時だ。別にそんなつもりは無かったのだが、窓の近くにいたからか部屋の中の会話が聞こえてしまう。もう一度部屋の中に視線をやれば、知的な眼鏡美人が・・・セニアのレベッカ王女、彼女が物憂げな様子で言葉を発したところだった。このままでは盗み聞きになってしまう。が、ここはあえて聞かせて頂こう。盗み聞きは良くないが、私が知りたいのは素のままの王女達だ。私に対して取り繕う態度では彼女達が本当にエディオス様に相応しいかも解りかねるし、普段の何気ない会話からエディオス様への気持ちや、あるいはオスタシアへの第三者視点が拾えるものなのである。いや、私を締め出してる時点で取り繕うつもりもないのかもしれないけれど。まあ良い、さあ、私に心の内を聞かせなさい。




「漸く諦めたのではなくて?思ったより気概が無いわねえ」

鼻で笑うように言ったのはマチルダ王女だ。さっきの侍女の言葉からしても、主犯はマチルダ王女なんじゃないかな。

「・・・ねえマチルダ様。やっぱりこれはやり過ぎですわ」

首を振り柔らかそうな栗毛を揺らしながら言うのがコディア王女。今日もお人形さんみたいに可愛いらしい。これぞお姫様って感じだ。ていうか、やっぱり主犯はマチルダ王女だった。そのマチルダ王女はコディア王女の言葉に明らかに不快そうな顔をする。

「何よ?今更いい子ぶるつもり?」

「貴女がここまでするのを知っていれば最初から止めておりました。これの何処が少しの悪戯だというの?お相手はオスタシアの巫女姫。先々代のオスタシア国王の代よりエディオス王の治世までこの国と共にあるお方です。それにエディオス王は、あの方をとても大切にしていらっしゃると聞くわ」

えっ、何て?

誰が誰を大切にしてるって?

今の一瞬に耳に虫が入ったのかな、変なふうに聞こえたからもう一回言って欲しい。

「長く生きているから何だと言うの?むしろ不気味だわ!老婆でありながらわたくし達と変わらない姿をしているのよ!」

マチルダ王女が癇癪を起こしたように喚きたてる。

「そんな女、陛下に相応しいはずが無いわ!」

えー!?

何か凄い勘違いしてるよマチルダ王女!

何がどうなって相応しいとか相応しくないとかいう話になってるの?

というかそう言うからにはマチルダ王女はエディオス様が好きなんだ!

へえ、そうか・・・いや、良いと思うよ。物好きだなと思っただけだから。うん。

「お前達も同じよ、陛下に相応しいのはわたくしだけ!アジェンダイはお前達の国より強大な国だわ。きっとこのオスタシアをより良くできる。勿論、わたくしも陛下のお役に立つわよ」

「マチルダ王女、貴女が本当にオスタシアの王妃になりたいのなら、尚更彼女に礼を尽くすべきです。先程私の言ったことをもうお忘れなの?エディオス王は彼女をとても大切にしているの」

ちょっと、私の耳の中の虫。早く出て行って欲しい。

「貴女はご存知ないかもしれないけど、オスタシアの巫女姫を暗殺しようとした者は捕らえられた後牢獄ではなくエディオス王の御前に連れて行かれると聞くわ」

「それが何?」

「何故解らないのか不思議だわ、マチルダ。国王自ら動くのよ。その意味が解らないの?」

コディア王女に代わり答えたのはレベッカ王女だ。だけど誰が答えたにしろマチルダ王女の癇癪に更に油を注ぐ事に変わりは無かったようで、今や彼女は羽扇を床に叩きつけんばかりにいきり立っている。怖い。

「わたくしのお父様だってわたくしに何かあればそれくらいしてくれるわ!」

「それとこれとは訳が違うのよ・・・」

レベッカ王女は疲れたように呟く。

私としてはマチルダ王女の凄絶な勘違いはさておき、コディア王女とレベッカ王女の勘違いに物申したい。


確かに私が暗殺者や刺客に襲われた場合、その犯人や関係者はエディオス様の前にしょっぴかれ彼が裁く。でもそれは私が巫女で、彼が国王だからだ。国王と巫女は限りなく対等に近い。まあそれも時代や王の方針によって変わるんだけど、私とエディオス様は一応対等に近い。一応。私も時々首を傾げるけど、対等なはずなのだ。つまり、国王と巫女を同等に国の柱とするならばお互いが密接に関わってくる。私が傷つけられたなら、エディオス様は国を傷つけられたと解釈する。だから牢獄で拷問云々をすっ飛ばしいきなり最高権力者であるエディオス様に判断が任せられるわけであり、私が大切だとか何だはただの勘違いなのだ。とは言えこういう形式は国の柱が二人いるオスタシアだけの特殊なものだから他の国の人からしてみれば国王自ら動くだなんて、と驚いても仕方ないかな。

因みにエディオス様の父王、つまり先代の国王の時私を狙った暗殺者は普通に牢獄にぶち込まれていたから、最近私を狙った暗殺者はいきなり魔王に引き合わされてさぞかし驚いた事かと思う。


それにしてもあのマチルダ王女、大丈夫なのか。年齢の割には思考が幼すぎると思うんだけど、今の彼女にはこの国の王妃は任せられないな。私の大切なオスタシアの未来に暗雲が立ち込めそうでお断りだ。

でも確か王女達には問題があって困るってエディオス様が言ってたな。他の王女はまだ解らないけどマチルダ王女の問題はあの無知加減だと思う。もっと言えば王女としての自覚が足りない。何でエディオス様が彼女を候補者にしたのか解らないけど、彼女は彼が好きみたいだし思う存分自分を美しいと褒めてくれそうだから選んだんじゃないだろうか。有り得そうで困る。

そんな風に私が一人困っていたら、不意に窓が大きく開いた。

「え?」

条件反射的にそちらに顔を向けると、静かな湖のように青い瞳と視線がかちあってしまう。そこに居たのは先程まで一言も喋らず、むしろ微動だにしなかったかもしれないディセルマのエニシダ王女だった。




み、見つかった!

見つかってしまったあ!!

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